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Q & A  1
Q & A  2
加藤郁之進氏講演


坂村健


東京大学教授
坂村 健



どこでもコンピュータへの道

司会(西村吉雄):
  ありがとうございました。大変刺激的でおもしろいお話をうかがったと思います。坂村先生に質疑応答をお願いしたいと思います。ご質問のある方、いかかでしょうか。はい、お願いします。

質問:
  最後に運用上の問題とおっしゃいまして、非常に重要なことだと思いますが、いわゆる情報を入力する操作をしないで、モノ自体に語らせるという方式はいかがでしょうか、作れる可能性として。

坂村:
  情報のですね、入力に関しては最初に誰かが入力しないとダメでして、いろいろな入力の仕方はあると思いますが、たとえばキーボードから打ち込むのもあるし、音声で自動認識するなどありますけれども、モノを作ったときに誰かが一回は何らかの形で入れないとダメです。大体どのくらいの手間がかかるかというと、今インターネットのホームページを作るぐらいの手間です。このユビキタス技術で使っているものも。


質問:
  たとえば先生、大根に突き刺しますと大根自身の中にそういう農薬を使った履歴だとか、あるいは含まれている栄養分だとかそういうものがあるはずですから、それがそのまま不正のしようのない形で認証できるという方式は、考えられませんでしょうか。

坂村:
  難しいと思います。自動的に大根に何にもしないで、今おっしゃったのは、もうできあがった大根に持っていくと、自動的にボッと何にもチップもつけないでわかるかというのは、難しいんじゃないかと思います。かなり大変だと思います。あと、誰が作ったかとか、どういう経路で運ばれてきたかとか、いくら大根自体を調べてもわからないこともあるでしょう。ですからやっぱりこのチップを作るところからやるほうが現実的だと思いますが、研究テーマとして。ただ、大根の実験でも、そうでしたけど日時と農薬のIDと農場のIDを自動的に認識して記録するというように、ユビキタスの技術を使って製造時の情報収集を、相当度自動化することは可能です。そうなると、細かい情報が蓄積されるので、整合性のある偽情報をつくるのはだいぶ面倒になるでしょうね。


司会:
  はい、他にいかがでしょう。はい、じゃあそちら。

質問:
  最後におっしゃったことは、やっぱりすごく重要だと思うんですね。先生ご自身がご提案されている技術そのものは非常に大きな可能性を持っているんですけれども、それをどう、つまりインフラストラクチャーとして、社会のほうでどういうふうなものを用意するのか、ちょっと間違うとやはり管理社会の話につながってくる。
  それは先ほどおっしゃった個人的なプライバシーの問題というだけではなくて、結局誰がどこで何を食べたかがわかるわけですよね、極端に言えば。
  つまり、そのつながっていったインターネットで情報を持っているほうの先の管理の仕方を変えれば誰がどこで何を買ったか、それから誰がどの薬を飲んでいるのか、そういうことが全てわかるというのも可能性としてあるわけですから、そういう場合のインフラストラクチャーのあり方っていうのを、やはり坂村先生の側からのご提案のあり方というのはたぶんあると思うんですね。
  それはたぶん、この武田賞で言っている生活者の豊かさというものをどう考えるかだと思うんですけれども、その辺についてご意見はいかがでしょうか。

坂村:
  今おっしゃったそういう可能性もあります、確かに。誰が何を食べてどうするかという、ただ、現実的には本当にそれをやろうとするのは相当難しいと思います。
  ただやっぱりそういうことに対するガイドラインを作ることは絶対重要で、コンピュータはあくまで道具ですから、たとえば、これは包丁とか車と一緒で、100%安全だなんて話はどこにもなくて、包丁だって便利な道具ですけれども、使い方を間違えれば手も切っちゃうし、殺人の道具にももちろんなりますよね。
  けれども、私たちは包丁を取り入れているわけです。私たちの生活の中に。ですからコンピュータもまったく同じで、自動車もまったく同じ。交通事故の100%起きない車っていうのは無理だと思います、作ることは。

  だけどやはり、運用上のルールとか使い方の教育とか、こういうことやっていい、やっちゃいけないって、いうように私たちの社会に道具が入ってくるわけです。ですからこのテクノロジーもまったく同じで、おっしゃるとおりで、非常に大事なことで、どういうふうにこれを適応するのか、何をやっていいのか、何をやっちゃいけないのか、またこれをどういうふうに社会に取り入れていくのかということは十分話し合う必要がある。

  これは、技術的にかなりいい技術なので、すぐにでも取り入れてもいいような分野もありますが、やっぱり10年かかると言っている意味のもう一つの意味としては、10年くらいかけてこの社会にどう取り入れるのかをゆっくり考えてから取り入れないと、一回取り入れてしまったテクノロジーを変えるのは非常に難しい。

  今のパソコンがそうですけれど、いい悪い関係なく今のパソコンは生活に入ってきてしまってインターネット、これだけウィルスが毎日来て、悪いことも起こっているけど、いまさらやめるとか、後に戻るっていうことはもうできなくなっています。ですから、そういう意味で私はトロンというこのプロジェクトをやっていて、オープンポリシーというのを持っています。研究開発を始めるところから情報を公開するのです。専門としない方にまでいろいろと説明するのです。今までの研究者だと、どちらかというとそんなもの論文を書いていればいいとか、そんなものは関係ないとか、社会に対しての影響なんてそんなことは私の考えることじゃないと、そういう研究者が多かったときもあったと思うんです。ですけど、やっぱり21世紀というのはそういうことはもうダメだと。

  研究が起こったときからできる限りどういうことをやっていて、社会に影響を与えるような科学技術に携わるものは、すべての人が説明する義務があるというふうに私は思っております。私は今東京大学で教育するときにそれを言ってます。説明する責任があると。なぜかというと、発明したり開発したりした人の意思に反して、まったく違う使われ方をする可能性というのは当然あるわけです。それはもうたくさんあります。具体例もたくさんあるわけです。しかも一回世の中でわかってしまったものというのは、発明とか開発した人がコントロールするなんてこともまたできません。

  逆に言えばどういうものがあるのか、自分はどういうものを作ったのかを説明する責任があることを私は言いたい、それが唯一、100%って言うのは、やっぱり無理だと思いますが、私たちができる最大限のことでもあるし、またこれからの世界に対しての私たちの義務でもあるというふうに思ってます。

  そういう意味で情報を公開して、なんと言われようと説明するためにでいろいろなとこに来て、できる限りたくさん講演もしようとしていますし、本も書いたり、テレビや新聞でも、盛んにコンピュータのことを私は訴えてるのは、そういう考えがあるからやっています。よくテレビに出たりと言われますが、そういうことでやってるって言っています。テレビの影響力も非常に大きいですから、説明をしなければいけないです、これは。

  トロンを作ったときもそうですし、今もそうですけど、お金を取っていませんから、私は。トロンはタダなんです。このユビキタスに使っているトロンの私の部分はただです。
  ただ、これに参画するメーカーの方は、産学共同でやっていますから、そういう人たちまでタダにしたら資本主義の世の中がおかしくなりますから。そこはちょっと理解いただかないと。

  東京大学も、月から実はちょっとスタイルが変わってきまして、自分で儲けなきゃいけないようなことを言われています。しかし、ノンプロフィットというかですね、儲けないからできることもあるわけです。武田さんが東京大学に寄付されたのは、非常に感謝すべきことだというふうに東京大学の一教員としても思います。  やっぱりドネーションというか、そういうものが非常に重要で、資本主義社会では、いくら儲けなくてもいいといっても、存在しているだけでお金かかってきますから。



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