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第二部 パネル討論 「バイオテクノロジーは生活者を豊かにするか」 |
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パネル討論 |
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宮田)
はい、ありがとうございました。それでは、鈴木先生、お待たせいたしました。鈴木先生は必ずしもバイオだけでなく、化学工学的な立場で環境問題を研究してらっしゃいますと思いますけども、どうでしょう、環境問題にもいろいろなアプローチの仕方があると思うんですけれども、バイオっていうのは、僕、一部だと思うので、その全環境問題の取り組みの中で、生命科学のようなものはどの程度のインパクトを与えうるかというお話を先生、いただけますか?
鈴木)
私は実は今日、バイオテクノロジーが、生活者でしたか、にどういう豊かさを与えるかと、これについては黒川先生もいろいろな疑問を提示されたわけですが、ともかく、今のここで議論されていることはバイオテクノロジー、このテーマの趣旨からはかなりシフトして、もう少しこう広がっているんじゃないかと思いますね。
私はこのテーマを見たときにやはり、私の側ですと、先ほど黒川先生も触れられましたが、地球上に今1日1ドルの収入で暮らしている人たちが大体12億いるんですね、1日2ドルですよ、その収入以下で暮らしている人が大体今25億いる。そういう人たち、食料もないわけですね。だからそういう人たちに向けて例えばその、GMO(遺伝子組み換え食品)で新しい食料増産ができて、非常に水がないところでも、それなりの炭素の固定ができて、それがその食糧問題を解決できる的な話がいろいろとあるわけですね。それがいかにバラ色の夢、青い夢であったかということなんですかね、青いバラだったのかもしれませんが、というようなことで、いろんなところで、齟齬を来たしてるのですが、そういうようなGMOに代表されるようなバイオテクがいったいどういうふうに光の部分と影の部分を持っているのかっていうような議論がたぶん出てくるのかななんて想像してたんですけども、どうもそうではないようです。
それはそれで、そこの話にまた入っていくと大変になるんじゃないかと思いますが、環境の分野からと、今宮田さんのほうからお誘いがあったんですが、私はもちろん環境がメインなんですが、環境というのはいわばテンタティブな、要するに今の我々の生活の周辺、あるいはその地球環境であり、というものであって、最終的にはやはり何年後にサステイナブルな、持続可能な人間活動をどうつくっていくのか、これを考えなければいけない。本当にもう瀬戸際といいますか、このチャンスを失すると私は大変なことになるんじゃないかという危機意識を持っています。
環境だけではないんですよね、サステイナブルを考える、そこはもう食料であり、水であり、やはりその国がいったいどう、国と国というその構造そのものがどうなっていくのか、アジア全体がサステイナブルであるためにはどういう仕組みがアジアの中にあり得るのか。まさに先ほど、今の人口が64億です。これがあと50年、2050年に国連の統計局の予測では一時、100億に近いところだったんですが、最近、数年前の予測でそれが7億ぐらい減りました。なんで減ったんでしょうか。90億ですね、今。それはエイズがそのときまでに解決できないからなんですね、エイズ問題が。それで人口予測が少しこう、下向きになったと。こういうような形で、人口予測というのは、あるいはもっと下方修正がされるかもしれませんね。
紛争ですね、後は。水問題であり、水を争う紛争が起こってくるでしょう。これは確実に起こってくるということがわかっていながら日本はまさに黒川先生がご心配なさるように、もう島の中だけでしか考えてないから、じゃあアジアをどうするのか、それは確かに砂漠に行って緑化をなさる、砂漠の緑化なんてこんな簡単なことじゃないんですよね。タクラマカン砂漠に木を植えようって言ったってもう受け付けない。要するに砂漠化が進行している減りの部分でようやくその木を植えるなんてことが可能なんですよね。これはトヨタさんがよくご存知だと思います。ユーカリなんか植えて御覧なさい、ユーカリっていうのはものすごく水を吸うんです。ですからユーカリを植えたところはどんどん乾燥化するんですよ。そういう木を植えちゃいけないんですね。いや、本当にそうなんです。ただ、ユーカリのメリットはそれは確かに炭素固定に関してはアカシアなんかに比べて一桁大きい。それを燃料とかなんらかの形で使うという全体システムをくみ上げればそれはそれで有効なんです。
ただ、乾燥地を回復するためにという発想だったらこれは問題があるんですね。これは今カリフォルニアが、あそこはもう南半分は砂漠ですけれども、北の方はレッドウッドであり、オークであり、森林が、あそこが一番今問題になっているのは実はユーカリなんですね。ユーカリがなぜ問題なんでしょう。ともかく生育が早い。だから他のインディジナスな種を駆逐していくということもあります。そもそもなぜユーカリを植えたかというと、鉄道の時代ですね。1850年代以降、鉄道を引くためにその枕木が欲しかった。オークツリー、そのブナ、ナラの類は全部切って、枕にしちゃったわけですね。しょうがないので、生育の早い木をオーストラリアから運んできた。実際にそれを使ってみるとですね、何が起こったかっていうと枕木が乾燥して弾けるんですよ。要するに、鉄道の枕に使えないというようなことで放置をしたら育っちゃってですね、あれは油が多いですからともかく燃えるんです。それで山火事が起こって、カリフォルニアの山火事っていったら必ずユーカリです。これはもう、サステイナブルな森林をつくろうと思ったらあのユーカリは伐採していかなければならない、大変苦労しているわけですね。
ちょっと話がずれましたが、要するに、これほど、かように例えば、森を維持するなんていうことも大変な努力が必要なんです。ほっとけばいい、日本の森林はだいぶほっとかれているわけですが、やっぱり我々がこまめに気を使いながら育てなきゃいけないんですね。地球上の森林、一次林というのは今、8千年前、1万年前に人類が農業を始めてから、定住するようになってから、30パーセントがもう伐採されて、森林が欠乏してる。なおかつ、その皆様よくご承知のように、熱帯雨林なんかが今伐採が続いてるわけですね。これによって何が起こるかっていうと、生物多様性の問題、今1千万種といわれている地上のスピーシーズがあと50年で半減すると予想されている。
こんな恐ろしいことないでしょう。人類がドミナントな唯一の種になって、他の種を全部駆逐していくという状況が今ここにあるんですよ。それをどうやって我々の世代で食い止めるか。我々の世代で食い止めなければ、まさに50年後、2世代後、お孫さんの世代です。お孫さんがおじいさん、我々と同じ世代になったときにおじいさんは50年前に何をしたのかっていうことが問われるんですね。こんな怖いことはないですよ。自分の世代と同じ年になった子供、あるいは孫がそのおじいさんは何をしていたのかって、これを問われたときに皆さん堂々と胸を張って炭素税に反対するためにキャピタル東京ホテルに集まって鉢巻をして奇声をあげた経団連に参加してましたなんてことを言えますか?僕はたぶん言えないと思うんですよ。トヨタの会長が今、経団連の会長なんですが、それはですね、個人的にはたぶんそんなこと言えないんだろうけれど集団として集まってしまうと昔の労働組合みたいにこう奇声をあげてしまうって、これも日本のカルチャーなのかもしれませんね。
でもやはり、次の次の世代から見て恥ずかしくない行動を取る、こういうことを考えたらやはりいかにその世代までサステイナブルな国をつくって、手渡していくかということを真剣に私は考えなくちゃいけないんだろうと思うんですね。さっき、少子高齢化っていう話も出ました。これは確かにサステイナビリティという上から非常に重要なんですが、私はちょっと今の社会システムのままでですね、60年定年とか言ってですね、これはだって寿命が50歳を超えたのが戦後ですよね、昭和50年近くなって、そのころに定年が60歳、平均寿命よりも高いところに設定されていたわけですから、今社会システムを考えるとしたら、一番手っ取り早いのは定年を期待寿命よりも高くすればいいんですよ。昔と同じように、亡くなるまで働いていただくという仕組みをつくれば年金問題なんて一挙に解決しちゃう。いや、だって皆さんお元気でしょう。定年になってからどこで次働くかなんて考えるよりは、もうともかくきちんと、東大も今度から60から65に伸ばすようですが、そんなけちなこといわないで、ともかく働けるだけ働ける、こういう社会をつくれば少子高齢化なんて僕は大変な問題じゃないと思う。
やっぱりそういうふうに生きがいのある国をつくることが子供をつくろうということになるし、そういうような余裕をつくることが女性が子供を産み、育てながら働こうという、そういう社会をつくるでしょうから。何を申し上げたいかといいますと、大体今ですね、将来どうしようかっていうことを考えるときに、現状の問題だけを考えてね、それからエクストラポレーションをしようという今の国の政府がほとんどそうですね。大体皆さんそうです。私が申し上げたいのは50年後にどういう社会をつくるか、将来ビジョンをきちんと計算してそこから現状を振り返ってみる。それは、我々はバックキャストと呼んでいます。そういう将来から現状を見ることによって現状の問題点を改めていく。例えば、エネルギーの消費量、今我々どれくらい石油を一人当たり使っているかご存知ですか?と言われてもちょっと見当がつかないですよね。
大体我々はその過食で、飽食の時代ということは別にして、生きていくために大体2,000キロカロリー必要ですね。一日、食料として。大体それの50倍から60倍ぐらいのエネルギーを使っているんです。この電気、車のガソリン、鉄道は少ないですが、そういうような形で。アメリカはその100倍ですね。その50倍から60倍それだけのエネルギーを使っているということは、50人から60人のいわば奴隷を使って生きていると。一人生きるのに50人から60人のエネルギーを使って快適な生活をしていると、こういう暮らしをしているんですよ、我々は。そんなことは一体許されるのか。大体50人、60人使うって本当は大変ですよね。3人ぐらいならいてもいいけど。
それを例えばリーズナブルな値はどれくらいかというところを設定してこれは、将来的なバイオマスがどれくらい、国内で使えるのか、自然エネルギーがどれくらい使えるのか。それを計算しますと日本の国内でバイオマスを全部一次生産の量から使えるエネルギーを計算すると、今使っているその50人から60人というエネルギーの大体6分の1くらいなんですね。15%くらい。ですから6分の1ということは10人、奴隷の数を50人じゃなくて10人に減らせば、バイオマスエネルギーで成り立つんですよ。
太陽エネルギーがそれにプラスもできますし、原子力を使わないで。そういう生活を絵に描いてみるということですね。そんなに不便ないでしょう。だって我々使いたくて使っているわけじゃなくてこういうビル建てるときに勝手にこんなに照明をつけてね、勝手に暖房をつけて、ぽかぽか暑すぎるようなところはいっぱいあるわけですよね。そういうようなところをどこの段階まで改めるのかというようなことできちんとある意味では将来像を描いてみる。それをサステイナブルな状態として描いてみてそこに近づくために現状から何を変えていくか、そういう発想に立つ。これが私は今一番重要、求められているんではないかと、そんなふうに思います。ちょっとご期待なさったこととはずれましたけど。
宮田)
いやいや、そんなことはありません。台本が壊れたことがまず問題だったんですけども。ただ、現世利益をここで議論しても、結局不信感が残るだけですよね。そんないいこと言ったってっていうことになっちゃうんで。そうじゃなくて、今の話すごく重要です。今の話を踏まえて、とりあえずトヨタがバイオマスで我々をなんとかしてくれるっていうことはバイオテクノロジーで可能なんでしょうか。
築島)
大変な問題ですが、ちょっとその前に鈴木先生、若干誤解、私どもの植林活動で誤解されているんで弁解させてもらいたいんですが、私たちも生物の多様性というかですね、それを壊そうという意識はまるっきりありません。もともと環境にいい事をしたいということでですね、ですからオーストラリアと中国で植えている樹種が違うというかですね、オーストラリアの場合、確かにユーカリを植えているんですが、これは元々オーストラリアの原生種で、600種類くらいのユーカリの種類があってですね、それがほとんどオーストラリアの大地を覆っていたわけです。それをもとに戻すというだけで、オーストラリアの生態系を変えようということに繋がることじゃないというふうに判断してます。
一方、中国の砂漠の緑化は、これはポプラだとかアブラ松だとか、中国のその地方にあった樹種を、特にその中でも乾燥に強い、私どももその乾燥に強い樹種を選抜する技術も持ち込んで、こういう樹種ならこれぐらい降雨量だともつという、そういうことをやってます。決して生態系を、違う外国からその樹種を持ち込んで生態系を変えようということをしているわけじゃないということをご理解いただければというふうに思います。
あとバイオマスからいろいろエネルギーとか、いろんな材料をつくっていく、これは全部すぐにっていうことは難しいと思うんですけども、それこそ20年くらいのタームで見ればかなり可能性はあるなというふうに思ってます。ただ、石油化学自体が、現在ものすごい歴史的な積み重ねの上にまた大規模に展開されているものですから、非常に精緻を極めているわけです。コスト面でも、技術面でも。当初は例えば私たちがやってますバイオプラスチックにしても、石油からつくったいろんなプラスチック、当初は出たとき非常に熱に弱いとか、陽にさらされるとすぐにぼろぼろになるとか、いろんな課題があったわけです。そういうのが徐々に技術の発達と共に解決されてきたり、今バイオマスからそういうものをつくっていくときに、その課題、今直面していると、ただ石油系の、そういう石油化学のときと違う苦労はものすごい、そういうふうな巨人がいるというかですね、巨人がいてそれを、非常に環境にいいと将来性あると言いながらこう非常に課題抱えながら小規模なレベルで戦っていかなくちゃならないと、そういうところが非常に私どもの苦労があるわけなんですけども。
ただ、いろんな技術、あきらめずにやってればどんどん課題を解決する技術は見つかってくるし、決してエネルギーをつくるにしても材料が、プラスチック等の材料をつくるにしてもそれは十分に時間と共に解決できることだと思っています。それこそ、バイオが、バイオテクノロジーが次の環境に調和した豊かな暮らしをつくるという面で言えば私は十分できるんじゃないかなと、こう、当事者として取り組んでてそういうような実感を持っています。 |
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