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第二部 パネル討論 「バイオテクノロジーは生活者を豊かにするか」
日本学術会議会長
黒川 清 |
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基調講演 |
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激変した世界の100年を考える
みなさんが一生懸命生きようとして、動物、植物は次の子孫を残そうとするのが遺伝子の命令でありますから、それに従います。それで何が起こったかというとローマ帝国時代、その時代一番進んでいた社会で、人の余命がローマ時代で25歳まで伸びてきます。子供で死んでしまうことが多いのですが、栄養失調とか伝染病とか5歳未満で死んでしまう事が多い。このとき平均寿命が25歳だったのが、100年前、ヨーロッパなどでようやく40歳になった。ローマ帝国時代から15歳伸びるのに2000年かかっているのです。
ジェンナーがスモールポックス、天然痘を見つけたのが18世紀の終わりです。この時代に、少しずつ公衆衛生とか経験知が、より普遍的になって衛生状況がよくなり、栄養状態がよくなって寿命が伸びてくるということになって、ようやく25歳から40歳になるのに2000年かかりました。では、この100年でどう変わったでしょうか。今、日本やアメリカでは80歳です。2000年かかって15歳が、たった100年で40歳伸びるのはとんでもない世界ですよ。今の世界があたりまえと思っているのが異常なのです。このことを、まずよく理解してください。
今年はアインシュタインが奇跡の五つの論文を出してからちょうど100年です。相対性理論
E=mc² といって、ものにはエネルギーがあるということですけれども、その論文を出して、しかもブラウン現象の論文を出して、さらにフォトエレクトロンの論文を出したのが1905年です。彼は、スイスの会計事務所をしていたおじさんでした。今年は国際物理年ということで、いろんな催し物があります。それがたった100年前ですけれども、アインシュタインの論文が出て40年後に原子爆弾が二つ日本に落ちるなんて誰が考えましたか。けしからんと思うでしょう。たしかに、けしからんですよ。だけど今、日本の電力の30パーセントは原子力発電です。どうしますか。100年でこんなに変わってしまったのですよ。100年前に想像ができたでしょうか。
ということから、これから来る世の中を想像できますか。1903年の12月17日に今まで不可能(インポッシブル)だといわれてきたことをした人がいます。自転車やさんです。ライト兄弟です。はじめて人間を乗せて、動力で10秒間40メートル飛びました。それから、1927年にはリンドバーグが大西洋を渡りました。1969年には、人間が月に行きました。こんなことが起こると思いましたか。たった100年でこんなに変わったのです。あしたニューヨークへ行こうと思えば行けるでしょう。たった10時間ですよ。サンフランシスコまで8時間。こんなこと予想できましたか。
なんでこんなことが起こったのでしょう。それは、ずっと戦争があったからです。戦争に投資したからです。ということを私は言いたいのです。アポロ計画も、コンピュータも戦争があったから国が投資したのです。だからその民生化によって経済がすっかり変わりました。今でも戦争をすればどんどん儲かりますよ。そんなことをしますか。一部の国がやりますけど。それが常識だと思うところに今の人たちの非常識さがあるということです。
50年前にDNAの構造がわかりました。その50年後に、人間のゲノムのシークエンスが読み解かれるなんて誰が予想しましたか。たった50年前ですよ。DNAの二重らせん(ダブルヘリックス)がわかったのは。それはコンピュータの演算能力ですよ。それから先ほどのお話しにもあったようにオートメーション、マイクロ化という技術があったからです。技術があったからですが、その前に知りたいという人間の知的欲求があったからです。何を知りたいかということを考えていない限り、技術は目的ではなくて、手段だから、何を知りたいのと言わなくてはいけない。今、世の中が変わったといっても、みなさんは何を知りたいのでしょうか。 |
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