シンポジウム トップ
主催者挨拶
すすむ氏講演
廣川信隆氏講演
佐藤哲也氏講演
総合討論


総合討論


司会 武田計測先端知財団理事 唐津 治夢

討論 東京大学教授医学部長 廣川 信隆

討論 地球シミュレータセンター長 佐藤 哲也
総合討論



バーチャルリアリティーの世界を目前にして

司会(唐津):
  総合的なディスカッションに入りたいと思います。
今日の課題が「バーチャルリアリティーの世界」ということで、舘先生、廣川先生、佐藤先生にお話を伺いました。

舘先生は、視覚、目でどういうものが見えるかを、ロボット、メカニックの立場から、手がどう動くかなど技術的な課題を工夫されて、 新しい境地を実現しておられます。

廣川先生は、今まで見えなかった細胞の中の分子レベルのお話しで、まのあたりに見せて、こうなんだということを非常に興味深くご紹介くださったかと思います。

それから佐藤先生のお話は、もっとマクロな、例えば地球全体がどうなっているのか、ふだん我々はその中で生活はしているのですが、 実際の動きがどうなっているのかということを、想像はするが、目にできないようなこと、ふだん我々の生活感覚とは離れたところを、 まさに手にとるように見せていただきました。 そういうお仕事を通じて世の中の仕組みを理解して、 それが私どもの日常にどういうふうに係わっていくのかを解明していくというお仕事のご紹介だったように思います。

バーチャルとは何かというと、まったくの仮想ではなく、実際にあるのだけれどもその表現が違うのだという舘先生のお話しがあったと思います。

グラフ(図1)をご覧ください。
図1

そういう言葉が出てくるそもそものきっかけとなったコンピューターの発展についてご紹介します。 これはコンピューターの性能を値段で割ったものが縦軸になっています。 1000ドル当たり、日本円で10万円ぐらいで、どの程度の性能のコンピューターが手に入るかということを示しています。 横軸は年代で、1880年から始まっていますが、当然その当時はコンピューターは無かったのですが、計算上ということで、点線になっています。 グラフは、ずっと右肩上がりの進歩を示しているわけです。

一番右のところにイラストが描いてありまして、一番上が人間です。その次がネズミです。その下はミミズかなにか虫でしょう。 これは何を示しているかというと、そのシンボルの生物の脳の機能、賢さといいましょうか。 それを計算機の世界の処理性能でいうと、だいたいそのくらいのレベルにあるのではないか、 ということを当てはめたアメリカ人がいまして、そこから引用しました。 現在の2000年ちょっとの辺りを見ていただくと、だいたいネズミの辺りに線がいっています。 これは予測でありますけれども、2020年、30年辺りにいきますと、人の脳みそぐらいかなというところに線がいっていると思います。

非常におもしろいことに、コンピューターの性能は、どんどん上がって地球シミュレーターでは640台もの処理装置を利用して、 40兆回の計算を1秒で行う性能というお話でしたが、それは、とても1000ドルでは買えない物なのですが、 このグラフは1000ドル単位のお金で買える形に換算してあって、非常に安価な物が高性能になりますという図面なのです。 これによると2030年頃になると人間の知能に非常に近くなります。もちろんいろいろな仮定があるわけですが、その仮定の中でこういうふうになります。 このくらい技術がどんどん進んで、なにか今まで我々が手に入れることができなかったようなものが手に入った時に、 どのようにこの力を使って世の中を上手に見ていくのでしょうか、というのがここの一つのグラフのテーゼです。 地球シミュレーターのお話というのは、たぶんこのグラフの中のトップモーストのところを上手にお使いになっていらっしゃると思いますし、 これは、たまたまコンピューターの技術のことがグラフにしてあるわけですけれども、それ以外の領域の技術も同じように進歩しています。 それが進んでいくと、先ほどの廣川先生のように分子レベルで見える話になりますし、舘先生の遠隔、三次元空間をメガネ無しで見えてしまうとか、 という話にもなります。そういう技術の発展が我々の日常にどういうふうにリンクして、今まで見えなかったものが現実のものとして見えるようになる。 そして未来も見据えていく、そんなような切り口で、今回のシンポジウムは、構成させていただきました。

  これが私のイントロダクションですが、我々はそう言う風に考えて本日のシンポジウムをご案内させていただきました。 では、とりあえず、まず皆様方の中から、お二人のご講演にご質問があれば、お受けしたいと思います。 (注:討論へのご出席は、廣川先生と佐藤先生のお二人でした。)


質問:
  廣川先生にお伺いさせていただきます。大変小さな現象について詳細なデータを示してくださって、大変驚きました。

KIFは各種いろいろ種類があるとお聞きしましたが、おのおの必要な量のために適時KIFをコントロールしているさらに上位の制御が必要であると思いますが、 それがどのようなものであるかということ。

各KIFにエネルギーを与えるためのATP、それから分解したADP、これが軸索内ではミトコンドリアが働いていないのじゃないかという話があったと思いましたが、 そういたしますと、必要な量のATPを適時に運んで、それから分解したADPを持ち帰る、どこかへ戻すという制御は何がやっているのかなと。

もうひとつKIF3は一本足ということですが、ブラウン運動を使うということ、ランダムな運動をしているわけですから、 なかなかキネシンとの結合に適当な方向に向くというようなチャンスは難しいと思うのですけれども、これは単なる確率の問題なのでしょうか。

廣川:
  いずれも非常に重要なところを突かれたご質問です。

まず一つは、非常に多種類のモーター分子があって遺伝子から言って45種類、タンパク質だとトータルで、その2倍ぐらいあるかもしれませんが、 其の中で例えば神経細胞に特異的に多く発現しているタイプとか、そうでない、例えば腎臓の上皮細胞に非常に多く発現しているタイプとか、 あるいはKIF3のようにあらゆる細胞で発現しているタイプとかの種類が、まずあります。 それからその発現も時間軸のレギュレーションもありますので、幼若の時だけ発現するタイプとか、あるいは成熟したら発現するタイプとか、 最初からずっと発現しているタイプなどがあります。これらは、まさに遺伝子レベルで発現がコントロールされています。 細胞が分化たときに、ある細胞の特別のKIFのスイッチが時間のレギュレーションを受けてオンになる。

同時に外からの、KIFの働きのレギュレーションがあります。、実は、今日はお話ができませんでしたけれども、これからの大事なテーマです。 例えばモーター分子は、自分のカーゴを認識して結合し走り出して終着点にきたときにちゃんとカーゴを降ろさないといけないわけですよ。 そういうレギュレーションがあります。それはKIFとモーターとカーゴの間のタンパク質-タンパク質の結合、例えばタンパク質のリン酸化、 スモールG蛋白を介した制御とかいくつかのタンパク質同士の結合のレギュレーションの機構の可能性があります。それ自体が例えば細胞の外からの刺激を伴う、 カルシウムの流入とか、によってレギュレーションされている。そういうようなタイプのレギュレーションがあります。 こちらは、遺伝子の発現のコントロールを含めて、まだまだこれからの課題です。それが第一番目の答えです。

二番目が、ATPアーゼ、酵素ですからATPを必要とする。それによって方向性、を決定し微小管の一定方向に動くわけです。 これについて誤解があったと思いますが、軸索のなかには、ミトコンドリアがいっぱいあります。そこでATPを作っています。 それからATPの合成系の酵素も軸索の中にありますので、局所でATPはちゃんと作られている。 ミトコンドリアは、ほとんどの細胞のいろいろなところにありますからローカルに、その細胞の部分でATPの合成系が、ちゃんとあります。 そういう意味では、どこでもモーター分子は働けます。

三番目がブラウン運動ですね。それは、最も単純なモーターであるモノマー、一本足のKIF1Aの研究により明らかになりました。 これは、ADP状態では、まったくの方向性のないブラウン運動なのですが,ATPを加水分解する過程を5つお見せしたのですが、 構造変化が非常に起こっているのです。 あれによって、レールとの結合がATP状態ではループ11というものを伸ばしてレールのチュブリンヘリックス11ダッシュという部分を掴むのですね。 ATPを加水分解してADPとPIの状態になると、また最初はループ11が外れて、つぎに遅いADPとPI状態になると、モーターはレールの微小管から離れる状態になる。 そうしてADP状態になるとループ12を伸ばしてレールのチュブリンのC末端と結合して、いわゆるターザンの蔦と手が結合して、それによってブラウン運動をする。 そしてADPが抜けたときに、その後にプラスターの動きが出るのです。 これはおそらく、先ほど申し上げたような、ループ11がチュブリンの側の構造を認識して、前の方のプラス端の方向を掴む。 ステップサイズ、歩幅についてはいっさい言いませんでしたけれども、チュブリンがα、βは4ナノメーター4ナノメーターですので、 ヘテロダイマーが8ナノメーターあるのです。ステップサイズはそれの倍数になっているのです。 ということはレールにモーター分子が強く結合しやすい部分があって、それがどうもプラス端のほうに傾いている。 ATPの加水分解による構造変化によって、先のほうの強く結合しやすいサイトに使われやすい。それにバイアスがかかる。

さらに細胞の中にあるときには、この一本足のモーターは、二本足になるのではないのですが、ひとつのカーゴに複数モノマー、 一本足がくっついているようなのです。そうしますと、ブラウン運動は他の足の存在によって後ろの動きはブロックされる。 だから、どんどん効果的に前の方に進みやすくなる。実際にこの一本足のモーターが私達の見つけたモーター分子の中で最も早いのです。 1.5ミクロン/秒の速度で送ります。 例えてみると、モーター分子を私達の体のサイズにしますと、私達が10トントラックを担いで秒速100メートルで、地球から月ぐらいまでを駆けているわけです。 それで今みなさんの体の中でそれが起こっているわけで、実に驚くべき仕事をしているわけです。

単なるランダムな運動ではないということになります。


質問:
  KIFの質問なのですが、先生が高校生に講演されたときの質問へのお答えについてお聞きしたいのですが。

まず一つお聞きしたいのは、ネズミにどうやってKIF17を増やすことができたのか、人間に対してそれがどういうふうに応用可能なのか。それを教えて下さい。


廣川:
  ネズミに増やすのは、これは今どこでもできる技術になっていまして、いろいろなやりかたがあります。 脳で多く発現するタンパク質、例えばカルモジュリンキナーゼのプロモーター部分を、KIF17の遺伝子のプロモーター部分(遺伝子の発現をコントロールする部分) にくっつけてに、そしてそれをネズミの卵に入れることができるんですよ。 脳だけで発現するように。そのネズミが生まれますと、マーカーとして蛍光蛋白がつけてあり、 ちゃんと発現すると蛍光が発光されるKIF17が発現されるようになっているわけです。 そして脳だけで、ある時期になるとKIF17がどんどん、普通のKIF17プラス蛍光のくっついたKIF17というのが発現できる。 これはあらゆる我々の体にあるタンパク質を、ネズミをモデルにして過剰に発現するマウスとか、あるいはまったく遺伝子の働きをつぶして、 あるタンパク質をまったく合成することができなくなるマウスを作ることもできます。

高校生の質問ですが、それはネズミに卵から入れなくてはならない、例えば我々に、これは仮定の話しですけれども、 KIF17の働きが活性化できるような薬をみつければKIF17の働きを活性化できるだろうし、あとは、生体の中でも、これは危険ですのでやりませんが、 実際に遺伝子の発現を促進するようなプロモーターをくっつけた遺伝子を注入して、注入された細胞群にあるタンパク質を過剰に作ることは現実にできるんですよ。 ただ高校生に言ったのは、この実験結果が示したことは、要するにこういうことだということです。 例えばまったく遺伝的なバックグラウンドが同じ一卵性双生児AとBという子が生まれたとしますね。 Aという子はぜんぜん勉強しないで遊んでいるだけ、Bという子は一生懸命教科書を読んで勉強し記憶して考えているとなったとする。 そうするとやはりBがおそらく記憶力はAより抜群によくなるんですよ。 なぜかというと、この結果は、我々が脳を使えば、やはり頭が良くなり記憶力が良くなるのです。頭を使うということは、局所で見ると、 そのときに使われる神経細胞の中で化学伝達物質が放出されてシナプスで情報伝達が起こっているのです。 情報伝達が起こり、受容体に化学伝達物質がくっつくと、カルシウムの流入などが増加して、今日お話したように、その下流の現象として、 モーター分子や化学伝達物質をキャッチする受容体それ自体の遺伝子の合成も増えるのです。 そうするとタンパク質の合成も増え、また受容体が輸送されてシナプスに組み込まれて受容の効率が上がりますから、ポジティブフィードバックになって、 どんどんよいほうに転がっていくわけです。要するに高校生に言ったことは一番頭を良くするためには勉強しなさい。 これは、昔からこれしか方法はないんだ、変な薬を飲むと、それこそ副作用があるかもしれない。だから現在やれる一番いいことは「勉強しなさい」。 そういうことです。


質問:
  もう一点、確認させて下さい。生まれてしまった人は、勉強するしかないと、しかし受精卵に対してそういう手段を適用すれば、 スーパーマンができる可能性があるということですね。


廣川:
  そういうことです。ただこれは、よほど気をつけなければなりません。というのは、もちろん例えばKIF17を入れると作業記憶などが良くなりますけれども、 ただそれが負に働く、何か障害になるような悪いことを細胞にするという可能性があるわけです。 それは、やはりちゃんとチェックしないと。だからこういうことを安易に使うべきではないと思います。


司会:
  廣川先生の講演の最後のあたりに、シミュレーション的なものが出て、佐藤先生の最後のほうに分子レベル、細胞レベルのコメントがあったかと思いますが、 シミュレーターというのは、現実のデータをメッシュ状に上手にきちんと入れてやる、最初の入力をうまくやって、連係の計算式がわかっていれば、うまく動く。 生物や細胞、分子を扱おうとしたときに、データの入力がうまくシミュレーターに行き渡る仕掛けというのは、今は、うまく動いているのでしょうか。


廣川:
  私は、佐藤先生のお話しを聴いて感激しました。あのレベルであんなに、大気の流れとか海流の温度とかシミュレーションができるとは。 生物で考えますと例えば最後にお話しました、モーター分子がATPを加水分解してレールの上をどういうふうに動くかということですが、 そのデータとしては、原子レベルの解像力のあるX線結晶解析とかクライオ電子顕微鏡でデータを撮った上で、 それを駒取りのようにつなぎ合わせると動きが見えてくるわけです。 出てくる要素というか役者は、限られていて、しかも、確実なデータの上に積み上げられています。それを例えば細胞レベル全体とか、 あるいは個体のレベルまで広げると、その必要とする情報の素子の数が莫大になる。全体の現象を正しく見ることは非常に難しくなる。 生物は非常に多様性がありますから、そういう意味で非常に驚きました。


佐藤:
  廣川先生がおっしゃった通りで、我々ができるのは、物理化学の法則がわかっているとか、電子の状態がわかっているところまでだと思います。 ただ細胞がどういう法則に従っているかということ、そしてシミュレーションに乗るようなところは全然わかっていないわけです。 そういうところを分子レベル、あるいは、もう少し小さな電子レベルでできるかというと、今のコンピューターではとてもできないです。 せいぜいタンパク質までで、そういうものを細胞でやって、細胞の機能まで解明していこうとしたときに、現時点では不可能です。 例えば、先ほどの連結したようなのをうまく使えばできるかもしれない。 しかし、その前に、やはり多様ですから、多様なものの中から法則性があるかということ、細胞のようなマクロに記述する法則性というものは、 現在、観測、実験、それから理論モデル、そういったものが出されている状態です。まだシミュレーションが主役に立つべき時代ではない。 そういった理論モデルが出されたときに多種多様な条件のもとで、このモデルがこの条件ではどうなりますかということで、 試験的な形でシミュレーションが使われる。 生命に関しては、いろんな条件のもとでシミュレーションをして、この理論モデルが通用しますよとなったところで、おそらく生命科学の中で、 細胞の体系というものができあがっていくのだと思います。これができあがったら、シミュレーションが主役で新しいファンクションをどう作っていくかとか、 そういうところに使っていける。我々が気象、あるいは地震のところでやっているような状況になったら、おそらくできるだろう。 だから、今は生命というのは非常におもしろい学問の時代、まさに体系化していく時代。そのためには実験であり、理論モデルだと思うのです。 シミュレーション、コンピューターというのはその支援である。 そういうものが観測、実験、理論モデル、我々が支援することによって体系化されたあかつきには、こういうものができますよ、 ああいうものができますよということを理論体系化されたものに基づいてシミュレーションでやっていく。 おそらくそれは2020年以降であろうと、私は予測しています。2020年ぐらいまでは、まだまだ実験、理論モデル、 その研究者達が切磋琢磨する時代だろうと思います。

だから、まだシミュレーションがあまり表に出てきてはいけない、むしろ物理とか化学とか、わかっているところ、そういうところ、あるいは物を作っている、 自動車を作っているとか、そういうわかっている法則を使って新しい設計をし、あるいは自然界はどうなっていくか、そうなって完成したときには、 我々が主体的になり、「こういうところをこういう形で観測したら、もっとおもしろいところが出てきますよ」という提言ができるようになる。 分野分野によって発展の時代が違う。そこによってコンピューターも支援的にやるのか、主体的にやるのか、 あるいは協同的にやるのかというものをちゃんと理解してやらないと、日本の行政でもお金を出すときに間違って、 コンピューターをいっぱい作れというだけでは、いびつな形になる。 そういうところを我々研究者は、つねに謙虚に考えていかなければならないだろうと思います。


司会:
  だいぶ時間が押して参りましたが、もし、佐藤先生にご質問がありましたらどうぞ。


質問:
  台風の予測が大変よく当たる、我々もよく経験していることなのですけれども、今年は、ひどく寒いですよね。 去年の秋には暖冬だと予測されていた記憶があるのですが、たぶん当たらないのは、初期状態だとか、 境界条件だとかがうまく入っていないのかなという気がするのですけれども、 地震についても同様でして、地震が起こったときにはどうなるかは、わかるけれども、いつ起こるかは、 まったくコンピューターも歯が立たないところではないのかと思います。 ですから解ける問題と解けない問題があって、解けそうなんだけれども、とてもセンシティブに変わってきて、という種類もあって、 いい話ばかりではないのかなあと。今日は、ひどく寒かったのでちょっとそういう感じがしました。


佐藤:
  痛い所を突かれました。もうひとつ問題があって、予測するのは気象庁なのです。言い訳ではなくて、法律で決まっている。間違ってはいけないのです。 間違っていますけれども。そのために、かなり安全性、広い確率性をもっていっている、そういう予測の仕方をしているわけです。 はっきりいって我々のほうが、はるかにかなり大きなコンピューターです。気象庁が予測に使っておられるようなコンピューターに比べて。 それなら、これを気象庁が使えばいいじゃないかということになりますが、これは文部科学省のもので、 全部エクスクルーシブ。かれらに使ってもらうわけにはいかない。彼らが我々のコンピューターでやればもっと当たるし、 我々を困らせるようなことはないだろうと。

それから割合10日ぐらいの現象は扱いやすいのです。ところが月単位だとか季節毎だとか、それは非常に難しい。まだ観測データというのが、 まだまだ十分でないということもありますが、現在は、そこをやっているのも気象庁。 気象庁のコンピューター、たぶんその辺のところはコンピューターを使っていないと思いますが。 割合これまでの観測例からの統計で、こうなるであろうと予測を出しているのが一番のファクターであろうと。 そこに関しても地球シミュレーターを使うと、もっと当たるようになると思います。 我々が、それならやればいいじゃないかと、台風に関しても我々が出しますと、やはり大きいですからそれだけ確度はいいですよね。 でも出すとそれは領域侵犯になるのです。

そうなってくると気象庁なんかは手作業で、データを見て予測をしてきたわけですね。やっとコンピューターでやるようになってきた。 そういう状況に、地球シミュレーターみたいなのがあるんだから全部コンピューターでやろうとすると、今まで手作業でデータを蓄え、 そこからいろんなことをやっておられた人たちの雇用の問題。ぶっちゃけた話し、いろんなしがらみがあって、気象庁としてもやれない。

そういう問題と、もう一つはこんなことを言うと叱られますが、気象庁は伝統的ですから。その伝統というのは、重みがものすごく大きくて、 なかなか革新的な開発をするところに投資ができないのですね。我々は文部科学省にこういうものをできるんだ、むしろその先端をいけと。 そして本当に新しい予測をできるシミュレーション科学の立場から、プログラムも含めて構造も含めて我々が開発する。 そして、いくつかの例で「ああ、いいものができたぞ」ということがわかった段階で、おそらく国土交通省も動きだして、 こういうコンピューターも入れないといけないなとなる。しかし伝統的なデータだけで、小さなコンピューターでやっていたときは、どうしても、 本当にコンピューターに頼るんじゃなくて、100キロの中の雲の状態を神業的に、こんな雲ができるだろうというパラメーターを入れていくんですね。 モデリングを。そういうところが今までの重要なポイントだったのです。 でも地球シミュレーターで1キロメートルができると、100キロメーターで雲がどうできるかのモデルを書いているのでは、時代的には遅い。 でも我々はそういうことは関係無しに、コンピューターは、これだけあるのだから、 物理法則に従って解けるようなものを作ればいいではないかということで、ぼんと扱えるのですね。 新しいものができて大変早い、効率がよいものができるわけです。 これは、今は気象庁なんかにすると、にくたらしいなと思っておられるけれども、積み重ねることによって気象庁の予報に対する考え方も変わり、 予測に対する精度も上がってくるだろうと、我々は嫌われながらやっているのが、本当の現状だろうと。ちょっと生々しい事を言ってしまいましたが。


質問:
  この地域に地震が起こりますよね。将来。その時期とか地域の予測はどのくらいの時間がかかればわかりますか。


佐藤:
  今のご質問の方がおっしゃったように、いつということではなく、起こったらこの地域にどういうものが20秒後に起こりますよというように、 地震が起こったという情報を光で送ってもらって、そしてコンピューターに入れて、そして20秒後には、 どこどこが危ないですから電車を止めなさいよとかは言えます。しかし、起こること自体は、マントル対流、プレートがどう動くか、 そしてエネルギーがどういう形で蓄積したプレートの岩石を崩すかとなると、本当に分子のレベルでの堅い問題になるのですね。全然レベルが違うわけですね。 現在我々は、それができるようなシミュレーションアルゴリズム、シミュレーションアーキテクチャーをプロポーズする。 まさにそこに向かっているので、ただ、まだ日本にはそういうのができていないのです。 僕は日本に早く作れといっているのですが、そういうのができて、ミクロのプロセスとマクロのプロセスを同時に解くような状況になったときには、 かなりできると思う。何時、何分というのは無理にしても。

それから現在、もうひとつやっているのは、衛星のGPSで地殻の動きを刻々撮っているのです。

それの動きからどの辺にどのぐらいのエネルギーが溜まっているかという、マップを作っています。 そうすると、それは破壊に対するエネルギー密度として、あるところは80%ぐらいまできている、ここは20%というのは、かなりもうできあがっています。 だから、ここは80%溜まったからもうそろそろ起こってもいいぞ、何か大きなディスターバンスが起こるかもしれない、 ということでパーセンテージでの予測はできるようにはなった。でもそれがいつかは、100年なら100年の周期の明日なのか15年後なのか、 残念ながらまだ、現時点でのシミュレーションでは無理です。次世代になれば、10年後ぐらいになれば、 台風ぐらいのところはおそらくわかるようになると思います。


唐津:
  どうもありがとうございました。ぜひ、次の研究プロポーザルでより高性能の機械をつくって頂いて、次に東京に地震が来る前に予測をして頂ければと思います。

廣川先生、佐藤先生、長時間、どうもありがとうございました。これで総合討論を終了させて頂きます。



Last modified 2006.6.6 Copyright(c)2002 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.