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福井カフェ(2日目)
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リーフレット

科学技術週間 カフェ・デ・サイエンス in 福井


講師: 斎藤成也(さいとう・なるや)、
ゲスト講師: 佐々木閑(ささき・しずか)
日時: 2006年4月22日



あなたはどこからきたか −日本人のDNA− BACK NEXT

三井: もうあまり時間がないので、再開したいと思います。忘れないうちに申し上げておきますが、 なるべくアンケートをお願いします。それから、文科省が今年の科学技術週間のために「ヒトゲノムマップ」というのを作ってくれたんです。 それが、向こうのテーブルに置いてありますので、お帰りに1枚ずつお持ち下さい。では、続けます。

斎藤: 私がおります国立遺伝学研究所には、いろんな系統のハツカネズミ、つまりマウスがいます。 「MSM」というかっこいい名前の系統のネズミがいるんですが、何のことはない、三島の略です。我々の研究所のあるのが三島市でして、 30年前に、三島市のどこかの住宅で見つかったネズミから作られた系統ですが、こういうのが、厳密な意味での純系です。クローンですね。 どういうことかというと、最初は数匹のネズミだったんですけども、それを姉妹兄弟交配、要するに近親婚をさせるんですね。 ネズミを強制的に交配していく。そうすると、遺伝子がだんだん同じになっていく。最低でも30世代くらいですかね。 30世代といっても、ハツカネズミというくらいですから、一世代は最小20日。1ヶ月としても30ヶ月ですから、そんなにたいしたことはないんですが、 交配を延々と繰り返す。別の親から生まれているのに、遺伝子からDNAはみんな同じで、そういうのを、厳密な意味での純血といっています。 実験で使う動物では当たり前で、遺伝学で使うショウジョウバエや線虫にもあります。では、日本人にクローンがいますかということですが、 強いて言えば、双子です。双子の二人だけとって日本人だということはないので、単純な結論としては、日本人に限らず、 どんな人間でも、純血はいないということですね。ただ、私は時々フッと思うんですが、こういう顔は中国のこういうところにいる、 こういう顔は韓国にもいる、こういう顔はベトナムにもいる、こういう顔はエスキモーにもいる、というのをズーッとやっていって、 引き算していくんですね。そうすると、日本以外に、世界のどこにもいない顔の人、それが、純血とは言いませんけど、日本人らしい顔じゃないかなぁと。 でも、どんな顔なんでしょうねぇ(笑)。私の人類学の先生だった尾本先生のことを、「下駄」と言っていて、長くて四角い顔でしたが、 そういう顔を余り見たことはなかったんです。ところが最近、テレビを見ていたら、似た顔の方がいらっしゃったので、ふぅーんと思ったんですがね。 昔、フィリピンに行ったときに、フィリピンのとある村の村長さんの顔を見て、貴方は日本の有名な人類学者である今西錦司先生に似ていると言って、 この先生は何を言っているのかという顔をされたんですが、今西錦司さんというのも、かなり変わった顔ですけど、 あの顔に似た方がフィリピンに居たということで、日本人特有の顔は、ああいう顔でもないんですよね。もし、日本人にしかない顔というのがあったら、 私は、純粋な生粋の日本人というレッテルをあげてもいいな。

三井: 本当ですか。顔の形を決める遺伝子は全然分からないという話と矛盾しませんか。

斎藤: 遺伝子の話じゃなくて、顔だけ。それは、単に私の趣味ですけど。

>> O型は純血という言い方をしますよね。A型とかAB型は混ざるとか。血液型のO型の純血というのと、 日本人の純血とは全然違う話なんですか。

斎藤: 違いますね。ただし、O型だけで純血な人達はいますよ。日本人じゃないですけど。 ブラジルのアマゾン川流域に住む先住民の人達は、100% O型です。そういう意味では、血液型に関しては純血ですね。誰をとったってO型の遺伝子ですから。

>> 以前聞いた話で、危ないような、変な話でもあるんですけども、人間が生涯で経験することは全てDNAに書かれていて、 いつ生まれて、誰と会って、どういう人生を送って、誰と結婚して、どう死ぬかと。こういうのを専門家の人はどういうふうに思われているんでしょうか。

三井: そういう話をご存知の方、いらっしゃいますか。

>> 一ヶ月くらい前に見たガタカ(Gattaca)という映画の冒頭で(私は、2回見ました、と斎藤さん)、 これは近未来の話だというんですけども、主人公が生まれたときに検査を受けて、生まれた子供が39歳で、 99%心臓病で死ぬみたいなことを言われるんですけども、そのようなことだと思います。

三井: 2回もその映画をご覧になったということで、斎藤さん。

斎藤: 最初に質問された方は、もっと深刻なことだったんだと思うんですけども、 何で私が「ガタカ」を好きかと言うとですね。実は、もう少し有名な映画で、キル・ビル(Kill Bill)というのがあるんですが、 その主人公のユマ・サーマン(Uma Thurman)のファンなんですよ。佐々木さんは、ユマ・サーマンのお父さんに会ったことがあるらしいんですがね、 仏教学者ですから。そのガタカにもユマ・サーマンが出てくるんです。もちろん遺伝子の話なんで、それはそれで面白いんですけどね。 DNAを検査して、病気になる確率だったら、ある程度は言えますね。これは、近未来にあり得ます。実際に、 ヒトゲノム計画でいろいろと問題になっていることの一つは、保険会社しか得しないんじゃないかということなんです。このDNAだったら、 こういう病気があり得て、成人病の確率はどれくらいだということで、生命保険の掛け金の計算に有利だと。それだけじゃないかという意見もあります。 だから、部分的に書込まれているということはあり得ると思うんですが、全部ということはね。

もう一つ、その小説のヒントになったと思われるのは、一卵性双生児、双子ですね。双子はふつう同じ家で育ちますけれど、家の問題で、 あるいは経済的な問題で、別の家へ片方が養子に出されるとします。そうして、20年とか30年経ってから再会する。そういう話があると、 それが、先程の「氏か育ちか」ということの重要な研究材料になるんです。つまり、双子と言っても、同じ家に育っていたら、氏も育ちも同じですよね。 それじゃ、区別できない。せっかく同じDNAをもっているのに、同じ家で育ってもらったら、つまんないんですよ。だから、同じDNAをもっていて、 全然違う家で育っても、似ているところがあれば、これは遺伝子のせいだろうという理屈でして。笑い話というと失礼なんですが、 一応論文に載っている話で、アメリカの例ですけども、ある双子が数十年ぶりに再会したと。飛行機のタラップから降りてきたら、 何とアクセサリーの趣味が同じだった。奥さんの名前も同じで、ペットの犬の種類も同じだったそうです。一組だけの話だと思うんですけど、 そういうのから類推して、DNAに全て書込まれているというような幻想があったのかもしれませんが、基本的には、全くデタラメな話です。

>> 例えば、日本人は勤勉だとか、ドイツ人はカッチリしているとか、こういう国民性があるとしたら、 これは遺伝子と何か関係があるんでしょうか。

三井: 何か関係があるかと言われれば、あると仰るんですね。

斎藤: もちろん、我々は遺伝学者ですので。先ず、勤勉だということが遺伝子で決まっていることが大事ですね。 日本人とドイツ人は、多少違いがありますから、その違いが勤勉性と対応していれば、ひょっとすると可能性があると思います。 ただ、かなりの場合は文化の影響のほうが大きいという気がします。昨日の「MOJI CAFE」ではあんまり議論されなかったんですけど、 癇癪を起こすという遺伝子はあり得ますね。癇癪持ちというのは比較的単純ですが、勤勉というのは複雑ですからね。今、かなり研究が進んでいますけど、 全部が心理学的な比較をされていて。心理学もちょっと危ない学問ですから、私は半分しか信じておりません。

三井: 去年、私たちの財団は、東京で、こういうカフェを6回やったんですね。そのときに、脳をテーマに採り上げて、 いろいろな気質や能力が、遺伝や環境で、どのくらい決まっているかというのを議論しました。それが記録としてウェブに載っておりますので、 興味がおありになる方は、どうぞご覧になってみて下さい。そんなに厳密なお話はできませんでしたけれど、近々、本にもなる予定です。

>> 美容整形手術で外見が変わっても、子供が整形した親のほうに似たら、整形前の顔に似るってことじゃないですか。 美人が生まれるように、遺伝子から変えることはできないんですか。

三井: 女性にとっての永遠のテーマですね。

斎藤: 遺伝子治療という言葉がありますね。私は、冗談半分で、 遺伝子美容があってもいいんじゃないかと言っているんです。鼻の高さとか、おでこの形とか、尖った顎なんかの遺伝子は未だ分かっていないので、 実用化できないんですけども、実用化できるとすれば、ビタミンCくらいですね。我々はビタミンCを作れないんですが、 ビタミンCを作ることのできる遺伝子は他の生物が持っているので、その遺伝子を自分の中に入れてやる。遺伝子治療というのは、 遺伝子に問題がある病気の人の治療ですね。だけど、ビタミンCというのは、我々全員が作れないんです。すでに健康なのに、 そういう変な遺伝子をもったりすれば、どうなるか分かりませんが、遺伝子美容の可能性は十分ありますね。 自分の思いどおりの遺伝子の組み合わせで受精卵を作る。そして、自分の顔とは全く違うような顔の子供ができる。 それは、理論的には、十分あり得ますので、それで金儲けができるということになれば、当然、研究が進むと思います。

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Last modified 2006.07.04 Copyright(c)2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.