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そういうことで、日本で新しい独自のものをやるっていうのは難しく、いろいろと苦しかったときに、武田賞などをいただきまして非常に力がつきました。それで今のユビキタスコンピュータでは結構それをバネにして、新しいこういうモノにコンピュータをつけるっていう研究を世界でも最初にやり始めました。ぜひ今度はアメリカ、アメリカって言われないでっていうふうに思っています。米国はこういうテクノロジーに関して関心がないのかというと、あります。ところが何に関心を持っているかというと、先ほど話しましたように核物質の管理に使うところから始まって、それがずうっとあとを引っ張っているのです。 今でもですね、アメリカが一番興味を持っているのはこのシュリンケージの防止です。この言葉も、シュリンケージというのもあまり聞かれたことがないと思いますが、これは内部犯行によりものがなくなるという、要するに損失してしまうことです。びっくりしたのは米国で私と同じようRFIDの利用を進めようとしている民間の企業で、EPCグローバルというグループがありまして――もともとはMITのオートIDセンターというのから始まったんですけど、そこの技術顧問をやっていますから、喧嘩しているわけじゃないのですが、ちょっと違うなと思ったのはRFIDの利用目的が、シュリンケージの防止なんです。 米国では数量ベースで、20%から30%のモノがなくなるんです。というのは、10個モノを作って、工場から小売店に運ぶときに、数量ベースで3個なくなる。金額のベースで年間320億ドルだから日本円にして大体3.5兆円くらいの損失になると。そのためにこういうチップをモノにつけてシュリンケージを防止するということ、ひいては流通を低コスト化するということに一番重点を置きたいというのがそもそもの始まりなのです。 私は、それは日本ではちょっと違うと思いました。日本でシュリンケージが数量ベースで30%もないですし、金額ベースで3.5兆円もないです。ですから、日本でのRFID利用の目的では、やっぱり一番重要だと思うのは、モノを生産してから廃棄するまでのライフサイクルを追ったり、エンドユーザに安心を与えることです。 その技術こそ今日本で最も開発するべきものじゃないかと思います。食の安全なんかに関しても日本だけじゃなくて、全世界的にも、BSEの話もありますし、いろいろな問題で今関心を持たれています。ぜひ私が今やりたいのは、このユビキタス・コンピューティングでもって安心を与える技術として、世界に貢献ができないかというようなことを思っています。特に非常にシビアに、たとえば大根一本一本につけて、生産してから廃棄するまでのモノを完全にトレースして、追いかけるというような技術を完成させたいと思っています。 よくこういう話になりますと、このチップは一個いくらするんだと言われます。よくマスコミの方なんかはチップの値段の高さのことやプライバシーの問題を取り上げますが、この二点についてちょっとお答えしておきたいと思います。 チップは今いろいろなものがあります。セキュリティのレベルによって、私どものところで作っているチップは暗号回路が入っていて、いろいろと複雑な回路が入っているので、一個はそれほど安くはなりません、それでも100円くらいにはなるのですが。もっと単純なこの小さな0.4ミリのチップは大体今100万個いっぺんにオーダーした場合は10円です。大根は大体百数十円から200円ですから、そこにこんなものをつけたらペイしないと言われますが、それは間違いです、考え方として。それは得するということをまったく計算していません。ここに絡んでくるプレイヤーには、生産した方、集配する人、小売店、エンドユーザ、それから卸を入れると、大体5個、日本の場合の流通のメカニズムですから5人くらいプレイヤーが出てくるんです。それで10円を単純計算で5で割ったとして一人2円ですよね。 私が消費者の立場から考えれば2円払ったことにより、それが誰がいつどういうふうに作ったという情報が見られるのなら払ってもいいっていう方は多いんです、日本だと。不安ですから、いろいろな意味で。しかも流通のコストに関していえば、これをつけることにより流通コストは2割くらいは削減すると言われています。モノを数えなくていいとか、自動的に管理してくれるとか、そういうことを合わせると2割ぐらい減ると。200円だったら40円安くなる、正確に言ったら200-40+10ですよ。そういうことをまったく計算せずに、単に10円増えただけの計算をしてチップをつけるのは高いということになるのですけれど、それは違うんじゃないかと私は言いたいのがまず一つです。 |