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第二部 パネル討論
「バイオテクノロジーは生活者を豊かにするか」
日本学術会議会長
黒川 清 |
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基調講演 |
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飢えこそ知識の元
今日は、基調講演ということで、武田会長にはいろいろとお世話になっておりまして、こういう講演会の機会をつくっていただけるというのは大変すばらしいと思います。もっと増えるといいと思います。
本日はそこで何が問題かということです。バイオは何かといいますが、地球上では遺伝子によって、突然変異(ミューテーション)が起こりながらどんどん進化します。脊椎動物の中で人類がこの地球上に現れたのが、だいたい600万年前じゃないかといわれております。ご存知ですね。ところが、私たちのホモサピエンスは、15万年前に出てきたとわかっています。イブという人です。そうすると600万年前と15万年前の間には、いったい何が起こっていたのかということを考えてみてください。つまり、こういうことをたまに考える人が出てくると一生懸命勉強するので、突然、これかということがわかるわけです。そういうことを考えないと、何もわからないわけです。それには気候、氷河期とかいろんな説がありますが、よく考えてください。
ネアンデルタール人は3万年前ぐらいまでいました。一緒にいたときもあったのに、なぜネアンデルタール人は生き延びないで、ホモサピエンスだけ生き延びたのでしょう。それまでおそらく20から30種類のホモサピエンスがいました。去年、ネイチャー誌に出たように、インドネシアでも非常に小さな人たちがいたわけですが、その人たちは18,000年前にいたらしいのですけれども、我々とはつながらなかった。なぜホモサピエンスだけが、こんな大きな顔をして今日こんなにたくさんいるのか。今日、我々は人工物の中に囲まれて、まったく自然とは離れた生活をしている。
なぜホモサピエンスと他のヒューマンとは違っているのかをよく考えてください。いろいろな説がありますけれども、よく考えているとリンゴが落ちたのを見て、あっ、そうか万有引力はそうだと気が付くのであって、考えていない人は何を見てもわかりません。そこで、ホモサピエンスは15万年の間、何をしていたかというと、つねに飢えと病気と闘ってきたわけです。子供がぼろぼろと死んでいたことと飢えです。だんだん、それについての知恵がついてくる。これが人間の知識の元であり、1万年ぐらい前にはじめて農耕民族が出て、それから数千年の間に文明というのが、いくつか出てきたというのが人間の歴史です。せめて数千年ということです。その間、飢えと病気があったわけですけれども、それに対する知恵というものがいろいろあって、次の世代に残していくために、口で伝えるだけでなく、書物とか文明が生まれました。はじめに文字、紙ができて、最初は石に書いていたのですが、いままでの経験知が残されていって、これだけ頭のいい人たちが残って、人工物に囲まれて変な生活を送っているということになっちゃったということであります。
人間はつねに生き延びたいと思っています。知恵を溜めながら、例えば14世紀、ヨーロッパでは人口がようやく3,000万人になってきます。ところが、14世紀中頃の3年間に、あっという間に1,000万人がいなくなってしまいます。ペストです。黒死病とも言われました。彼らは神様の罰だと思っているのですが、そのようなことであります。今やペスト菌のせいだというのはわかっていますが、それがわかったのは1894年のことです。香港で最後の大流行があって、北里柴三郎などが行って見つけたわけです。それがたった100年前の事です。 |
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