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佐藤哲也氏講演
総合討論


廣川信隆


東京大学教授医学部長
廣川 信隆
廣川信隆



細胞の分子1個1個の動きを目で見る BACK NEXT

[図1]
松原先生、大変丁寧なご紹介をありがとうございました。私は、現在、東大医学部の医学部長をしております廣川でございます。 先ず、本日は、このような形で私達の研究のお話をさせて頂く機会を与えられましたことを、武田計測先端知財団の方々とオーガナイザーの方々に、 深く感謝致します。私は、今、松原先生がお話になりましたように、我々の体の中のしくみ、特に、細胞の中で働いている分子モーターという、 モノを運ぶ分子に注目してお話をしたいと思います。それらが単純に我々の体の中でモノを運んでいるだけではなくて、 我々が生きていくために実に驚くべき仕事をしているということをお分かり頂ければと思います。

タンパク質が運ばれているから、細胞は生きられる
[図2]
これは、私達の小脳です。中心に神経細胞があります。私達の脳は神経細胞の回路網であるわけですが、 神経細胞は、木の枝のような突起、つまり樹状突起と、細胞体、そして、1本の非常に長い軸索という非常に極性のある形に分化しています。 軸索の先端には、シナプスというところがあって、そこで次の神経細胞に情報を伝達することになっていますが、この軸索は、ときに1メートルもあるのですね。 不思議なことに、軸索の中ではタンパク質をつくることがほとんどできません。従って、軸索の中で必要なもの、 あるいは先端のシナプスで情報を伝達するために必要な全てのタンパク質は、細胞体で合成された後に、軸索の中を輸送されてこなければならないのです。 そういう意味で、この神経細胞の働きと生存にとって、軸索の中でのモノの輸送というのは非常に重要で必須であるということが言えます。 実は、我々の体を構成している全ての細胞で、神経細胞の中で行われているモノの輸送機構と同じようなメカニズムでモノが輸送されています。 だから、モノの輸送の分子機構を調べるのに、神経細胞は非常に良い材料であるということが言えます。 我々の体を構成している細胞は、我々の社会と同じようなものです。我々の社会では、農村で米や果物や野菜を作り、それを飛行機や列車、 あるいはトラックなど、速度の違ういろいろな交通手段で都市部に配送してくる。我々はそれを消費して生きていますね。 その都市部では、コンピューターや電化製品などを作って、それをまた様々な交通手段で社会に配送している。我々の社会はそうやって成り立っています。 我々の体を構成する細胞も全く同じで、細胞の働きの元になるタンパク質を合成した後、それをいろいろな膜小器官に組み込んで、 あるいはタンパク質の複合体として、細胞の中を目的地に向かって、非常に精巧で巧妙な機構で送り届け、 それを使って細胞が生きるということになっているわけです。

分子を運ぶ危険な高速道路を見る
[図3]
ここには、今お話しました軸索の先端部分だけを描いています。 このシナプス小胞という小胞の中には、次の神経細胞あるいは筋肉などに情報を伝達するための情報分子が含まれています。 化学伝達物質ですね。それが放出されて細胞体側の受容体にキャッチされ、次の細胞に信号が伝達される。 そういう形で我々の思考機能などが働いているわけです。

我々の細胞の働きの元になるタンパク質というものは、タンパク質の複合体、あるいは、それを組み込んだ様々な膜小器官として運ばれています。 その実際の様子をビデオでお見せします。 [図4] これは生きた軸索の中です。リアルタイムで見ています。こちらが細胞体で、こちらが末梢です。 順行性、逆行性と、様々な形の違う膜小器官が動いていますね。速度が違います。これは速い「のぞみ」、こっちが「ひかり」。 追い抜いている。これはミトコンドリアです。高速道路のようなものですが、対向車線がミックスしていて、非常に危険な高速道路です。 しかし、細胞は非常に賢くて、上手くマネージしているのですね。

[図5] この画面は、シナプス膜の材料であるタンパク質(シナプトファイシン)の遺伝子に、発光クラゲの蛍光色素を作る遺伝子を付け、 蛍光が付いたタンパク質として、培養した神経細胞の中に発現させたものです。 軸索の中でグリーンに見えるところがそのタンパク質の組み込まれた膜小器官の輸送されているところです。

[図6]・[図7]・[図8] このビデオでは、シナプトファイシンを組み込んだ膜小器官が実際に輸送されていく様子をクリアに見ることができます。 光っているのは、シナプス膜タンパク質を組み込んだ、ソーセージのような膜小器官ですが、それが細胞体から軸索を通って、末梢のほうへ輸送されています。

ここの部分を、もっと分解能の高い形でよく見えるようにしてみますと、ソーセージのような膜小器官が、細胞体から突起のほうに向かって、 スーッと入っていって、末梢に送られていく様子がお分かりになると思います。 このような形で、どのようなタンパク質が、どういう行動をとるかということを見ることができるわけです。

道路をつくっている分子一つ一つを見る
[図9]
さて、このような輸送がどのように行われているのかを、生きている神経細胞の軸索を急速凍結の電子顕微鏡という方法で見てみましょう。 そうすると、一つの分子を実際に目で見ることができます。そのくらいの解像力があるのです。ここにあるのが微小管というレールです。 マイクロチューブル(microtubule)といいますが、25nmの径があって、アルファ・ベータ・チューブリン(α-tubulin & β-tubulin) というタンパク質が「達磨さん」のように繋がって、プロトフィラメント(protofilament)というのを1本作り、 そのプロトフィラメント13本がグルッと取り巻いてチューブ状の構造を作るのですね。ですから、1本の微小管の中に13本の細いレールが並んでいることになります。 先程ビデオで見たときに動いていた膜小器官がここに見えますね。ここには足のような構造が見えます。実は、これが膜小器官を輸送する分子モーターなのです。

[図10] ところが、その足のような構造をよく見てみると、この場合にはラグビーボールのようなものが二つ見えて、それから幹のようなものが見えます。 ところが、こちらはラグビーボールが二つあるだけで、幹のような構造はありません。 これはミトコンドリアですが、ミトコンドリアの足は短くて、小さい球状の部分がある。 これらは違う形をしていますから、いろいろと違うモーター分子があるのではないかと思われるわけです。

[図11] 先程からお話している通り、例えば、神経の軸索の中ですと、軸索膜の材料や、この終末にある化学伝達物質を含んだシナプス小胞、 それから、シナプス小胞の中の化学伝達物質を放出するためにドッキングする細胞膜で働くタンパク質、さらにミトコンドリアなど、 様々なものが輸送されているわけです。

図1
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図2
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図3
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図4
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図5
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図6
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図7
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図8
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図9
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図10
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図11
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Last modified 2006.6.6 Copyright(c)2002 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.