シンポジウム トップ
主催者挨拶
すすむ氏講演
廣川信隆氏講演
氏の紹介
Page 1
Page 2
Page 3
Page 4
Page 5
Page 6
Page 7
Page 8
佐藤哲也氏講演
総合討論


廣川信隆


東京大学教授医学部長
廣川 信隆



細胞の分子1個1個の動きを目で見る BACK NEXT

モーター分子、さまざまなキネシンの発見
[図12] こうした非常に巧妙な輸送を行う背景には、多くのモーター分子があるに違いないと考えました。 そこで、分子生物学を用いて、マウスの脳からモーター分子の遺伝子をとってきたのです。初めは10個の遺伝子がとれました。 これらに「キネシン・スーパーファミリー・タンパク」、KIFs(KInesin Superfamily Proteins)という名前をつけました。 このピンクの部分がモーター領域で、そこにはATPに結合する共通配列と、微小管のレールに結合する共通配列が必ずあります。 しかし、他の部分は非常に異なっていて、三つの種類があります。このモーター領域が、図の左側、N末端にあるタイプと、 分子の真ん中にあるタイプと、反対側のC末端にあるタイプですね。 下の図は、これらのいくつかを電子顕微鏡で見たものですが、非常に違う形をしているのが分かりますね。 トヨタカローラとか、ホンダのビガーやアコード、日産のフェアレディZとか。タイプの違ういろいろな自動車があるということになります。

[図13]、[図14] 実は、最近、私達は、ヒトとマウスを含む哺乳類の全てのモーター分子を見つけました。 モーター分子の遺伝子の数は45個あります。一つの遺伝子から、数種類の違うタンパク質を作ることができますので、 全体のモーター分子のタンパク質の数は90個ぐらいあるかもしれません。

それらのモーター分子の働き、構造、さらに、どうやってそのモーター分子が動くのかということを、様々な方法を駆使して、私達は、研究を進めています。

道路には、上りと下りのような方向性がある
[図15] 今日は、そのうちのいくつかをご紹介しようと思いますが、その前に、もう一つ確認しておくことがあります。 それは、25 nmの中空のチューブ状の微小管という構造がレールになっていますが、そのレールには方向性があるということです。 プラス端とマイナス端というものがあります。電気的にプラス、マイナスというわけではありません。 実は、微小管のレールというのは、でき上がったままの硬い構造ではなくて、非常にダイナミックで柔らかい構造をしていて、伸びたり縮んだりできるのですね。 レールが伸びるときは、αβチューブリンが重合して伸びていくのですが、伸びやすい端をプラス端、その反対をマイナス端といいます。 従って、順行性の輸送、つまり細胞体から末梢への輸送は、レールの上をプラス端に向かって動くモーター分子によって行われるということになります。 逆行性、つまり末梢から細胞体への輸送は、その逆です。上皮細胞などでは、こちらが管腔側ですが、頂部のほうにマイナス端が来るように、 縦にレールが配列していますし、繊維芽細胞や白血球は放射状にレールが並んでいます。

[図16] これは、これからお話しすることの、ある程度の結論を図示しています。 実は、非常に多くのモーター分子が、つまりKIFの異なったモーター分子が、各々、違う荷物を担いで、それぞれ違う速度で、 実に巧妙に、荷物を送るべき方向に送り分けているということが分かってきたわけです。

[図17] 最初にご紹介するのは、KIF1Aというモーター分子です。これは1,695個のアミノ酸からできていて、推定分子量が200キロダルトンあります。

モーター分子には、二本足のと一本足のがある
[図18] このKIF1Aの面白いところは、これが一本足のモーターだということです。 溶液中あるいは細胞の中で、1個で存在する一本足のモーターです。これが、モーター分子がどのように動くかということについて、 非常に基本的で新しい発見の端緒となったわけです。KIF1Aが見つかるまで、既に見つかっていたモーター分子というのは、 筋肉の収縮を起こすアクチンの上を動くミオシン、あるいは、繊毛や鞭毛の動きをつくるダイニンというモーター分子ですが、 これはみんな二本足。我々の二足歩行では、片足がステップを踏むときには片足がレールにくっ付いているから、このように歩けるわけですよね。 一本足だったら、ステップを踏んだときに、レールから外れて細胞の中を漂ってしまうことになる。 だから、一本足のモーターは動けるはずがないと考えられていました。ところが、実はそうではなかったのです。 そのお話は最後にしますが、ともかく、KIF1Aというのは、この電子顕微鏡写真 [図19] で見るように、一本足のモーターでした。

[図20] 先ず、このKIF1Aというのは何をしているのだろう、どういう仕事をしているのだろうということを調べました。 ここでは結論だけを示しますが、実はKIF1Aというのは、細胞体から末梢に向かって、神経細胞の働きに非常に重要なシナプス小胞、 つまり、化学伝達物質を入れているシナプス小胞の材料を運ぶ一本足のユニークな順行性のモーター分子だったのですね。 実際には、シナプトファイシン(synaptophysin)、シナプトタグミン(synaptotagmin)、ラブスリーエー(Rab3A) というようなタンパク質が含まれていますが、こうした材料を末梢に運んでくるモーター分子だということが分かりました。

神経の働きと存在に不可欠のモーター分子
[図21] ここまでは細胞レベルの話ですが、我々の生きた体の中で、このKIF1Aというモーターが何をやっているかということを知りたい。 そこで、遺伝子工学を使って、このKIF1Aを合成することのできないミュータントのマウスをつくってやりました。 この "-/-" というのが、KIF1Aのタンパク質をつくることができない個体です。生まれるのですけれども、24時間以内に100%死んでしまいます。 ミルクを飲むことができない。"+/-" というのはヘテロ個体といって、50%だけKIF1Aがある。"+/+" は野生型で、普通の正常なマウスです。 とにかく、"-/-" のマウスは死んでしまう。運動障害と知覚障害を呈します。

[図22] では、脳を見てみましょう。何が起こっているのだろう。先ず気がついたことは、シナプス終末の単位面積あたりの数が著明に減少している。 50%から60%になってしまいました。二番目に、このスライドで分かるように、Aが野生型で、BがKIF1Aの無い個体ですが、 シナプス小胞の単位面積あたりの数が、やはり、50%から60%に減っているのです。ただ、覚えておいていただきたいのは、ゼロになっていないということなのです。 これも重要な発見。ゼロになっていないというのは、KIF1A以外にも、シナプス小胞の材料を運んでいるモーター分子があるということを示しているわけです。 [図23] ともかく、脳を調べてやると、これは脳の扁桃体(amygdala)という部分ですが、この点線で囲ってある部分に見られるように、 神経細胞がドンドンドンドン死んでしまう。KIF1Aが無いと、脳の中の神経細胞が死んでしまうということですね。

[図24] このように、KIF1Aというのは、一本足のユニークな順行性の輸送を行うモーターで、シナプス小胞の材料を運んで、 神経の機能と生存に非常に重要な働きをしているということが分かりました。 と同時に、シナプス小胞の材料を運ぶモーター分子は、KIF1A以外にもあるだろうということも分かりました。 これらは神経機能に非常に重要ですから、私たちは、それらを探したいと思いました。

図12
[図12]








図13
[図13]



図14
[図14]



図15
[図15]








図16
[図16]


図17
[図17]


図18
[図18]


図19
[図19]


図20
[図20]



図21
[図21]



図22
[図22]


図23
[図23]



図24
[図24]



BACK NEXT


Last modified 2006.6.6 Copyright(c)2002 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.