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坂村健氏講演
加藤郁之進氏講演


吉川弘之


独立行政法人産業技術総合研究所 理事長
吉川 弘之



科学技術者の役割

  私は、工学の世界では、ユテライゼイション・ノレッジというのは一つの大きな分野だと思うんですが、このICSU、ICSUというのは科学者ですから、これは物理学者とか化学者とか、生物学者で、エンジニアリングはごく一部しか入ってない。私はたまたまエンジニアリングの世界の人間で、99年から会長をやるんですけど、そのときにこういう宣言が出されたのです。これは偶然の一致というか、まさに工学と科学というものがマージするということを科学者も考え始めたんじゃないかと思うんです。

  そういうことで、実は非常に似ている問題提起が、すでに科学の世界でも起こった、工学の世界でもあった。こういう状況の中で、


  こういう図式を私は描いてみてるわけです。要するに、先ほどのアワー・コモン・フューチャーという一つの哲学というか、概念を背景にしてこのリオサミット、地球サミットというのが1992年に開かれる。そこでご存知のように、アジェンダ21っていうのがあって、たくさんの行動計画が書かれてる。その中の31章、35章というのが科学技術に関するものなんですけど、先ほどもいったように、科学技術というのはサステイナブル・ディベロップメントということを行うための、非常に主要な役割を果たすプレイヤーだということが強く述べられているわけです。

  これは何かというと、いわば社会の側から科学者に対する一つの要望であったと考えることができます。それに対して、1999年にブダペストに科学者が集まる。
  先ほどの、科学と知識を使うことに関する宣言(Declaration on Science and the Use of Scientific Knowledge)というのは、実は4つのチャプターからできています。科学というのは、人間の行動にとって役に立つ知識を目指さなければいけない。科学は平和に役立つ知識を生み出さなければいけない。それからもちろん、先ほどいった意味での途上国の生活水準の向上という開発に役立つべきだと。特に、社会の中の科学ではそうなんです。

  これは今日の言葉で言えば、生活者のためにということになると思うんですけど。そういう宣言を、このICSUとユネスコの合同の世界科学会議というのはするんです。これを受けまして、実はICSU自身はこの宣言をICSUとして、受けるかどうかという議論を、9月の末に、今度はカイロで行うんです。そこで、私も非常に印象的に残っていますが、会員は学会連合です。科学連合というのはたくさんあるんですが、それが25、それから各国のアカデミーですね、日本で言えば日本学術会なんですが、そういったものが百いくつ集まって投票するんですが、1票だけこれを否定し、残りは全部賛成するんです。その1票が実は物理学会連合だったんですけど、物理学っていうのは科学のための科学っていうのをずうっと標榜していて、そんな役に立つことを考えなくていいっていうようなことをいったんでしょうね。

  しかし、そこで激しい議論になって、その物理学会連合の代表者、これは実はエネルギーの専門家なんですが、その人も最後はOKと認める。ということで、この世界科学会議の宣言をICSUとしても、全会一致で認めようということで決まるわけなんです。


  こういうことが行われたってことは、結果的に要請が1992年に出て、それに対する答えが、科学者から出た、まさにひとつの社会的な契約というものが成立したんじゃなかろうか、ということなんです。社会と科学者との間の一種のコントラクト、というものができたんじゃないかと。

  サイエンス・コミュニティ、科学者のコミュニティと社会というのは契約を結んだ。契約というのは、事実上は、別に紙に書いたわけじゃないんですけど、これは多くの先進工業国、あるいは途上国も含めて、科学研究というのは税金、というか、パブリックなお金で行われるのが一般です。そうなると、科学者コミュニティというのはある種の期待感というものを乗せたお金を使うわけで、その期待に応えるべく、社会に何かを還元しなければいけないんです。こういうループをきちっとつくること、これが非常に大事だということになります。

  で、これはいったい何によってこのループは完結するのか。科学のための科学といっている時代は、基礎研究をしてい人はパブリックなお金をもらっても、ただ論文書いてそれを世の中に出しておけばいい、こういう話だったんです。しかし、論文を書いただけではだめで、それがブダペストの宣言によれば、科学者自身が役に立つ研究を自らしなきゃいけないということです。そこで、実はこのループを戻すやり方には、さまざまなやり方があるんじゃなかろうか。

  そこで、最後にお話しようとする、第二種基礎研究っていうのもそれに関係あるんですけれども、


  ICSU(International Council of Scientific Unions)が、1931年にできるんですけど、非常に古い伝統的な会、組織です。事務局がパリにありますけど、先ほどいったようにユニオンと、アカデミーですね。そういう会でできています。31年の設立から、2002年、これは私が会長をやめるときですね、そのときになると26のユニオンと、98のアカデミーとからなる世界的に非常に大きな会なんです。

  よく考えてみると、インターディシプリンなんですよね。サイエンティフィックユニオンっていうのはディシプリンです。そのディシプリンが26集まって全体で議論するわけですから、まさに領域を超えようとする動きがあります。そして、それが国際的なものに出てきたわけです。

  ユニオンというのは国際的なもので、インターディシプリンなものが集まった。で、こちらはですね、アカデミーっていうのはいろんな学問の人が入っていますからインターディシプリンなんです。しかし、それはナショナル。インターナショナルではない。その両者が合体して、インターナショナルなものをつくったんですから、要するにインターディシプリナリで、インターナショナルだということを、その二重の形で構造化したような構造になっています。ICSUというのは大変おもしろい仕組みで、今科学で何が起こっているのか、一方世界で何が起こっていて、科学者はそれに対して何を貢献しなければいけないのかということを、常時議論する場所であったのです。ICSUはいろいろな助言を国連とかユネスコに出しています。


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