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Q & A  1
Q & A  2
加藤郁之進氏講演


坂村健


東京大学教授
坂村 健



どこでもコンピュータへの道

  それともう一つですね、プライバシーに対しても、こんな技術があって、みんなこれを持っていたら後ろからいってかざすと、この人が800円のシャツを着てるとわかるんじゃないですか?と。気持ちはわかりますが、そんなふうにするわけがないですよね。これは電子的に書き込んでいますから、電子的にそれをガードすることだって当然できます。

  技術的に、防ぎにくいのはRFIDをつかって、それが何とはわからなくてもいいから、その人が来るとこのIDが探知できるという手がかりとして使って、このIDを探知したところにはその人がいたのだろう、というようにして行動をトレースされるという可能性があるということですね。これについては確かに10円のチップでは防げません。しかし、これはよく勘違いされますが、電子技術を使った場合のプライバシーというのは、これは、なんというのかな、運用上の問題が非常に多いんです。これはどういうふうに使っていくのかということとペアになっていますから、単に技術だけがダメとか、どういう技術を使うかということの組み合わせと、どう使うかということの組み合わせですから、一概にこの電子チップタグをつけたから全部プライバシーが暴露されるなんていうことはないです。そこも非常に誤解があるように私は思います。

  食料品など一過性のものは安いタグをつけて、常に身に着けるものには少し高くても暗号回路が入って行動トレースできないようにしたチップをつける。それでも、心配なら、はがしてしまえば取れるようになっていればいい。

  今まったくこういう新しいユビキタスコンピュータというものがあって、いかにうまく使うかということが大事です。コンピュータの世界はですね、必ず階段状に上ります。産業的にいうとですね、90年代にパソコンとインターネットの時代に突入したときに、日本はちょっとやり方を間違えてしまったために産業的にはうまくいっていません。

  21世紀になってこういう新しい技術が出て、また新たな時代が来ようとしています。インターネットという軍事研究だったものが、一般の人が使ってもいいというふうに開放されたのがちょうど1990年です。今から13年前です。結局はすぐには行きわたらなかった。10年ぐらいたったところから、一気に普通の高校生、中学生までがインターネットを使って、いろんなことをするようになるまで10年くらいかかります。ですからたぶんこの技術も一般の人たちが本当に携帯電話を買って、家にあるモノにこれをポンポンやるといろいろな情報が出てくるという時代になるまで、やっぱり10年はかかります。

  だからそのときに、どういう過程でこれが行きわたっていって、どういうときに産業構造ができるか。問題点というのも当然あります。問題点はプライバシーの問題でもなく、チップのお金でもなくて、私が思っているのは、一番最初に入れられる情報で嘘を入れられたら、これはもうどんな技術を持ってきてもどうにもならない。たとえば、それは牛肉でもありましたよね。

  もう最初の段階で、別にチップを使わなくても、国産牛肉の代わりにアメリカと書き込まれるとかいうのは、最初の段階で嘘をつかれたらどうしようもないんですね。そうなると、やっぱりこういう技術を適応していくときの運用上の制度で、やっぱり嘘はいけないよと、嘘に対してペナルティを課すとかですね、電子的な情報に入れる嘘もいけないとか、そういう仕組みを今こそ作っていかないと、この新しい技術がうまく使えないのじゃないかと思います。

  それとやっぱり、こういうコンピュータがらみのものは外国から取り入れた技術が非常に多いのですが、こう小さくものを作ったり、組み込みの分野では幸いなことに日本は今結構高い技術レベルにあるので、それをなんとか役に立てて、世界でこういうことをやろうという人たちに役に立つことをやるべきだと、今私は心の底から思っております。どうも長い間ご清聴ありがとうございました。



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