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パネル討論

第二部 パネル討論  「バイオテクノロジーは生活者を豊かにするか」



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宮田)
  ありがとうございます。後で環境問題については築島先生と鈴木先生にお伺いしますが、その前に、黒川先生、ヒトゲノムというのが2003年4月に完了しましたよね。僕らはメディアでワーワーワーワーはやし立てて、もうすぐに何かが起こるというような期待を抱かせてしまった。ヒトゲノムで、その解読の結果、我々はその先ほど言った2020年のベンチマークが変えられるようなインパクトは与えられるのでしょうか?

黒川)
  それはさっき言ったように、わかった情報を何に使うか、それは何のためのかという、やはりビジョンが大事で、これはかなり政治的(ポリティカル)リーダーシップが大事です。今年は、先ほども言いましたように、イギリスがホストになってG8をやりますが、ブレアさんは気候変動(クライメートチェンジ)とアフリカ問題だと、この二つに限っています。やっぱりそういうリーダーが出てくるということが大事ですが、イギリスの場合、どうしてそういうリーダーが出てくるかというと、現在のグローバルの一種になると、今までの20世紀をドライブしていた、利益追求(フォープロフィット)の企業(コーポレート)の哲学(フィロソフィー)とは合わないんです。
  それからもちろん、政府の、国家(ナショナル)の利益(インタレスト)だけをやっていてもうまくいかないんです。だから今までは国家(ナショナル)の利益と、企業(コーポレート)の利益を追求していたものがインターナショナルだったんだけれども、今そのナショナルボーダーがなくなって、グローバルになってきたというときに、じゃあ誰が政策決めるのかというのがすごく大事になってきたんですね。科学者は、自分たちの分野のフロンティアをやっていれば、たとえばノーベル賞とか、アインシュタインなんかもね、それでよかった。だけど、ここ10年くらいは、実は科学者コミュニティ全体の意見は何なんですかという話を、そういうビジネスなんかが、そのポリティカルリーダーにかなり求められるようになってきた。
  特に先進国が大事で、私も先週ダボス会議に行って、インターアカデミーカウンシルに行って、昨日の午後帰ってきました。インターアカデミーカウンシルでも、去年二つコフィー・アナンさんに頼まれたのは、一つは、キャパシティ、ワールドワイドキャパシティビルディングとサイエンスアンドテクノロジーという教育ですよ、なんといってもね、次の世代の教育です。二番目のリポートは、これは国連に頼まれたフードセキュリティフォアアフリカというものです。アフリカで4箇所くらいワークショップをして、いろいろやってきましたよ、リポートを出したりしました。インターネットで見られます。やはりそういうものが求められていて、その辺はイギリスは非常に戦略的にうまいなと思います。イギリスは日本と同じ島国なんですよ。
  日本はすぐ島国って言いますけど、それじゃイギリス見ろっていつも言うんだけど、やっぱりトップがアフリカ(問題)とクライメートチェンジ(問題)だということをG7で強くアピールしている。ちょうどハドレーで昨日まで多分やってたと思うんだけども、サイエンスコミュニティの打ち合わせのミーティングやってます。そういう動きが今もうどんどんどんどん動いてきてますから、学術会議も実際変われという話は、そういう話で、そういう意味でやっぱりアングロサクソンには歴史があります。
  この間1月の18日、アメリカのナショナルアカデミーに行って話をしたら、やっぱりそうでした。今のブッシュ大統領のサイエンスアドバイザーはマーバーガ(John Marburger)です。同じテーブルに座って晩飯を食べてたらですね。マーバーガ(Marburger)、大変だねなんて話をしたら、いや大変じゃないよと、何かその科学技術とかいろんな問題があればすぐにアカデミーに相談すればいいんだからって言うのです。そういう関係を伝統的に築いているんですよ。だけど日本でそういう伝統があるかというとないんですよ。
  つまり、有名な科学者を審議会に入れておけば、役人の言うこと聞くかななんて話でね、学者もそう思ってるからよくないんだけど。そういうふうに世界のリーディングカントリーのサイエンスコミュニティはぐっと一緒になって今動き始めているっていうのは、今までのコーポレートのフォープロフィットという話と、ポリティカルなナショナルセキュリティだけじゃもう済まないんだという認識がぐっと上がってきたということです。だからサイエンスコミュニティの意見はどうでしょうかと問われているということになってきていると思います。

宮田)
  先生に伺うと必ずグローバルな方向にいきますが、仮に先生が小泉首相の次になるとして、ヒトゲノム計画をどうやって2020年の少子高齢化に帰すか。それで、もう一つ、アメリカの例を申し上げますと2年前の秋にNIHがロードマップというのを打ち出しました。それで昨年の3月にFDAがそれに対する既成科学をアジャストするというクリティカルパスというのを出している。彼らはヒトゲノム計画に3千億円、日本も入れてですけれど、投入して、これはアポロ計画と同じお金ですよね。それを民生化しようと、つまり、医薬品とか医療産業に帰しようとしてます。黒川首相だったらどうしますか?

黒川)
  いや、それは、なんでもアメリカがいいと思っているところが間違いでね、つまりアメリカの製薬企業がブッシュのほうを応援していたのは、薬価が自由だからです。アメリカの薬価が自由だということで、もう年寄りが皆困っています。なぜかというと、日本もアメリカも、日本では毎年百万人死んでますけれども、死ぬ人の3分の1はがんです。これはもう高齢化するからしょうがないんだけれども、もう一つの3分の1は生活習慣病です。血管のね。太ったから糖尿病なんて、自分の生活を改めろと、そんなことで何を言っているのかという話になってくるわけです。その薬はもう全部自分で見てくれって、それはかまわない。
  けれでも、アメリカでは、実際にその患者さんが困って何が起こってくるかというと、インターネットで、カナダの薬局(ファーマシー)はコストが規制(レギュレート)されていますから、カナダから大量に買い込むのです。年寄りはお金がないからカナダにバスで旅行してますよ。団体ツアーで行って買い込む。だからそういうふうになってきたときに、アメリカの製薬企業が投資をして、薬価が自由だというところが世界で本当にリーダーシップが取れるかというと、これは非常に疑問になりつつありますね。
  そうするとそこで儲けたお金をどこに還元するかということが世界中からかなり注目されていて、それをするかしないかでアメリカの企業(コーポレート)の株(ストック)がもうがらっと変わってくるだろうという動きになってくるだろうと思います。
  だからバイオテクノロジーを使うのもいいんだけど、使って何をしたいのかということです。コーポレートのフォープロフィットだけじゃ多分済まなくなってきて、アメリカ人はたくさんお金を払ってサイエンスが前進(アドバンス)させた。その前進(アドバンス)になったものを他の国、特にアフリカとかアジアの低開発国の人たちにどう分配(デリバー)するかということは、どうするんだろうかというのが大きな世界的な枠組みだと思います。

宮田)
  それはエイズのゾロ薬問題もですよね。

黒川)
  そうです。今考えているのは、一つは例えばインドの製薬企業なんか、そういうところに早くテクノロジートランスファーして、ゾロ薬みたいなのは、そこからどんどんアフリカとかアジアに配るのがいいんじゃないかという話もあります。そこにやっぱり中国のマイクロソフトもそうだし、それからインドのバンガロールなんかでもそうだけど、アメリカの大きな会社はああいうところに研究所とかテクノロジートランスファーをどんどんしているのは、グローバルコーポレートとしてどういう戦略をとるかという話がグローバルなコミュニティがどういう評価をされるかということであり、そのことで株(ストック)がかなり変わりますから、そういう戦略はつくっているということです。

宮田)
  ということは、日本の武田薬品とか今いいところはアメリカの市場でうまくやっていますけれど、あのビジネスモデルはもう古くなる?

黒川)
  だから次何をするかが問われてると思いますね。

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