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講師: 斎藤成也(さいとう・なるや)、
ゲスト講師: 佐々木閑(ささき・しずか)
日時: 2006年4月22日 |
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あなたはどこからきたか −日本人のDNA− |
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三井: 今日は、皆さんと専門家の方とのあいだで、科学的なお話をなさって頂きます。
科学的と言うと、特別なことのようにお思いになるかもしれませんけれど、科学というものを特殊なものだとお考えにならないで頂きたいんです。
今日は、専門家の方も専門用語は絶対にお使いにならないというお約束です。普通の言葉で話して下さいます。皆さんもそのようにお願い致します。
皆さんが、どんどん発言したり質問したりして下さると、今日の講師の方、斎藤さんと佐々木さんも、お二方の専門的な立場から、
ここまで分かっているとか、あるいは、こういう理由で分からないというようなことを、明確にお話になれるのではないかと思います。
サイエンスカフェとか科学と言うと、あまりバカなことを言っちゃいけないのではないかと心配される方があるかもしれませんが、
そういうご遠慮は一切無用です。むしろ、専門家でない方が仰ることのなかに、専門家にとっては、ドキッとするようなことが多かったり、
非常に新鮮なことがあるんです。これからお二方をご紹介したいと思いますけれど、その前に、ちょっとお断りしておきたいことがあります。
今回の様子を写真に撮らせて頂きますけれど、これは後で、私達のホームページに載せるかもしれませんので、写真を撮られたくない方は申し出て下さい。
それから、今日は、なるべくリラックスしてお話して頂きたいので、おやつの時間に田楽とよもぎ団子を用意致しました。
それが2時半頃届くことになっています。温かいうちに食べないと美味しくないそうですから、そのときに議論が盛り上がっていても中断させて頂きますので、
ご了承下さい。
昨日は、福井駅の近くにある「MOJI CAFE」というところでサイエンスカフェをやり、いろいろ学習したことがあります。
そこでは、講師のお二人が、お互いを紹介し合うという形にしたんですが、今日は、そのときに得た知識を基に、私が簡単にご紹介致します。
斎藤さんは、福井出身で、かつ学術会議会員でいらっしゃるということで、今日の講師になって頂きました。
実は、今年の科学技術週間に、全国でサイエンスカフェをやろうということになりまして、武田計測先端知財団には、どこか地方でやってくれと言われました。
そして、ご縁がありまして、福井でやることになったんです。斎藤さんは遺伝学者です。
今日も、進化のことについて、いろんなご質問があると思いますが、お一人で、それを受けて立つのは大変だろうと思い、
どなたかもう一人ゲストの方をお呼びしたいんですが、どなたがよろしいでしょうかとお尋ねしたところ、言下に、佐々木さんと仰ったんですね。
実は、お二方とも藤島高校の出身でいらっしゃる。そして、斎藤、佐々木ということで、出席簿の順番が並んでいたこと、
それで、高校時代から親しかったということがあるんだそうです。斎藤さんは自然科学のほうへお進みになりましたが、お書きになったものを拝見しますと、
若い頃から、仏典などを好んでお読みになったということなんですね。
佐々木さんのほうは、工学部で化学を専攻なさったのに、なぜか今は宗教学をやっていらっしゃる。
その辺にも何か二人を結びつけるものがあったのかなと思います。今日は、両方の面から、日本人はどこから来たのかとか、
日本人のDNAとか、そういう問題をお話下さると思います。サイエンスカフェは講演会ではないんですが、
皆さんに、何でもいいから話して下さいと申し上げても、とっかかりがないと困りますので、最初に先ず、
斎藤さんから、ご自分の通ってきた道とか、なぜDNAの解析をされるようになったのかとか、
あるいは、なぜ人類学や進化に興味をもったかということをお話して頂こうと思います。
実は、昨日、「日本人はどこから来たか」という題を掲げてやったんですけど、斎藤さんがポツリと仰るには、
「実は、僕は日本人には興味がないんです」と仰ったので、その辺のことを織り交ぜてお話頂けると有り難いと思います。
斎藤: 斎藤です。よろしくお願い致します。
「願わくば?、花の下にて春死なん、その如月の望月の頃」
(朗々と、そして、しみじみと・・・・)
今日は、まだ桜の花が少し残っておりますが、とても良い場所を選んで頂いて、感謝致します。
向こうに白山が見えますけれども、白山信仰を開いたのは、福井県でお生まれになった泰澄大師です。
泰澄大師は、福井市の南方にある三十八社というところでお生まれになったと言われていますが、私は、
その三十八社のちょっと南の西鳥羽というところで産まれまして、小学校の最初の遠足が三十八社でした。
ですから、子供の頃から、「1200年以上も前の人が、今でも知られているなんて、すごいなぁ、
自分も1000年くらい後でも名前が残っていたらいいのになぁ」と思っていたんですが、それは1000年後にならないと分かりません。
先程、この怖いおばさんが、皮肉っぽく仰ったんですが、私も、たまたま日本人ですので、それなりに、日本人のことや自分の類歴には興味があります。
それは、今日の参考書にさせて頂いた本(「DNAから見た日本人」、ちくま新書)の端書きでも書きました。
日本人のことを本気になって研究している人は、私の周りにもたくさんいらっしゃいますが、私自身の最大の興味は「自分」です。
私は未だに自分がよく分からないのですけども、自分というものの意識、それから生命、世界とか宇宙、そういうことに本質的な興味がありまして、
死ぬまでに、ちょっとでも分かったらいいなと思っています。だから、申し訳ないんですが、
「日本人がどこから来たか」ということはどうでもいいことなんですね。どうでもいいと言いつつも、面白いんですよ。
そこら辺がちょっと矛盾するんですけどね。こんな本を書いてしまって、専門家みたいなことを言っていますけども、
実は知らないことはいっぱいありますので、今日はむしろ新しいことをお聞きできればと思っています。
DNAに関しては、実は、中学校の頃から、生物学の研究をしたいなと思っていたんです。
しかし、歴史が好きだから、歴史学もやりたかったし、絵を描いていますので、建築にも興味がありました。結局、大学へ進んでから迷いましてね。
私が行った大学は、一定の点数を超えていれば、いろんな学科へ進める可能性があったんですが、ある時、本郷のとある建物へ行ったら、
縄文土器が飾ってあった。生物学をやるところに縄文土器があるなんて面白いと思いました。
ある程度のお年の方でしたら、「モラトリアム人間」というのをご存知だと思いますが、私も未だに、部分的にはモラトリアム人間ですので、
こういう研究室だったら、フワフワした自分に合っているだろうと思いまして、それで人類学に進みました。
ところが、人類学は骨を研究するのが主流なんですよね。私は、それに反発しまして、骨だけじゃつまらないから、
文化的なことも勉強してやろうと思いました。それで、文化人類学です。普通、日本で「人類学」と言いますと、文化人類学のことです。
それは気に食わないんですけども、それはさておき、とにかく、レヴィ・ストロースの本なんかも一応読みました。つまんないんですよね。
論理が簡単で、読めばすぐ分かっちゃうような。「構造主義」なんて言ったって大したことはない。
それで、「さぁどうしようか」と思ったときに、私が今おります研究所の木村資生先生という方が、「進化の中立説」というのを、
当時の岩波の「科学」という雑誌に分かりやすく紹介していた文章を読みまして、目から鱗が落ちたんですね。
と言いますのは、中学高校の頃から、生物進化にも興味があって、いろいろな本を読んでいたんですが、「何だかおかしいなぁ」と思っていました。
私は、子供心にも、「突然変異」が一番大事だと思っていたのに、「自然淘汰」が大事だと書いてある。ところが、木村先生の「中立説」によれば、
「突然変異」こそが大事だと。自分が正しいと思っていたことが、世界的な研究者によって書かれているということで、大好きになりました。
まぁ、初恋みたいなもんですけども、それから直ぐに勉強し始めて、それで、DNAのほうへ進んだわけです。幸いなことに、
1990年代から始まった「ヒトゲノム計画」というのがあって、どんどんゲノムの塩基配列が決定されています。我々自然人類学の人間は、
「人間はどこから来たか」ということで、チンパンジーやゴリラを念頭に置いて研究していますので、我々から見たら、ヒトの次は、
当然、類人猿ゲノムの解析なんですね。それで、当時、いろんな人に言って回ったんですが、協力は得られず、仕様がないから、
チョコチョコと始めていたら、結局はアメリカのグループが、チンパンジーのゲノムをだいたい決めて、去年、Natureという雑誌に発表されました。
そういうことで、現在、私の研究室が一番お金をかけてやっているのは、「比較ゲノム」といって、ヒトのゲノム、チンパンジーのゲノム、
それに、今、私達がちょっと手がけているのは、クジラ、アザラシ、オットセイなどの、手が変形しているような哺乳類、他にも、
マウス、ラットなどのゲノムをやっています。私は、学生時代に、頭骨とか大腿骨とかの骨の形を見ていましたが、骨の形は面白いですね。
酵素などの反応のように、何かの中でグツグツというのはつまらないですよ。形は面白いのですが、形を決める遺伝子というのは未だ分かっていません。
だから、それに少し寄与できればいいかなと思っています。ただ、最初に申しましたように、自分の意識に一番興味がありますので、
最終的には、人間とチンパンジーでは、明らかに意識構造が違うはずだから、
その違いを決めている遺伝子を見つけることができれば嬉しいなと思ってやっています。
最後に、三井さんから、ネクタイは外したほうがいいと言われましたので、外しますが、今日はサイエンスカフェなので、
私の尊敬するレオナルド・ダ・ヴィンチが描いた図柄のネクタイをしてきました。
このネクタイは、アメリカの金持ちが、ビル・ゲイツですが、全部買い占めて持っているので、それが癪なんですが、
私の父親と私と私の娘、三代続けて、レオナルド・ダ・ヴィンチを尊敬していて、そういう意味でもダ・ヴィンチが大好きです。
私の娘も、「レオナルド君」と言って、子供のときから好きでしたね。パリのルーブルにある「モナ・リザ」は、いつ見ても良いですね。
あれはレオナルド本人で、男だという説もありますが、男も女も、美人は美人ですから。私は、行く度に、ため息をついて眺めています。
そして、「モナ・リザ」の隣にある、これです(右手の人差し指を天井に向かって指して)。分かりますか。「洗礼者聖ヨハネ」、これはすばらしい。
実は私は、そっちのほうが好きなんですが、それらを見ていると、結局、世界は神秘なんだなと。
レオナルド・ダ・ヴィンチは、世界が神秘だということを良く知っていた人だと思います。
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