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佐藤哲也


地球シミュレータセンター長
佐藤 哲也



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情報の階層構造に注目:マクロとミクロの住み分け

実際の実験ですと、廣川先生もご指摘のようにダイアグノスティックス(診断法)をどうするかが難しい。これは非常に難しい。 特にぶつけたところでどの辺にどの位の圧力がかかるなんていうのはなかなかセンサーを置いてもわからない。 シミュレーションですとあらゆるメッシュのところに情報が残っていますから、どの辺で加速度がどのくらいだとか、 そういうことがわかりますから設計には非常に役立つわけです。だから、これは非常に大きな自動車工業会に対する貢献だろうと私は思っております。 これぐらいのものはトヨタさんや日産さんならおそらく2〜3台買えるだろうと思います。まだお買いになるというのは聞いておりませんが。

[図33] 或いはナノ物質への応用です。 地球シミュレーターはかなり大きいので100ナノメートルくらいのサイズまで、分子の構造をシミュレーションできますので、 例えばフラーレンからカーボンナノチューブを作るのにどうすればよいとか、その構造や強さがどうであるかとか、 そういうようなシミュレーション研究もかなり基礎的にやっております。

これは先ほど出てきたのですが、タンパク質を棒状にしておいて、水溶液に入れて、ほっとおくとどういうふうに動いていくかというシミュレーションです。 これは名古屋大の岡本先生の結果ですが、おそらく世界で一番大規模なシミュレーションだと思いますが、 αへリックスだとかβシートだとかそんなようなものがどんどん時々刻々できてくるのが分かります。全部描くと大変なのですが、 αへリックスだとか、βシートだとか、ミニマムエネルギーの状態に向かってどんどん進んでいく。そういったようなシミュレーションの結果も出ております。

[図35] ここで、少し、今までのところをまとめてみますと、地球シミュレーターというのは一部分を取り出すこともできますが、 システム全体を取り扱うこともできる。かなり有意なる結果をもたらす形で全体をシミュレーションできることを実証してきました。 それによって未来の気象変化だとか、或いは地震の予測というものがこれまで以上に遥かに精度よくできるような状況が整った。 或いは新しい機械、技術製品、そういったものを作っていく、未来の設計道具としても使える。 そういった革命的なことを、地球シミュレーターが明らかにしてくれたのではないかと思います。

[図36] では、地球シミュレーターがいくつかあれば十分であるのではないのかということになりますが、 次にあるべきシミュレーターというのはどういうものかということを少しお話しして終わりたいと思います。 [図37] シミュレーションというものをより信頼度がおける、本当に未来を見ていく道具として使えるかどうかというには、 どれくらい精度よくできるかということを考えないといけないのですが、精度良くするためにはメッシュの数を増やさないといけない。 解像度を大きくしないといけない。解像度を大きくすれば計算量が増える。計算量が増えれば時間がかかる。 ということで、従来ではどうしても、その持っている能力に応じて解像度、分解能が決まり、 例えば100キロのメッシュで地球を覆うとすれば100キロの中で起こっているミクロな現象ということまでは、 これはもう法則にしたがっては求められないわけです。適当にそれは仮定をしないといけないわけです。 だからバーチャルではなく、最初の舘先生の話だとサポウズ(仮想)になるわけですね。 そういうアサンプション(仮定)をパラメタリゼーションと我々は呼んでおりますが、パラメタリゼーションをやっている限りでは、 ブッシュ大統領みたいに、今言っている温暖化は曖昧だ、あんなものは信じられるかということになる。 それも一つの事実です。非常に細かいプロセスを見逃してますから。 そういう意味ではこれがシミュレーションの一番の難点といいますか、これまでは信頼性がなかったのはまさにここに原因があったわけです。

それで、じゃあメッシュを、例えば大気の雨が降るとか、風が吹くとか、そういったところまでやるとするとどれくらいが必要かというと、 雨粒というのはミリのオーダーです。水蒸気、海から蒸発する水蒸気はミクロンぐらい、10のマイナス6乗メートルぐらいです。 それが大きな上昇気流に乗って上に上がってくると温度が下がってくる。 そうすると水蒸気が凝結をしてくる。 凝結をしてある程度大きくなるとそれらがお互いにあちこちぶつかりながら融合してさらに大きくなって、ミリメートルぐらいになる。 そのくらいの雨粒になると重力で落ちてくる。そういったものはみな科学的な法則で分かっているはずです。しかし、コンピューターでは実は解けない。 地球シミュレーターの場合、1キロメートルとか2キロメートル以下に細かくした分解能では解けないわけです。 解けないとパラメタリゼーションを使うしかない。

それでは解けないのかということになる。 1ミクロンから地球の長さくらい、4万キロ、といいますと10の10乗以上のスケール差があるわけで、 こんな範囲をカバーするコンピューターはいつまでたってもできない。 分子コンピューターができればどうかわかりませんが、たぶんなかなかそこまではいかないだろうと思います。 そうしますと、お手上げなのかというと、私はギブアップをしないでよろしい、自然を見てみましょうと言いたい。 [図38] 自然はのっぺりしたものではない、これが非常に重要なわけです。生命体が一番それを表していますが、階層構造になっているわけです。 階層構造になっているということは、階層のところだけに情報がつまっているわけで、 階層間には情報にあまりないわけだからそんなところは解かなくていいわけです。 情報が詰まっている、それが動いている、それがエネルギーになって物事を動かしていますから、 階層の中で起きている変化だけ注目していればよいことが判ります。













図33
[図33]










図35
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図36
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図37
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図38
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Last modified 2006.6.6 Copyright(c)2002 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.