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独立行政法人産業技術総合研究所 理事長
吉川 弘之 |
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科学技術者の役割 |
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さて、それとは別に、世界の最近の動きというのをちょっとこれからみてみようと思うんです。これは主として環境問題の話なんですが、今の話は私のある意味では狭い人工物というか、工学の世界の話をしたんですが、これはむしろ科学者たちが何をしてきたかということなんです。
環境問題というのは、1972年のストックホルムで行われた人間の環境に関する国連会議というのが最初だといわれているように、ここで初めて環境問題というのが非常に強く言われ始めるんです。これは、科学者というんでしょうかね、サイエンティストといっていいかもしれませんが、我々工学というのはもっと古くから人間にとっての行為なんだと考えたんですが、こういうところとまったく連絡はなかったんです。
しかし、歴史的に紐解くと、そういうことが行われている。実は科学者は人間の行為が環境に影響を与えるということに関して、20世紀のはじめごろからずっと警告を発していたんです。それが次第に、議論のプラットフォームに上がってくる。それは、こういう会議もあるんですが、それから十数年たって、この有名なサステイナブル・ディベロップメント、持続可能な開発という言葉をつくり出した。これも同じ国連の会議というものがあり、これは環境と開発に関する国連会議です。ブルンプラントというこの女性は、この後ノルウェーの首相になりましたけれど、そういう人が主催した委員会で、その本は「われらが共通の未来」という翻訳も出ています。「Our
common future:アワー・コモン・フューチャー」です。ここで、そのサステイナブル・ディベロップメントという概念が定義されているんです。
これは非常に大きなインパクトのある概念で、それを受けて同じ名前の、国連会議というものが開かれる。これが例のリオ会議です。地球サミットといわれたリオ会議が1992年に行われるというわけです。ですから、国連の側は、こういう形で次第に人間の行動というものが環境に影響を与えるぞということを、ずうっと一種の公式の話題として出してくるという歴史があるんです。
一方、科学者は何をしていたかですが、科学者はずうっとここにあるようにウォーニングっていうか警告を発していたわけなんですけど、こういった世界の動きを見て、1992年にブダペストで、世界科学会議というものを開きます。これはICSU(International
Council of Scientific Unions)という科学連盟、科学者の世界的な集まりとユネスコの共催で行うんです。ここで、科学はどうあるべきだということを宣言いたします。それはこういった一連の動きに対する一つの答えになっているんです。その後いくつかの動きがあるんですけど。ごく簡単にいうとそういうふうになってる。
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サステイナブル・ディベロップメントというこの言葉は、今はそんな人はいませんけど、この言葉が入ってきたときには、どんどん開発し続けることだと、経済成長は常に右肩上がりだと、このように解釈したんです。そんな話では全然なくて、このブルンプラントの"アワー・コモン・フューチャー"という、本の中で定義されたサステイナブル・ディベロップメントというのは、要するにディベロップメントっていうのは、地球上の3/4を覆うといわれる、まだ科学の恩恵を受けていない未開発の地域、その中には飢餓地域も入ってるし、病気に苦しむ地域も入ってる、まぁ貧困地域。そういったものをいかに救うか、いかに開発によって生活水準を上げるか、これがディベロップメントです。
サステイナビリティというのが、このころすでにたくさん言われていたように、地球のいろんな問題、酸性雨もあり、オゾン層もあり、温暖化もあり、そうやって地球環境を破壊してしまう。ディベロップメントは緊急にやらなきゃいけない。しかし、地球に負担を与えてはいけない。この両者を解く方法があるかという、その解く方法を人類はもっと必死に探さなきゃいけないというメッセージだと思うんです、このブルンプラントの出したサステイナブルっていうのは。ですから、こんな図は描いてありませんけれど、私なりに描けば、サステイナビリティをあげようとすると、それはディベロップメントを抑えなければいけない。維持しようとすれば、ディベロップメントを止めるしかない。ディベロップしようとすれば、これは地球環境を犠牲にしなきゃいけないということで、解の存在はこちら側にしかないということですね。本当はこっちに解が欲しい。解けない方程式になっていますね。解けない方程式というのが実は、サステイナブル・ディベロップメントだったわけです。
"アワー・コモン・フューチャー"にも書いてあるように、それは現在のやり方では解けないんだけども、人類が全力をあげて協力をすればいい。それにはもちろん、政治も経済も国際関係も全ての努力が必要だ、特に科学技術ということが言われたんです。
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それを受けて、ブダペストで1992年に行われた世界科学会議(World
Conference of Science)というのがあって、これはこういう宣言書を出すんです。科学と知識を使うことに関する宣言(Declaration
on Science and the Use of Scientific Knowledge)。そういう非常に意味の深いことです。
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