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パネル討論

第二部 パネル討論  「バイオテクノロジーは生活者を豊かにするか」



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宮田)
  皆さんこんにちは、日経BPの宮田と申します。それでは、パネルディスカッションをこれから始めたいと思いますが、私も長い間、こういうことを経験させていただいているんですけれども、基調講演でパネルの台本が破壊されるというのは初めての経験でですね、今、頭が実はパニックになっているんですが、黒川先生はある意味では結論を申されたと思っています。
  つまり、技術、バイオテクノロジーを技術としてとらえるならば、もちろん中立ですから、考えるのは皆さんだし、生活者って中には今貧困に喘いでいるようなサブサハラとかアジアの人たちも我々イマジネーションの中に入れて、私たち自身の日ごろの生活も含めて変えていかなければいけないと、もう結論が出てしまったということで、本当はここで終わりにしたいぐらいなんですけれども。まず、そうは言ってもこれだけの方が揃うっていうことは滅多にない機会ですので、今のことを基調にしてちょっと議論をしたいと、特に黒川先生がおっしゃったその2020年のベンチマークみたいなものを頭に入れてですね、一応2020年までに我々は今何を具体的にすべきかということで少しでもイメージができればいいんではないかと考えています。黒川先生の基調講演で今までずっと人類は病気と飢えというやっかいな問題に悩まされていたんですけれども、今のところ、先進諸国のごく一部でしょうけれども、ある程度の病気と飢えからは開放され始めている。で、代わって実はその環境問題というのは非常に大きくなって、なおかつ病気の代わりに老いという問題に我々は今直面してしまった。さらに最近ではですね、遺伝子組み換えの食品なども含めてですけれども、科学技術がこれだけどんどんどんどん知識がたまっていくんですけれども、一方で不安が増大してしまうという矛盾にもさらされてると思うんですね。
  ですからまず、今日取り上げなきゃならない問題というのは病気の中でいうと老いですね。高齢化問題、それから少子高齢化問題というものをまず考えなければいけないだろうと考えています。それではその少子高齢化問題について、まず、松原先生からバイオテクノロジーっていったいどういうふうに使えば貢献できるとお考えですか?

松原)
  真っ先に振られると一番困難な発言ですが、少子高齢化の問題というのはですね、実は社会をどういう具合にこれからステアリングしていくかということの一番根本にある問題だと私は思っています。これは黒川先生もさっき、まさにおっしゃった通り、現実にいろいろ起こったことが背景にあるわけなんですけれども、基本は私自身はバイオテクノロジーのことに関して、先ほども最後のところで申し上げましたましたように、テクノロジーが何のために存在しているのかというところの判断にあるんだと思うんです。
  それでこの点では、私は黒川先生のおっしゃったことと全く同じ感覚なんだなと思いますが、政治的なアジテーションではなくて、生命の研究をしてきた人間のこれまでの経験の総合としては、自分らは何のためにここに存在していて、どうしてここに存在しているんだということを考えるところから出発する、そういう社会を構築していくことがこれからの日本の向かう一番いい方向の一つであろうと思っております。そういう意味で最後のところのスライドをお目にかけたわけであります。(編集注;松原先生の講演録を参照)少子高齢化というのはこういう社会の一つの、現在のような環境をつくり出した社会の中の一つの必然でありますから、その中でそれぞれの人が次のジェネレーションに何を託すかということのビジョンの持ち方の問題になると思うんです。
  例えば、一昔の前のアメリカの政府のように役に立たない人間はどんどん消してしまえというようなことが、今日世の中で通用しておりませんので、それぞれの人が自分の一生がどういうために存在してきたのかということを考え、それが納得できるような格好の社会になる、その枠の中で考えることだと思うんですね。そうすると、自分はどうしてここに存在していて、先ほど黒川先生がおっしゃいましたように、600万年前に出現した人類はどうしてホモサピエンスだけになって、どうしてこの15〜20万年の間にこういうふうに突然世界に広まってしまったか、そして他の生物の多様性との間にどうしてこういう存在の仕方をしているかということを考えた中で、一つの必然の結果としてこういう現状がもたらされているということを理解して、それに対する対応策を考えるということになると思うんです。
  具体策というのは非常に困難なんですけれども、実はそういう目で今日の社会を見るとテクノロジー、それから経済の発展、それから何かの格好での力の獲得、そういうものへの志向が非常に強い中で、今の生命の問題に対する反省というか、そもそも勉強そのものが非常に貧困だということを私は非常に強く感じています。その辺のところを問題提起ですね、宮田さんの挑発に対して答えをするということはできませんけれど、そういうところが一つの発想の原点になって、これからのベンチマークをどういうふうにつくっていくかというところにあるんじゃないのかと思います。これは誰が考えたって、経済の発展がむちゃくちゃに続けられるわけがないですし、それから食料やその他のことも含めて生活の向上がどこまでもいくはずのものでもないです。
  そういう上では、私たちの親の時代というのはまだ貧しい、あるいはいろいろこうありたいということが実現できないことを我慢しながら暮らした時代ですから、子供の世代にはせめてこういうことをできるようにさせてやりたいと思って一生懸命働いた世代です。私たちの世代になると、子供のために何をしてやったらいいかということがあんまりよくわからなくなってきた、むしろ不安の多い世代でありますから、先ほど黒川先生のおっしゃったように、では私たちはこういう社会で何をするかと、何を最も求める、次の世代に最も求めるのは何かとそれは労働力の安定の確保でもなければ経済の持続的な発展でもない、何かもう少し違う、命とはこういうものなんだというところに基づいた考え方が有り得るんじゃないかなというふうに思います。宮田さん、どうもすいません。

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