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福井カフェ(初日)
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リーフレット

科学技術週間 カフェ・デ・サイエンス in 福井


講師: 斎藤成也(さいとう・なるや)、
ゲスト講師: 佐々木閑(ささき・しずか)
日時: 2006年4月21日



日本人はどこから来て、どこへ行くのか BACK NEXT

三井: これは、必ず出そうなご質問だと思っていたんですが、必ずしもDNAじゃないですね。 もっと、社会的なこともあるでしょうし。

>> 一つの非常に大きな問題は、人類のゲノムが読解されたと言われていますが、その人間て誰やねんということですね。 全員のサンプルを採ってきて平均したわけじゃないんで、誰かのものに違いないと思うんですよ。読解したおじさんが自分のゲノムをやってんのか。 どっかから被験者を連れて来て、人類代表でやりますわとやったのか。それほんまに人類代表してんのと思うんですよ。 斎藤さんのご本を読ませて頂いたんですけども、たとえば、中国人と日本人のDNAがどのくらい近くて遠いかという図が書かれていて、 大変興味深いんですが、その中国人て誰のことやねんとか、その日本人て斎藤さん自身のことなんかとか、ふと思うんですよ。 先程の質問にあったように、日本人は日本列島に住む人かとか、日本語を喋る人かというのは、文化人類学的な社会学的な定義だと思うんだけど、 DNAを分析されている斎藤さんが仰っている日本人とか漢民族というのは誰なのか。分析されたのは誰なのか。それは分かっているのか分かってへんのか。 そういうことを、分子生物学的なところで、ちょっと教えて頂きたいと思うんですけども。

三井: 実は、ヒトゲノムプロジェクトが始まった頃から、日本でやっていらっしゃった方が、 時々ジャーナリストを集めて、ゲノム解析とはどういうことかとか、どういうことをやっているかというのを教えて下さったのです。 私は、そういう機会がある度に、どういうDNAを分析しているのかを聞いたのですが、ちゃんと答えて頂けたことがないんです。

斎藤: ヒトゲノムを解読したグループは二つあります。一つは、セレラという民間の会社がやったもので、 これは、セレラの社長だった人のDNAを使ったようです。これは本人が仰っています。つまり、特定の人ですね。 彼は、犬のゲノムを決めたときも、自分のペットであるプードルのDNAを使ったらしい。もう一つは、アメリカ、イギリス、中国など、日本も入っていますけど、 国際コンソーシアムがやりました。国際といっても、実際にはアメリカが全部握っていましたので、 アメリカの東海岸にある有名な病院に来たボランティアの人のDNAを使っています。一番よく使われたのが、4人くらいのDNAですね。 それしか、我々は分かりません。あと数人いるんですが、倫理的な問題があるので、誰かというのは絶対明かさない。明かされてはいないけども、 白人だろうなと、我々は思っています。その後で、世界中の、アジア人とかアフリカ人なども調べた結果、ヒトゲノムの配列は、 だいたい、ヨーロッパやアメリカの白人の型と合っていることが多い。我々がやった「耳あか」の研究からも、ヒトゲノムは白人だろうと推定できました。 ヨーロッパ人の耳あかは、ほとんどがウエットですが、ヒトゲノムもウエットタイプでしたから。そのくらいのことは言えますが、 どの人かというのは、国際のほうでは明かされていませんから、そういう意味では秘密です。

三井: 私が聞いたのは国際チームのほうで、セレラという会社がやったほうは、サイエンスという雑誌に発表していて、 人種が異なる5人のDNAを使ったと報告していましたね。

>> 中国人とか日本人というのは、どういう形でやってはるんですか。

斎藤: 悪く言えば、いい加減ですね。良く言えば、操作定義です。 要するに、私が、この人達は日本人と認めましたということです。中国人についてもそうですね。 中国人で特に問題なのは、中国大陸は広いですから、どこからサンプルを採ったかで、結果が違うんですよ、細かい話のときは。昔のように、 アフリカとヨーロッパとアジアを比べたときは、どうでも良かったんですが。我々は数年前に、西安(シーアン)、昔の長安ですね、そして、 マオタイ酒で有名な湖南省の長沙(チャンシ)、広東(カントン)、福建省の福州(フーチョウ)、それから、 上海(シャンハイ)の近くにある無錫(ウーシー)、こうした地域に住む漢民族の方々のDNAをもらって調べました。 このような研究を通して、中国人の定義も大分狭まってくると思います。中国の方言の研究者とも交流があるんですが、 実は、彼らには呆れられてしまいました。「ひいおじんさんやひいおばあさんがどこから来たかなんて、分からないじゃないか」と言うんです。 まぁ、その程度のことしかやっていません。

>> 生まれたときのDNAは、死ぬ一歩手前になると、どの程度変化しているんですか。

三井: 一人の人間で、そういうのを調べたことがあるんでしょうか。

斎藤: ミトコンドリアDNAでは、既にいろいろ調べられています。それは、突然変異のスピードが速いのと、 小さいので調べやすいんですね。特に、筋肉にはたくさんのミトコンドリアがありますけども、そこは結構いっぱい変わっていて、 筋肉がおかしくなる病気の原因としても知られています。普通のDNAは突然変異のスピードが非常に遅いんですが、 何百億円もかければ、一人の人間の全ての細胞で調べることは可能だと思います。 今では、いろんな技術が発達してきて、一個の細胞を調べるのが1億円位に下がってきたんですが、それでもかなりお金のかかることで、 これから数年でどんどん下がっていけば、そういう研究がでてくると思います。そのような変化を体細胞突然変異と言うんですが、単純に計算すれば、 たくさんありますよ。

>> どの程度違うんですか。

斎藤: 1個でも違っているのを見つけたら万歳ですからね。割合でいけば、おそらく99.9999%は同じだと思います。 平均すればですが。それを誤差と言えば、言えますが、100個でも、違っているのが面白いと思えば面白い。そのへんはものの考え方だと思います。 大雑把に言えば、生まれたときと死ぬ時とでは、DNAが同じとも言えるし、違うとも言える。

>> 以前、恐竜博物館の名誉館長をされていた濱田隆士さんが、長い長い地球の歴史をトイレットペーパーに例えれば、 人間の歴史は先っちょの1メートルに過ぎないと仰っていました。手取層の恐竜の化石からみれば、以前は中国大陸に日本がくっついていたと思うんですね。 そこで、アフリカからインド、中国、朝鮮半島を通って日本に来た日本人と、アフリカからインド、インドシナ半島を通って来た日本人の割合とか、 人の流れは、どうなっているんでしょうか。

三井: つまり、日本に来た経路が5つか6つあるけれど、それがどのくらいの割合かというのですね。 そういう定量的なことは分かるんでしょうか。

斎藤: これは昔からの研究ですが、先ず、朝鮮半島経由で、旧満州あたりからドドドッと来たのが一つありますよね。 それから、これは文化的な影響が大きいのですが、上海あたりが突き出ていて、そのまま東へ行けば九州にぶち当たりますから、 船が使えるようになると、そこら辺の人が来る可能性は強いですね。また、間宮海峡なんて有って無きがごとしですから、陸続きで、 樺太経由で北からダダダッと下りて来る。問題は、経路は分かっていても、その時期にどういう人達がそこに居たかがはっきりしないんですよね。 ですから、おそらくアイヌの祖先の人達は、縄文土器より古い土器がシベリアで見つかっていますから、そういうのを携えてきたのかもしれないけど、 そのときの人達は、今シベリアのアムール川の下流にいるニブヒとは、たぶん全然違うんじゃないですかね。1万年以上前ですから。 後は、台湾を経由して沖縄に上がる、いわゆる海上の道ですね。これは文化的にはいろいろと言われていますが、台湾と沖縄はかなり違うんですよね。 意外と近いのに、何か仲違いしているなぁという感じがありますが、イメージ的には、朝鮮の人々、これは一番大きいですよね。 それから、中国の上海あたりの人々。ただし、それは今の上海の人々とは全然違うかもしれません。 それから、これは亡くなられた埴原和郎先生が言われた二重構造説で、骨から見て一番近いとされているオロチョンとかツングースとか、 旧満州より、もっと北の人達ですよね。あの人達も、昔は、もっと南に居たかもしれないんですよね。朝鮮には、扶余とか、渤海とか、高句麗とか、 いろんな国がありましたから、その影響がどうなったかが、まだこれからの問題なんですけどもね。言語の問題に比べて、まだ分からないんですよね。

三井: 「日本人はどこへ行くのか」というのもやらなければならないんですけど、ここで、ちょっと休憩にします。

(休憩)

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Last modified 2006.07.04 Copyright(c)2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.