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総合討論


佐藤哲也


地球シミュレータセンター長
佐藤 哲也



シミュレーションを通してみる未来の世界 BACK NEXT

未来をリアルに見る能力を備える

[図17] そういうことで、地球シミュレーターがシミュレーションの世界にもたらした大きな革命に私たちは気がつきます。 これまでのアプローチというのは要素還元的なアプローチで、全体はなかなかわからない。足なら足だけを切り離して、足の運動だけを良く見る。 そしてそれを調べて、法則化する。或いは頭だけを見る。そういう形でやっていたわけですけれども、 頭も手も首も一緒にどうなるかというシミュレーション、いわゆるシステム全体がどのようにふるまうかということを明らかにするシミュレーションが可能となった。 [図18] 科学の法則にのっとってシミュレーションできますから、ひとつのシステム全体がどう未来に発展するかが見える。 初期状況をちゃんと与えてやれば、それには観測、或いは実験がいるわけですけれども、その条件を与えるだけで、 未来にどう発展していくかということを見ることができる道具を我々は21世紀になって初めて持ったというわけです。 日本が初めてそういうものを生み出したということで、大いなる価値があると思います。

例えば、生態系を見ますと、大きな魚、小さな魚、プランクトン、こういったものが循環してエコロジーを成しているわけですけれども、 これまでのやり方というのは、例えばシャチならシャチだけを切り出して、シャチの生態を見る。 そのときシャチの寿命だとか、或いは餌がどのくらいあるだろうかということはギブン(与えられた条件)として見る。 小魚も同じ、プランクトンも同じ。でも地球シミュレーターができて、やっと全体を一緒にまとめてシステム全体が動いていくことが、 トータルファッションがわかるようになったわけです。この辺が「東京ファッション」なのかもしれませんが、トータルファッションができるようになった。 シミュレーションという概念の中には、未来を見る能力、そういう潜在的能力はあったんですが、部分しか見れなかった。 象の足だけを見て象がどういうものかということを想像しなければいけない。 だからそこにはどうしても不確実性が出てくるわけですが、象全体を見ながら足の細かいところも見るということで、やっと象の未来の動き方がわかるわけです。 そういう道具を我々は手にしたということです。従って、SFはなかなか書けなくなってきて、SF作家の領域を侵犯しているわけですけれども、 SFの領域であった未来というものが我々、科学のリアリティの世界になった。それが地球シミュレーターのもたらした一番大きな効果ではないかと思います。

異常気象の予測

[図19] では、本当にそのシステムの未来が予測できるのか、そういう厳しい質問がたぶん飛んでくると思いますが、もちろんまだ全てをやったわけではなく、 可能ですよといういくつかの例を示したいと思います。

[図20] 皆さん、たぶんご記憶だと思いますが、2年前の7月20日に東京が39点何度という、約40℃の猛暑に襲われたのをご存知だと思います。 東京は39.5℃、熊谷、こういうようにスポット的に非常に暑くなった。 或いは韓国の東海岸。この異常気温上昇がどうして起こったのかということを、 例えば5日くらい前の世界的な情報を我々が入手すればちゃんと言い当てられますよという、その一つの例です。 [図21] これは全地球でシミュレーションを行っているのですが、関係のあるところだけをスリットで描き出しています。 この辺、ここがスエズ運河ですね。日本がここにある。そして原因としては、この地中海の辺りに異常な気圧変動が発生している。 その異常に触発されて高気圧、低気圧、高気圧、とそういう波が東にやってくる、伝播してくる。 そしてその結果、下のほうにあったチベット高気圧を巻き上げ、太平洋高気圧をそこに合体させることによって日本付近で非常に大きな高気圧になる。 それに伴って吹いた風が日本の高い山々を越えることによってフェーン現象を起こしたということがわかります。

それからもうひとつはそれに伴って、福井にものすごい豪雨があったわけです。集中豪雨です。 そういったものもシミュレーションでちゃんと5日前の情報が与えられればできます。 そういう結果のひとつですが、上がその風速で下が温度ですが、こういう高気圧がどんどん東に伝播して、この辺の高気圧がものすごく大きく発達する。 そして、こちらから来た風が山越えをしてフェーン現象を起こして、この辺に非常に高い熱波というものを運んだ。 [図22] これがそのシミュレーション結果と、気象庁の7月20日の猛暑の温度分布です。こういったところに非常に高い、40℃近いところが出た。 これはシミュレーションの結果で、場所は観測結果と非常によく合っています。少し観測より高いですが。こういったような予測はできる。 [図23] これはシルク・ロードに沿ってやってくるので、我々はシルクロード・パターンと呼んでいます。

台風の予測もリアルタイムで可能に

それから台風ですが、台風に関しても、現在、海の状況と、空の状況を結合して単なる空だけ、海だけではなく、 両方を結合して一緒に解くコード(プログラム)を開発しまして、それで全地球を5キロくらいの分解能で地球全体の気象変化と一緒に、 しかもそれが非常に早くて、例えば、5日間のシミュレーションをやるのに5時間くらいで行える。だから十分台風の予測は可能、 そういうコードを我々はこしらえました。 [図24] それで、予測をしてみますと、これは、2003年の台風ですが、台風10号を五日間トレースした。もちろんある程度誤差は生じます。 観測の誤差もありますし、我々の計算の誤差もありますが、結果は非常によく合う。 しかもその台風に伴って、注意深く見ていただくとわかるのですが、台風が北上してきますと、その後に、これ海上の温度分布ですが、 台風にかき混ぜられて、冷たい水域が台風の下に発生する。そうすると、蒸発する水の量が変わってくるわけです。 そうすると台風そのものの勢い、或いは方向にも影響を及ぼしてくる。そういったようなこともわかってくるわけです。 それから、台風に伴って大雨がどこに降るかというときには、海の構造もちゃんと同時に解かないとダメですよということや、 五日ぐらい前から十分リアルタイム的にシミュレーションで予測ができるということもわかってくる。 この映像は、むしろ可視化の妙味としてお見せしたいんですが、空と海の変化を同時に表している。 これは台風が行った後です。この青いところが黒潮です。そして海の温度に冷たいところがあります。 上のほうに台風がやってきて、その下を見ていただくと、海がかき混ぜられていくのがおわかりだと思います。 そして、かき混ぜられると海の状態も変わって台風にも影響を及ぼす。そういったようなことを全地球的にやっております。 現在はこのくらいのことがわかるくらいにまでなってきているわけです。


図17
[図17]




図18
[図18]




















図19
[図19]




図20
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図21
[図21]







図22
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図23
[図23]





図24
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Last modified 2006.6.6 Copyright(c)2002 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.