The Takeda Award 理事長メッセージ 受賞者 選考理由書 授賞式 武田賞フォーラム
2002

選考理由書
情報・電子系応用分野

選考理由
業績とその創造性
1. 情報化社会における発光半導体デバイスの役割
2. 発光半導体デバイス
3.
4. 中村による窒化ガリウム青色発光半導体デバイス開発
5. 波及効果
6. 結論
参考文献
図1
図2

> PDF version


選考理由書トップへ


▼情報・電子系応用分野 ▼生命系応用分野 ▼環境系応用分野
業績とその創造性
back next


3.1. 窒化ガリウムの選択
 勇は1970年代に窒化ガリウムによる青色発光半導体デバイスの研究を行った。成膜方法としてはそれまで用いられていたハイドライド気相成長法(HVPE法)に加え、個々の分子を正確に付着させることのできる分子線エピタキシャル法(MBE法)を採用して、窒化ガリウム単結晶薄膜を得た。1981年、HVPE法を用い、MIS(Metal-Insulator-Semiconductor)構造で0.12%の発光効率を得たにとどまった1)。均一な薄膜を得ることができず、またp型層もできなかった。このようにマクロに見れば決して良いとはいえない結晶においても、普通では見過ごされるような微小な部分で均一な薄膜が形成されており、強く発光していることに注目し、他の研究者が窒化ガリウムの開発研究を断念するなか、窒化ガリウムによる発光デバイスの可能性を確信した。1981年から名古屋大学に移り、窒化ガリウムの開発を継続した。1982年、天野浩が研究室に加わり、研究に参加することになった。

3.2. 均一な薄膜の形成
 は、従来の窒化ガリウム成膜法としてのHVPE法およびMBE法に問題があることを以前から認識していた。すなわちHVPE法では成膜速度は大きいが、薄膜の結晶性が悪いことが問題であった。他方MBE法では成膜速度が低いこと、および超高真空中で成膜するために、蒸気圧が極めて高い窒素が抜けやすく、化学量論的組成になりにくいことが問題であった。そこで1984年、化学量論的組成の実現が可能で、単一温度領域で成膜速度が適当な有機金属化合物気相成長法(MOCVD法)を採用することにした。基板としてはMOCVD法での成長温度である1,000℃以上の成膜温度に耐え、窒化ガリウムと結晶対称性の似たサファイアを選択した。しかしながら窒化ガリウムは16%の格子定数の差があり、均一なヘテロエピタキシャル膜を成長させることが困難であることが予想された。


 窒化ガリウムに適したMOCVD装置は当時なかったので、と天野は自ら装置設計と製作を行った。新規に製作したMOCVD装置を用い、基板温度、反応真空度、反応ガス流量、添加不活性ガス流量、成膜時間等々さまざまな条件の組み合わせで実験を繰り返し、成膜条件の最適化を試みた。2年間で約1,500回を越える成膜実験を行ったが、均一な窒化ガリウム薄膜は得られなかった。

 と天野はそれまで行った成膜実験を詳細に検討し、均一な窒化ガリウム薄膜を得る方策として、サファイア基板と窒化ガリウムの間に、低温で中間バッファ層を形成することを着想した。バッファ層の候補材料として窒化ガリウム、窒化アルミニウム、炭化シリコンおよび酸化亜鉛を考えていた。1986年窒化アルミニウムをバッファ層として、その上に均一な窒化ガリウム薄膜を得ることに成功した2)。この窒化ガリウム薄膜は、欠陥の少ない良質の薄膜であることがフォトルミネッセンス、X線回折、ホール効果測定、透過電子顕微鏡観察等、すべての評価から確認された。ホール効果測定によれば室温での移動度は従来の50cm2/V・sから450cm2/V・s程度に増大した3)。さらに、シリコンをドーピングすることにより、均一な膜厚で導電性の良いn型薄膜を得ることに成功した4)

 以上のように、低温バッファ層の採用は、新しい着想と、数限りない回数の実験により実現に成功したものであり、大きなブレイクスルーであった。

3.3. p型層の形成
 窒化ガリウム薄膜は通常、化学量論的に窒素が不足した状態で存在し、n型となる。これにアクセプタとなるべき不純物を添加してもp型が得られず、これが窒化ガリウムを発光デバイスに利用するための大きな障害となっていた。と天野は当初亜鉛をアクセプタ不純物として用い、窒化ガリウム薄膜のp型化を試みたが、成功しなかった。その後アクセプタ不純物として電子親和力がより大きいマグネシウムを用いたが、やはりp型薄膜は得られなかった。1988年、天野は別の実験でアクセプタとなるべき不純物をドープした窒化ガリウム薄膜のカソードルミネッセンスを測定している時に、電子線の照射を続けてゆくと、カソードルミネッセンスの発光強度が徐々に大きくなるという現象を発見した。この事実から電子線照射によってアクセプタをドープした窒化ガリウム薄膜の電気的、光学的性質が変化したのではないかと考えるに至った5)。この認識に基づき、マグネシウムをドープした窒化ガリウム薄膜に10kVの電子線を照射した。その電気特性を測定した結果、固有抵抗が35Ωcmと5桁減少しており、ホール効果の測定から、はっきりとp型であることを1989年に確認できた。そのときの正孔移動度は8cm/V・sであった。同時にpn接合を製作し、電流―電圧特性においてpn接合を示す順方向での電流立ち上がりと、発光を観測した6)。この電子線照射によるp型層形成方法は、これまでいかなる方法によっても得られなかった窒化ガリウムのp型化を成功させたもので、画期的な成果であり、先の低温バッファ層と共に青色発光半導体デバイス開発の突破口を開いた。

3.4. 発光ダイオード(LED)の開発
 と天野は科学技術振興事業団の助成を受けた豊田合成株式会社の要請により、青色LEDの製品化を1987年から指導し、上記の技術を基に、1992年、窒化ガリウムで発光効率1%の高輝度青色LEDの試作に成功した。そして豊田合成は1995年に青色LEDを製品化した。

3.5. レーザダイオード(LD)の開発
 と天野はレーザ発振研究にも挑戦していたが、1990年、低温バッファ層上に形成した均一なn型窒化ガリウム薄膜を用い、波長337nmの窒素レーザを照射することにより、高密度の電子正孔対を形成し、室温において単色性の高い374nmの誘導放出を観測した7)。その後pn接合多重量子井戸構造のデバイスを製作し、パワー密度を低減させ、レーザ発振に必要とされる電流近くで、半値幅が3nmの強力な発光を観測し、これを1995年11月発行の論文誌Japanese Journal of Applied Physicsにおいて報告した8)。また波長405nmでのレーザ発振の成功は、1996年6月に報告されている9)
武田賞TOPへ
back next

Last modified 2002.4.5 Copyright(c)2002 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.