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細胞の分子1個1個の動きを目で見る |
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なぜ心臓は左、肝臓は右にできるのか
[図68] [図69] こういう回転運動をして左向きの流れがある。では、これをどう考えればいいのか。
私達の考えは、こうです。KIF3のモーターは、繊毛の中で繊毛の材料を運び、繊毛ができる。
この繊毛が回転運動することによって左向きのノード流をつくっている。ここで書いてあるXというのは、左を決定する形態形成因子ですが、この時点ではXでした。
これがノードの細胞から分泌されて、ノード流によって左向きに流され、そして左側の細胞にキャッチされて、
ここで左を決定する遺伝子群のスイッチをオンにし、左が決定する。KIF3のモーターが無いと繊毛ができません。
従ってノード流ができない。だから形態形成因子Xもただ拡散するだけで、ランダムに左右のスイッチをオンにしてしまう。
だから左右がランダムになってしまうということが分かってきたわけです。
[図70] ここで、いろいろな課題が残ったのですが、最終的な大きな疑問は、形態形成因子Xというのはあるのだろうか、
あるとしたら何だろうということになりました。それは、実は、ここに示しますが、FGF、繊維芽細胞成長因子というんですが、このシグナル分子に依存性に、
ノードの細胞が大型の、脂質に富んだ小胞を分泌することが分かりました。
[図70] [図71] それをビデオでお見せしますが、その前に、ノード流をお見せします。これがノードですが、蛍光ビーズを入れると、
みんな右からノードに入って左側に流される。たまたまこのとき、1個のビーズが繊毛の表面にくっ付いたので、繊毛の回転が非常によく分かる。
これがノード流です。時間の関係でお見せしませんが、KIF3が無いと、このビーズはブラウン運動をするだけです。
[図72] 今度は蛍光ビーズではなくて、蛍光を発光していますが、これは実際に細胞が分泌している大型の小胞です。
細胞外腔に脂質に富んだ小胞を分泌し、それがノード流によって左に流される。
そして左の細胞にぶち当たり、それが砕け散って、そうして左側の細胞にシグナルを伝達するということが分かりました。
[図73] この小胞には、ソニックヘッジホッグとレチノイン酸というシグナル分子が含まれているということも分かってきました。
つまり、このノードの細胞が、ソニックヘッジホッグ、レチノイン酸というようなシグナル分子を含んだ小胞を分泌し、
それがノード流に乗って左側に流されて、左側の細胞に左を決定する信号を渡していた。
モーター分子が、我々の体のデザインまで決定しているということが分かってきたわけです。
[図74] ということで、先程お話したカルタゲナー症候群というのは、どうして起こるのかが分かりました。
つまり、カルタゲナー症候群というのは、繊毛や鞭毛の動きを作るダイニンというモーターのミューテーションなのです。
その働きがうまくいかない。繊毛や鞭毛はあるのですけれども、動けないのですよ。男性不稔は精子が泳げないからです。
それから、呼吸器での障害も、呼吸気道の粘膜の繊毛が動けない。だから痰を喀出できないし、肺炎なんかになりやすい。
左右の決定がランダムになって、内臓逆位が50%になるというのは、ノードに繊毛があるのだけれど、動かないからノード流ができないのです。
だから、KIF3のノックアウトマウスと同じ症状になるということです。
モーター分子はがんを抑えている
[図75] 実は、このKIF3のモーター分子というのは、もう一つ面白い働きをしています。
それは、腫瘍の抑制、つまり、がんを抑えているということなのです。
先程のKIF3のノックアウトマウスは、すぐに死んでしまいましたけれども、これをもっと生きられるようなタイプのノックアウトマウスをつくると、
KIF3の働きを抑えたことで腫瘍ができてしまうのです。脳でそれをやると、脳腫瘍ができました。
どうしてかというと、KIF3というモーターは、細胞接着に働くN-カドヘリン(N-cadherin)というタンパク質を、
核の近傍から細胞膜に向かって送っていたのですね。そのN-カドヘリンにはβ-カテニン(β-catenin)というタンパク質が一緒にくっ付いているんです。
KIF3のモーターが無くなると、それが送れなくなる。そうするとβ-カテニンが細胞質にいっぱいあるような状態になる。
そうしますと、このβ-カテニンが核に入って、核の中で細胞をどんどん増殖させる遺伝子群のスイッチをオンにしてしまう。
だから細胞が、がん化する。脳だと腫瘍になる。ということで、モーター分子というのは、我々の体の細胞が腫瘍化しないように、
がん化しないように抑えている。そういう重要な働きもしていることが分かってきました。
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[図68]
[図69]
[図70]
[図71]
[図72]
[図73]
[図74]
[図75]
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