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すすむ


東京大学教授
舘 すすむ



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バーチャルリアリティは実際の本質と同じもの

[図4] バーチャルリアリティとは、実際の本質と同じものを伝えることによって、人間が実際に体験する前にそれを体験し、 実際のものに応用したりする、あるいは遠隔のものをこちらに引きつけて、実際には離れていても会っているかのように対談する、 実際にものを作る前に実物とおなじようなものとして設計してそれをそのまま製造にだす、そういうものを目指しているのがバーチャルリアリティです。

これは、ひとつの大きな時間と空間のシミュレーション環境であり、現実世界とも最近融合してきているわけです。 そういうものがどうして成り立つのかというと、人間自体が世界を構成するとき、自分の脳によって世界を構成しているという事実があるからです。 我々は、人間は世界のすべてのものを受け入れていると思いがちなのですけれども、実際はそうではありません。 例えば色をとってみても、ものすごくたくさんの周波数の電磁波の中の光と呼ばれている400〜750nmの狭い範囲のスペクトルの部分の情報だけをとって、 それによってこの世の中を解釈しているのです。ということは、世の中の自然現象そのものを見ているのではなくて、 カントが「悟性のアプリオリな(先験的な)形式」と呼んだ人間の認識機構の仕組みによって、人間の感覚器によって、 あるいは脳のメカニズムによって制約された仕組みの中で物事を理解して構築している。 さらにそういう狭い範囲の波長を認識しているだけではなくて、人間の目の中に、RGBという錐体細胞がありまして、 RGBそれぞれの錐体細胞の分光特性に反応している比率によってその色を決めているわけです。 ですから、自然の波長とまったく同じものではなくても、RGBが合っているものを持って来ると同じ色に見える。 ですからテレビジョンができるのです。カメラで光をRGBに分解して、それを伝送して、ディスプレイでRGBの光を出してやると、 人が見たとき同じだと思えるような色が再現される。人間のそういう仕組みを解明して、人間のアプリオリな仕組みの中に流し込めば、 人間としてはまったく等価な経験ができる。これがまさにバーチャルリアリティがうまく働く原理です。

[図5] バーチャルリアリティという言葉が生まれたのは1989年ですからそんなに古くはない。 しかしバーチャルリアリティという言葉がない1980年代から、いろんな分野で、例えばコンピュータグラフィックスとかコンピュータそのものとか、 3次元のシミュレーターとか、コンピュータのシミュレーションとか、通信とか、ロボット制御とか各種の分野で研究が行われていました。 すべて人間と機械の関係の中で、人間に対してリアリスティックな時間と空間を与えるための研究であったわけです。

[図6] 1990年にサンタバーバラでMITが主催して、図5のようないろいろな分野で活躍している人々を集めて会議を行いました。 分野は違っているようだけれども同じものを求めている。3次元の空間と、インタラクティブ、人間がそこに没入するという三要素なのですけれども、 そういう三要素を持って研究を進める事ですから、自然発生的にいろんな分野からでてきたけれども、 これらを統合して研究をしていくことによって新たな展望が開けるということで、バーチャルリアリティという言葉が定着していったわけです。 1990年のサンタバーバラ会議の後で、日本でも1997年にICAT(アイキャット)という会議を行い、この分野を推進して来ました。

IEEEという世界で一番権威のある学会連合がIEEEバーチャルリアリティという国際会議を1993年から始めました。 日本でも1996年に日本バーチャルリアリティ学会が設立されました。

[図7] この分野で行われていることの本質的なものには3つの要素があります。ひとつは空間性と言いまして、自分の目の前に自分に忠実な3次空間がある。 人間が直接見たような立体視ができて、基本的には等身大の、スケールが決まった空間ができあがる。 マッチ箱のような空間ではなく、人間のスケールの空間ができあがるのです。第二番目は、空間に対していろんな方向から見える、 しかもその空間に対してものをハンドリングできる。インタラクションといいますが、作り上げた空間の中に、自分が実時間インタラクションできることです。 第三番目はそこに自分が入り込んでいける。自己投射といいまして、シームレスに入っていく。 ディスプレイがあってそこに自分がいるということではなくて、自分の体の所までがバーチャルリアリティ空間として迫っている。 これが三つの重要な要素でありまして、全部整ったものが完全にあるというのではありませんが、そういったものを求めている、 それによって没入感というものが生まれてきているのです。

図4
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図5
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図6
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図7
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