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Q & A
坂村健氏講演
加藤郁之進氏講演


吉川弘之


独立行政法人産業技術総合研究所 理事長
吉川 弘之



科学技術者の役割

司会:
  吉川先生、ありがとうございました。佐々木総長が残っておられたらどんな顔したろうかなと思われるような刺激的な内容もちらっと含まれておりました。  先ほど申し上げましたように、先生方のご都合もあって、全体質疑の時間を取ることができません。それで、吉川先生へのご質問は、今この機会にお願いしたいと思います。ご質問、ご意見、お受けしたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

質問:
  大変示唆に富んだお話をいただきました。ありがとうございます。大変興味があるところで、おっしゃられるその個々のディシプリンを融合させることが、いろいろな新しい知恵だとかをつくっていくんだ、というお話だったと思うんですけど、今産総研で、そういうふうな二種の基礎研究を評価されている。一方で、産官学の問題があり、いろいろな問題があって、先生の今提示されたことをやっていくということが、新しい価値を生み出すというのはよくわかるんですけれども、この日本の社会の中で、なかなかそういかないのは、先生は、その日本の今のアカデミア、あるいは我々企業、あるいは官庁の研究者を含めて、どういうところの弊害を取り除けば、今のような、かなり先の見える、明確な、しかも悪夢を短くできるところに引っ張っていけるのかというのを少し教えていただければと。

吉川:
  それは、本当に一口で申し上げるには難しいことですけれども、いくつか申し上げますが、たとえば一つは制度の問題があります。

  今の制度というのは、科学研究費というものの配分というのが、たとえば科研費というのは、研究者たち自身が判断してよい研究を伸ばしていこうと。そうすると、結局、科学者が判断するということは、すでに存在している大きな領域の科学者のところに大きな金がいくということですから、そういったことだけでは、科学の領域というのは固着的になっていくんです。そういう科学者が自ら判断するオートノーマスな配分というのは正しいけれども、それだけではダメなんです。もっと俯瞰的にみて、現在の科学には何が足りないのかと、さっきガレージのお話をしましたが、ガレージは誰が投資するのかってことです。あそこがもし非常に重要だったら、いわば制度的な決定について、たとえば科学的な配分、科学研究費の配分方法っていうことについても、もっと、非常に深い洞察力をもった一群の集団が存在して、それが配らなければいけないといったようなものでもあります。

  それから、研究者の側にすると、第二種基礎研究というのは、非常に時間もかかるし、論文生産性っていう変な言葉がありますが、論文をつくるときに投資した努力に比べて、論文の数が少ないんです。しかも、書いた論文は、必ずどこかオリジナリティがあるのですが、部分的には誰かが前に必ずやっています。ですから、新しい論文ではないと、場合によっては考えられてしまう。そういった評価の仕組みというのも抜本的に変える必要がある。

  さらに、社会的な問題で言えば、現在ある大企業の構造というのが、いわゆる産業界全体を変えるためマイナス要因になってるんです、大企業って強いですから。ところが、それをどうやって壊していくかっていったら、たとえば、ベンチャーっていうのがあって、ベンチャーというのは新しいアイディアをもって新しい製品をつくれってことだけじゃないんです。そうではなくて、わが国の産業構造というものが新しい起業がどんどん行われることによって、構造が進化的に変わっていく。この変わる過程で、大企業も影響を受けていくというようなことです。産業構造全体の変化というのを認めるような仕組みというのが必要なんです。

  ところが残念なことに、日本のベンチャーというものは、アメリカのベンチャーのようにはいかないんです。今は違うんですよ。私どもがベンチャーやれって若い者にいったのは1970年から80年くらいだったんですけど、大企業なんかに行くな、ベンチャーやれ、なんていったんですけど、ポッと放り出して、追っ払うようにして、研究室から外に出すと、累々たる屍っていうか、成功しても大企業につままれてしまう。そういうことで、社会的な状況なんて全然なかったんですね。アメリカのようにはいかないんだと。

  それはなぜなのか。日本型のベンチャーっていうのは、どういうふうにすれば気持ちよくベンチャーができていくのか。そういった仕組みというものについての探究心というのが、欠けてたと思うんです。日本の社会における産業のベストの姿って、いったい何なのか、アメリカのものを輸入してもダメなんです。そういったさまざまの積み残しというのを我々は持っていて、それを克明に一つ一つつぶしていくことしか多分ないだろうと。

  ですから、産総研のやり方もその一つをつぶすことであり、ベンチャーも実はやってるんですけど、日本型ベンチャーっていうのが何かっていうのも研究している、そういうこともやってます。ただ我々は使うほうですから、配分がもっと総合科学に使うとか。

  今日は話しませんでしたけれど、総合科学技術会議と日本学術会議というのは、車の両輪として存在していて、科学者の声は日本学術会議が聞くし、実際の社会の声は総合科学技術会議というところがよく聞きながら、やっていこうと。これはたまたま図をもってきましたけれど。


  こういう車の両輪、総合科学技術会議というのは研究の配分を決めるところ、日本学術会議というのは科学者が。車の両輪っていうと、どっちがどっちなんだと、両輪っていうと両方一緒に回っちゃうんです、そうじゃなくて、科学者は独立していなければいけない。総合科学技術会議っていうのは、政府組織ですから、そんなのと一緒になるのはまずいといろいろな議論があるので、それじゃ私は独立に自転車にしようじゃないかと、そうすれば働きが違いますよね。前輪と後輪では。





  そして、こういう図を出したんですけれども、ある人がいや、これはおかしいと、お金をもっているのは総合科学技術会議で、頭を持ってるのは日本学術会議ですから、こっちじゃないかと、こういう議論を今さかんにやっている。これはもう、今申し上げたように、日本の意思決定の仕組みというのが非常にまだ幼いんです。そういったことで、まだ政府レベルではこんな議論をしてる。今国会議事堂では実はこの議論が取り上げられていますので、私としてはいい成果を生むんじゃないかと、そんなことで、さまざまなことが必要になってくる。



質問:
  もう一つ、先生、今、学会については、コメントされませんでしたけれど、いわゆる個々のディシプリンの融合が一つの社会的コントラクトから価値を生み出す。そういう理念であれば、今のその学会、いうなれば個々のディシプリンですね、そのかなり分散化されたこの学会の体系化、あるいは将来こういうものが今、先生の理念にうまく、考え方によれば、適うと思うんですけど、日本のこれからの学界のあり方というのはどういうふうにお考えですか。

吉川:
  そうですね、学会というのは昔からあるもので、ヨーロッパにもあるし、アメリカにもあるんです。これは一つの特定の、今日の話の文脈で言えば矛盾な学問体系というものをきっちり守っていく、そこを展開、発展させるという印象は持っているんですね。ですから、ある論文がくればそれが合っているか、間違っているかは学会で判定してくれるというわけであります。もし領域が違うとすれば断るわけです。そうやって、領界というものをつくっていくと、これは正しいと思います。

  ただ現実問題は、会員になりたいという学会がどんどん増えて、今1400もあるんです。これは多すぎるんです。一番小さい学会なんていうのは、100人ぐらいしかいませんから、100人なんていうのは学問の領域というよりはですね、単なる仲良しクラブじゃないかなっていうと怒られるわけです。なんとかして、そういう学会のあり方というのを、もう少し考えなければいけないのは事実ですね。

  ただ問題は、学会はこれもまた今日の話で言えば、個別の領域をしっかりと守り、それを展開させていくものですから、それを今度は知識を使うということについては、一つ一つの学会はあまり関心がないんです。そういうことで、実は工学系が主ですけれども、横断型科学技術基幹研究協会というようなものをつくってですね、今40ほどの学会が集まりました。そしてこれを横関っていうふうに呼んでるんですけど。横関、横断型基幹科学と、こういうことですが。で、そういった学会が40ほど集まって、プロジェクトをしているという話です。

  これはあくまでも知識を使う、さっきのブダペスト宣言のユースオブノレッジという方向性を向いた集まりなんです。しかし、そのユースオブノレッジというのは、ただ単に知識をうまく使うという話だけではなくて、細分化というものに対する一つの問題提起ですよ。どんどん増えて、細分化が進んじゃって、100人の学会が出てくるなんて、そんなものに対するいわば問題提起として存在している。そういった動きもあります。

  ですから学会自身はディシプリンを守るものであるが、それが連携することによって、新しい領域をまた開くということもあるという、そんな運動も起こってますね。

司会:
  ありがとうございました。他にいかがでしょう。はい。



質問:
  今日は先生の素敵な、すばらしいお話をお聞きし、感激しております。  私の質問というのは、先生の今の話に対して、私のような若輩、39歳なんですけれども、若輩に目に見える具体的な施策というんでしょうか、そのような一例を何かご披露していただければ、ぜひお聞きしたいと思って質問いたしました。

吉川:
  いい年ですね。もちろん年齢は関係ないんですけれども、もし、科学技術ということに関心があるのであれば、それはいろんな形で、全ての人にもちろん関係します、全ての人がそれを使うという意味で関係するんですが。研究開発する人もいるし、企業の中で製品開発する人もいるし、さまざまな形で参加しています。

  そのときやっぱり、これはどういうことなのかな。たとえば、私ども産業技術総合研究所では、若者は自分自身の決定で行動しなさいってことなんです。これは企業では、なかなかそういうわけにはいかないんですけど、産業技術総合研究所で3000人の研究者がいるんです、若い人も入れて。まず、人がいて、3000人いるんだと、で、その人たちがやりたいことを言い出せば、それじゃあ、ここは一緒にやったほうがいいということで、組織ができる。人がいて組織ができるっていう原理を、この産総研ではやってるんですね。ですから、非常に小さなところでは10人くらいしかいないし、大きなところでは200人なんていうのもいるんです。

  そういう、いわば自立的に集まってきた人たちが、自分の責任において研究するんです。そのことが非常に大切なことで、もちろん組織そのものが企業ではそんな勝手にはできませんけど、しかし、自分の責任において仕事をするということはどういう場合でも必要になるわけです。で、自分の責任において、できないような仕事だったらその会社を辞めてもいいですし、別の仕事に移るっていうこともあるんでしょう。そうやって自分が負ってるっていう、自己を認識すると同時に、それをどうやって生かすか、これがいわば役割であり、基本的な役割ってのはそういうことですよね。

  今日はいろんな役割の話をしましたけれども、基本的な役割っていうのは自分がもっている、貢献できる素材をどうやって生かすかということに非常にまじめに対決する、それを見つめるっていうことが一番大切なのかなと。

質問者:
  ありがとうございました。

司会:
  どうもありがとうございました。まだ伺いたい方も、たくさんおられるかと思いますけど、先生ご自身の次のご予定もあると、伺っておりまして、これで吉川先生のご講演を閉めさせていただきたいと思います。改めて、吉川先生に拍手で感謝いたしましょう。ありがとうございました。



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