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第二部 パネル討論 「バイオテクノロジーは生活者を豊かにするか」 |
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パネル討論 |
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宮田)
それでは、環境問題にいこうかと思いますが、その前に、ヒトゲノムについて元祖ヒトゲノムの松原先生がおられますので、お聞きします。先生、ヒトゲノムの成果をどうやったら、私たちには還元される、役に立つということができるとお考えでしょうか?
松原)
簡単に一言でそれに答えるのは難しいのですが、ヒトゲノムをどういう具合にして国際協力で発足させたかということに戻って考えてみるとですね、日本のやり方というのは自然に決まるんです。それは、日本はそういうようなことを、先に口火を切って提案するということの絶対にできない国だったんですね。アメリカがどうしてそういうことの口火を切ったかというと、黒川先生、さっきいみじくも言われましたけれども、ナショナルアカデミーを中心にしてナショナルリサーチカウンシルという知恵を寄せ集めて、この国の科学と技術はこれから何をするべきかということを本当に問うて、本当に議論して、300人も寄り集まって3、4カ月も議論して答えを出して方向を決めていくという、そういう仕組みを持っている国なんです。
なんでもアメリカをほめるなんて黒川先生おっしゃいますけれど、こういうところはほめるべきなんです。どうして日本ではそれができないのか。日本の独特の問題とそれから世界全体の問題とアメリカが今持っているような問題との中で、そういうもののバランスをどういうふうにとるかということを本気に議論したことがあるかというと、ないんですね。ゲノムのプロジェクトの次は、じゃあNIHがこしらえたなんとかというプロジェクトのミニ版を日本でやろうぐらいのところで終わってしまうわけなんです。これがゲノムをどういうふうに生かすかというところの一番大事なところだと思います。
それからもう一つは、やっぱりイギリスもそっくりなシステムを持っているんですね、アメリカとイギリスだけがこういうシステムを持っているんです。そこを黒川先生、今突かれたのですね。日本の置かれている特殊な立場とこの世界の先進的な高齢化の問題にこれがどういうふうに使われるかということに関して、ただ単に今生きている人がただなんとなくハッピーであればいいというだけのものじゃない、それは何かといったらローマクラブが出したことに匹敵するインパクトのある知恵をどうやって集めるかというぐらいのコールはかけてやってもいいんじゃないのかなということを私は思っています。
宮田)
先ほどナショナルサイエンスカウンシルが日本にはなかったって言いましたけど、サイエンスカウンシルオブジャパンというのが黒川先生の学術会議の英文名ですね。微妙に変えているところがうまいなと。
黒川)
いや、これを1949年につくったときには、そういう機能を期待してつくったんですよ。
宮田)
ですよね。なんで変質しちゃったんですか。
黒川)
日本の人にはそういうメンタリティがなかっただけの話でね、例えば、学術会議だったのは原子力の平和三原則とか、それから国立大学の富士研究所の共同利用権とか、南極大陸に国際観測隊で行けと、昭和30年とかね、それから高エネ研をつくりなさいとかいう話、それを提言して、それが政策になってできたわけですよ。できたとたんに大学の先生は提案をしたそのブレインを全然感謝(アプリシエイト)しないで予算をつけてくれた文部省を向いているという知的社会の問題があるということを言っているわけです。
宮田)
それが、今年から変わろうとしているわけでしょう?
黒川)
大学の人たちのそういうメンタリティが変わるかどうか、私はちょっと時間かかるかなと思ってますけどね。
宮田)
はい、ここを触れすぎると深みにはまりそうなんで次にいきます。ただ、イノベーションっていうものを社会全体としてどうやって議論して、その需要、あるいは需要しないかを決めるかっていうコンセンサスメイキングシステムがないっていうところに、日本社会の最大の問題があると実は思ってます。それをメディアのせいにしたり、あらかじめちょっと防護線を張っておりますけど、あるいは教育のせいにしたりしてますけど、そうじゃないんじゃないかな。今、先生おっしゃったメンタリティとか、国の意思決定のありかたとか、そういう問題になってくるんじゃないかと思いますが、これはちょっと百年以上の病気なので触れないようにしようと思ってます。
黒川)
ちょっといい?
宮田)
はい。
黒川)
実はね、アメリカが9・11以後にデパートメントオブホームランドセキュリティをつくったでしょ?去年の2月に日米の枠組みで、アメリカと日本の科学技術とその国の安全っていう話の二国間協議が始まったんですよ。
実はそうなると各省庁が対応するわけね、日本は。向こうはちゃんとアカデミーの代表が一人来てるんですよ。それを全然知らなかったので、俺も出るぞって出たわけですよ。出て、省庁は両方でこうしてます、ああしてますって言うのはいいんだけど、昼休みに向こうのリーダーのリチャード・アトキンソンていうコリン・パウエルのサイエンスアドバイザーね、彼はケミストですね、アリゾナ大学のね。彼を昼間に呼んで、今年の11月の選挙でブッシュが落ちたらあなたも大学に帰るんだろうって言ったら、そうだって言ってる。そういう枠組みでアカデミーのブランスコム(Branscomb)氏と話をしてる。じゃあ政府間はそれでもいいけど、アカデミー同士では別にそれのインディペンデントなシンポジウムをやろうということで、今月の終わりに筑波でやります。センサーとセンサーシステムズっていうのをやって、報告書出しますけど、そういうプロセスがすごく大事なんですよ。
実は今度イギリスとナノテクとポテンシャルリスクというのを始めようと思ってますから、やっぱり日本の国内だけじゃなくて、むしろ国外の枠組みとやってそういう政策提言をするというプロセスを今どんどん広げようかなと思ってます。それが今までは二国間協議というと必ず省庁だけでやるんですよ。それがすごくまずいなと思ってます。 |
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