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総合討論


佐藤哲也


地球シミュレータセンター長
佐藤 哲也



シミュレーションを通してみる未来の世界 BACK NEXT

地球シミュレーターの性能

[図9] それから地球シミュレーターというのは、世界のコンピューターとの比較で見たときにどれくらい良いのか悪いのかというと、 先ほどのMOU、国際的な協力でアメリカのエネルギー省のコンピューターサイエンスの人たちが我々のところにやってきまして、 アメリカのコード(プログラム)、代表的なコード、色んな分野、例えば、天体だとか核融合、物性、或いは磁気流体、プラズマですね、 そういったところのコードを持ってきまして、同じ条件にして、アメリカのIBMだとかSGIだとかクレイのコンピューターを走らせて、 どれくらい差があるかということを測定しました。赤が地球シミュレーター、他がアメリカのものですが、だいたいにおいて、 どの分野においても地球シミュレーターが圧倒的な能力を現在でも持っています。これはアメリカの研究者が発表してくれています。 我々が発表しますと手前味噌になっているのじゃないかといわれますが、アメリカのライバルの方がちゃんと宣伝をしてくれておりますので、 これは間違いなく日本のコンピューター、これはNEC製ですが、非常にいい成果をあげているということです。

[図10] また、少し地球シミュレーターの宣伝をいたしますと、地球シミュレーターが出て、 ニューヨークタイムズの一面にコンピュートニクというスプートニクに代わる名前をつけられて紹介され、アメリカが日本を恐れたわけです。 それ以後、アメリカはスパコンにおいて日本に圧倒的に負けたと、これではだめだということになった。 それまでは市場主義、経済主義でIBMだとかSGIに、どうぞ、あなた方の儲かるコンピューターだけを作りなさいといっていたのが、 その結果として日本に負けたということで、大統領府が直接的に手を下しまして、国策として地球シミュレーターに追いつけ、 追い越せという大号令がかかって、かなりお金が出ております。

[図11] なぜアメリカが日本に興味を持つといいますか、日本の地球シミュレーターを恐れたのかといいますと、ここに示したように、 時代と共に性能は上がりますが、いわゆる並列にしますと、一万個にすれば一万倍、十万個にすれば十万倍の能力が出るといっておりますが、 実際には先ほどのシナプス間の情報伝達が遅いために、いかに計算が速くても、処理が早くても、情報が伝達してこなくては意味が無いのです。 その伝達が十万個ぐらいになってくるとほとんど伝達ばっかりだということになって、 信号がラインの上を走っているだけで、計算のほうは速いけれども次の情報が来るまでずっと昼寝をしている、 そういう状況が起こりまして、ピーク値つまり理論値と実行値の間にどんどん差が出てきた。 それに対して地球シミュレーターは演算時間と伝達時間がほとんど一緒である。 これではアメリカはだめだということで実行性能をもっと良くする、 ピーク値ではなく実行性能をよくするようなコンピューターを作れという命令が下ったわけです。

[図12] イギリスなどヨーロッパではコンピューターを作っていませんから、日本にできるだけ接近して地球シミュレーターを使おうということで、 この写真はブレア首相と私ですが、来日したときに話しをしまして、ブレア首相が地球シミュレーターで共同研究をやるということを表明しまして、 英国に帰ってからかなりのお金がイギリスのチームに出まして、MOU協定でもって現在地球シミュレーターにも4名の常駐の研究者を置いております。 ストロー外相も来まして、英国大使館が中心になって、地球シミュレーターに関するセミナーを共同で開くといったようなことがありました。

[図13] これは「ビジネスウィーク」ですが、この表題にありますが、ここにはマシンと書いてありますが、 "地球シミュレーターとIBMのマシン、そういったものが科学の限界突破の鍵を握っている、今こそアメリカは日本からの遅れを取り戻す、 そういう競争のモードに入れ、入らなければいかん"、というようなことを書いております。私は、要するに"地球シミュレーターのいいところは、 あらゆる分野において大きな未来を設計していく、そういう変革をいたしますよと"いう、大ボラでもないのですが、 吹きましたので、その辺がここに載っております。そのようなこともあって、アメリカは今必死に地球シミュレーターを追いかけている。 先ほども言ったように、既に米国製のスパコンのピーク値は遥かに日本を越えています。 これは地球シミュレーターよりも上にいます。 [図14] NASAのエイムズ研究所のコンピューターの責任者であるブルックス氏が、 "いわゆるトップ500というスーパーコンピューターのランキングでは地球シミュレーターよりも上にいるのですけれども、 実力は遥かに日本の地球シミュレーターには及びません"と述べています。まだまだ地球シミュレーターが目標ですと言っている。お世辞も入っていますが。

地球シミュレーターができたこと

[図15] それで、こういう自慢ばっかりしていてはいけないので、少し、地球シミュレーターがどんなことができるのかということをお話しします。 地球シミュレーターが運転を開始したのが2002年です。今から4年前です。 [図16] これは、その4年前の最初に我々が行ったシミュレーションの結果です。全地球を10kmの間隔のメッシュで全部覆います。 それぐらいの解像度、分解度です。そしてその地球上の大気がどうなるか、或いは気象がどうなるか、 或いは海洋、海の流れがどうなるかということをシミュレーションした結果を順番に示します。

まず、これは気象のシミュレーションですが、あらゆるデータを披露する時間がありませんので、まず、雲の変化の様子を示します。 これは衛星から見たのではなく、シミュレーションで行った結果です。これぐらいの解像度でこういう雲ができる。 ここは太平洋です、日本がここに出てきますが、台風も出てきて、台風の目も綺麗に見えています。これが九州を襲って、偏西風で東に流れていく。 これは日本の近海を、今のと同じものを拡大して描いたものですが、台風がこんなような形で、それが九州を襲うというシミュレーション結果の一例です。 次に、三次元的に海面から台風の構造がどうなっているのかを示します。コマのような形でこういう風な形で台風になっているわけです。 おそらく、こういうような人工衛星でもなかなか見られないような結果がシミュレーションで出てきます。

それから、こちらは海の方ですが、海流がどうなるかということで、これは1年間の動きです。 ここに書いてありますのは2月とか3月、これは海面温度です。 赤いところは30℃くらい、青いところは0℃ですが、ペルー沖から冷たい海流が湧き出し、太平洋を西に流れていく。 これを三次元的に見ると、南極から来た冷たい海流が海底に沿ってここで浮き上がってくる。 赤道付近の暖かい海流が西へ西へと来て、そして夏になって、これが日本列島の東側で押されてここに暖かい黒潮が生まれる。 同じように、大西洋ではメキシコ湾流になってくる。冬になると、オホーツク海の冷たい氷が北海道にやってくる。そういったようなことを三次元でやっています。 海流、三次元的な海流もありますが、それは時間的な都合で割愛させていただきますが、ペルー沖から西進する冷たい海流が風の向きによって暖かくなりますと、 いわゆるエルニーニョになるわけです。これがそうでないときはラニーニャになる。そういう形でエルニーニョとかラニーニャに関しても予測ができる。

今シミュレーションしましたのは最初に行ったシミュレーション、4年前に行ったシミュレーションの結果ですが、これを見てどういうことがわかるかというと、 これまでのコンピューターというのはこれにくらべて非常に小さいですから、例えば、全地球を覆って境界無しに気象、 或いは海流がどうなるかというようなことを見ようとすると、200キロとかそれぐらいの粗い目で覆うわけです。 だから小魚〔小さなスケールの現象〕を見ようとすると網の目から落ちてしまう、そういう状況ですからあまり正確に気象というものが予測できない。 でも地球シミュレーターならば10キロぐらい、後で少しお見せしますが、現在ではもう2キロぐらいのメッシュで全地球を覆って、 台風がどうなるかといったような予測もできます。


図9
[図9]











図10
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図11
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図12
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図13
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図14
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図15
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図16
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Last modified 2006.6.6 Copyright(c)2002 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.