吉川先生と西村先生を囲んでの全体座談会
1.Disciplineの価値評価
2.賞賛の意味
3.目に見えないものの評価
4.生活者の欲する空間
5.本来の工学
6.第二種基礎研究の例
7.公的資金と私的資金
8.現実に富を作るのは企業
9.第二種基礎研究は民にもある
10.目標設定が重要
11.第二種基礎研究には方法論の構築が必要


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6.第二種基礎研究の例

(垂井) 
私、電総研の出身でございますけれども、電総研におりまして苦労しましたのは、自分のやっている研究の正当性を周りなり上なりに理解していただくのが、非常に難しいところでございました。先ほどのお話をうかがいまして、第一種基礎研究と第二種基礎研究、特に第二種基礎研究が非常に幅広くできておりまして、非常にやりよくなるのではないかと思うわけでございます。それで、第二種基礎研究の例のようなものが明確に示されていると、そういう意味ではやりやすくなるのではないかと思うのです。私の知っている範囲ですと、最近のSOI、シリコン・オン・インシュレーターがございます。あれの研究が1つの例になるのではないかと思います。
 最近のシリコンデバイスがだんだん高周波とか低電流とかになりまして、SOIに向かいつつあります。これはリークも非常に少ないし、インタラクション、キャパシタンスが少ないしよろしいと。これをさらに薄くしようということで、最初にSIMOXというのができたのです。これはNTTの泉さんという人がやられたのですけれども、シリコンに酸素をインプラ(酸素イオンを打ち込む)しまして、シリコンの中間にSiO2層をつくろうというものです。これはインプラがわかっているし、酸素とシリコンとでSiO2になるというのはわかっておりますから、第二種と言えば第二種なのですけれども、これはシリコンの2倍の酸素を使いますから、酸素がシリコン結晶を壊しながらはいって、シリコンが後で使えるだろうかという問題があります。それから、シリコン層の後ろに、このSiO2層がセパレートしてちゃんとできるだろうかという問題があります。ですからこれは未踏分野が相当あるので、さっきの研究の話でいきますと第1.xぐらいだろうと思うのですね。
 ところがこれを見て、フランスの国立研究所だと思いますけれども、LETIという研究所があるようですけれども、そこのブリューエルという人が、このSIMOXを10年間ぐらいやったらしいです。しかしやはり酸素が重たいのと、それから表面のシリコン層を完全にするのが難しいので、苦労を重ねましたが、さすがフランス人、考えまして、第二種基礎研究の定義にございますように、複数の普遍的な事実ですか、知識を使って新しい方法を作り出すのです。
 まずインプラでSOIをつくったと。すでにこういう技術があるわけです。ここでブリューエルが素晴らしかったのは、酸素を水素に変えたらどんなだろうかということを考えたのだと思います。水素は結晶を破壊することがわかっています。それからシリコンを酸化して、その面がSiO2になることもわかっておりますね。それからもう1つ、シリコンとSiO2がよくつながる、すなわち、よく接着します。こういう複数の知識があったのですね。彼がどうやったかと言いますと、シリコンに水素を打ち込んで、あるところまで水素を入れまして、一方もうひとつのシリコンを酸化します。そのうえでもうひとつのシリコン結晶を、ばさっと押し付けまして、適当な熱処理をしますと、接着します。さらに水素を打ち込んだ所でバリンと剥がれて上がとれます。これでSOIができるのです。この方法は現在ワールドシェア、ナンバー1になってしまったのです。第二種基礎研究の定義を見ながら、私が考えたのはこういう複数の普遍的な知識を用いた新しい発明ですが、いろいろと前のものを有効に使っているので、これはもう第二種として考えていいのではないかと思います。第二種なのだけれども、社会的な影響、経済的な影響が非常に大きいという意味で、こういうのが第二種のひとつの良い例になるのではないかと思っております。これ、NTTで第1.x種基礎研究で、フランスの国立研究所みたいなところで第2種基礎研究でございますから、産総研もこの第2種基礎研究みたいなものをどんどんやったらよろしいのではないかなと、そう思ったのですけれども、いかがでしょう。

(内藤) 
今のお話、非常におもしろく聞かせていただいたのですけれども、あれは産総研が似たような議論をずっとやっていますけれども、ある1つの材料分野の研究というのはこういう側面があるわけですね。どういう性質なり、どういうのがあるのかというのは、だいたいよくわかっている中で、それをどう組み合わせていくか、そういうかたちで新しい材料をつくっているわけです。ここにいくつかの重要なポイントがあって、まず在来のデバイスというのは、依然として要素技術です。これは社会にとって実際の価値あるものをつくりあげようとした場合は、やはりその後に大きな第二種基礎研究が、サバイバルのような研究が必要で、産総研はそこまで何らかの責任を負うべきなのではないかという議論を中でやっています。
 もう一点、この点で非常に重要なことは、特に材料分野では、なぜそういうふうになるのだということが後からわかることがあります。たぶん今回の場合、その原理はある程度わかると思うのですけれども、いくつかの材料にやらせていて、分析を重ねていくことによって、新しい技術を、なぜそれができる、なぜそうなったのだという研究は後から追いかけてきます。これは何が起こっているかというと、確かに先生がおっしゃったように第二種基礎研究を先にやって第一種基礎研究が後から追いかけてくるのです。

(垂井) 
第二種基礎研究の後を第一種基礎研究が追いかけるとは思いませんね。第一種はむしろ、先立つのです。これから言えばそうです。

(内藤) 
ただし、この場合はそうかもしれないし、そうじゃない場合も…。

(垂井) 
ベーシック・リサーチという意味では後から第一種をやっていく時がありますけれども、これは、私はやはり第二種の中の人が、直観を持って適切なことをやって、済ませちゃうほうがいいと思います。あまりこう、その下のほうでうごめく人をたくさんつくらないほうがいいです。

(内藤) 
すいません。私が言わんとすることはそういうことでなくて、むしろわれわれはそっちに対する批判を今、非常に強めているのですね。なぜかというと、ある物をつくろうという、今西村先生が言われたような、ある動機でお金をもらってきて、その動機のことをやらずに、一生懸命論文を書いているというのは、まさしく第二種のような研究をやると説明してある種の第1種的な研究で終わっているということが、実際には圧倒的に多いというのが現実なのです、現場を見てきた場合。われわれは、当初の動機なりニーズをしっかり責任を持っていこうというのが一方の議論なのです。現実の研究開発の現場に行った場合、こういう事例もありますけれども、例えばいろいろな既存の知られた知識を組み合わせていく過程で、新しい現象が見つかり、それが非常に偶然的に出てしまう。多くの場合は、企業なり非常にミッションがはっきりしている場合、それを無視して既定の開発のほうに行ってしまうのですが、多くの公的機関の研究所がおかす間違いというのは、新しい未知現象を解明するほうに重心が向いてしまうのです。それをいったいわれわれはどうマネージしていくのかというのが、責任重大というか大きな課題です。

(垂井) 
やはり第二種の左の一番上に書いた、ターゲットが内的ではないのではないですかね。

(内藤) 
おっしゃるとおりです。ターゲットに向かっていくという問題と、途中でターゲットを追って別の方向に行ってしまうというのは、たぶん多くの工学でとっている悩みではないかと。

(垂井) 
それが第一種基礎研究と認定できるものであれば、やはりやったらいいと思いますけれども、やはりその先行きですね。先行き泥沼臭いのはやめるという。

(内藤) 
必ずそれをやらないとできないという、これをやらないとこれがわからないとこれはできませんので。本当ですかという疑問が常に聞いていかなければならないです。

(垂井) 
先ほどのものと、チームリーダーですか。それが行く方向をしっかりとセレクションしてやっていくのでしょうね。

(内藤) 
産総研の議論においては、やはり良識な人がたくさんいて、やはりチャンピオンデータを追求する必要はないのだと、経済的安定性、長期的安定性が重要なんだという議論がずいぶん出てきています。

(垂井) 
私、産総研のすべての研究を今、申し上げようと思っているのではなくて、こういう例はいかがですかということを申し上げているのです。こういうサイクルが1つあると思うのです。



 
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