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第12回レポート
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第12回リーフレット

第12回 カフェ・デ・サイエンス


講師: 織田孝幸(おだ・たかゆき)
楠岡成雄(くすおか・しげお)
日時: 2006年12月11日



数学カフェ 「確率の話」 BACK

三井:今日はなかなか難しいお話になってしまいましたけれど、事前に書いて下さった質問に、ギャンブルとかお金儲けのようなものに確率論が利用できるのかどうかというのがありましたので、最後に、その辺のところを話していただいてはどうでしょうか。

楠岡:もちろん、ギャンブル云々と確率論というのは、古くからの歴史があります。私は、ファイナンスをやっておりますが、ファイナンスには非常に誤解されているところがあります。ブラック(Fisher Black, 1938-1995)とかショールズ(Myron S。 Scholes, 1941-)という人達が何を言おうとしたかというと、決して儲けることはできないということを前提として、何が言えるかということですね。決して儲けることはできないということは、絶対に得する方法はあるかということで、絶対に得する方法をarbitrage(裁定取引)といいます。たとえば、明日株が上がると分かっていて、株を買えば、これは絶対に儲かるわけです。

織田:それはインサイダー。

楠岡:別にインサイダーではなくて、株価などのデータを見ていて株価が上がる法則を見つけたということになれば儲けることができます。そういうことが絶対に起こらないということを言うために、確率概念がファイナンスに入っていくわけです。私などは儲からないということを前提に話していますが、一方には儲けるための法則を見つけようとしている人達もおります。ですから、本当に儲からないかどうか、誰にも分かりません。ただ言えることは、私は儲かる方法を知らないということです。なぜならば、その方法を知っていれば、こんなところにはいない(笑)。本来、ギャンブルというのは、必ず儲かる方法がないわけです。たとえば、丁半博打で、丁のほうが多く出ることを知っていれば、丁に賭け続けて、かなり高い確率で儲けることができますが・・・。

織田:イカサマのサイコロで・・・。

楠岡:イカサマかどうかは別として、その場合でも、必ず儲かるということではないわけですね。統計的に言うと、いろいろな局面があるということになるのですが、統計的に儲けようという考え方もあります。我々ファイナンスをやっている人間は、必ず儲かるかどうかを問題にして、いろいろ研究をしているということになります。

織田:では、ファイナンスは何を目的にしているのですか。

三井:儲からないけど、損もしないというのはあり得るわけですか。

楠岡:それは簡単です。何もしなければいいんです(笑)。実は、損をしないためには儲けに出ないこと、それ以外には方法がないというのがファイナンスの命題です。

何のためにファイナンスをやっているか。たぶん、ここに居られる方は、小学校で1ドルは何円かという試験問題を解いた人達が多いのではないかと思います。今は、新聞を見忘れると分からなくなりますが、1ドルが360円だった時代は、今、物を輸出して、3ヶ月後にドルでお金を受け取るとしても、今、儲けが分かるわけですね。現在では、3ヶ月後のことは分かりません。そういうとき、ヘッジのように、もともとの為替以外の商品がいろいろ存在すれば、そのリスクを回避できるわけです。

そういう新しい商品を開発することは、過去にはできなかったわけです。つまり、そのリスクがよく分からなかったために、博打になってしまうわけですね。17世紀頃に、貴族達が大博打を打って、東インド会社から船がたどり着くかどうかというのをもとに、損害保険で大儲けした人がいます。ヨーロッパの貴族は、本当に博打が好きで、マリー・アントワネットは国を潰すくらい博打をしたわけですからね。そういうものをコントロールする手段を与えるのがファイナンスです。

従って、ファイナンスをやっている人間は、いろいろな商品ができていくことで、人々の不確実性を下げていくことができるだろうと思っているわけです。ただし、これは両刃の剣で、逆回転させれば、いくらでもリスクを上げることができます。世の中には、リスクが大好きな人がいて、ヤクルトのように、本業が営々と稼いだ2,000億円がパーになるということもあります。あれは、重役がデリバティブで儲けてやろうとした結果ですが、本来儲けに使ってはいけないものを、博打としてやってしまったということです。私が何をやっているのかと問われたら、自分自身は社会に貢献していることをやっているつもりですが、お前こそが世の中の元凶をつくっているということになるかもしれません。

三井:皆さん、お分かりになりましたか。

織田:ファイナンスは、金儲けには役に立たないが、損をしない。損をしないためには、買わなければいいわけですね。

楠岡:損するということの意味が、また難しい問題なんです。宝くじで、我々は夢を買っているんだと思えば、それが当たらなくても損ではないかもしれない。12月31日までは、世界旅行をする夢が見られわけですからね。得する損するという話になると、そういう話が出てきてしまうのですが、何度も言うように、儲かるなら、こんなところにはおりませんということです。

三井:これが今日のオチというのは・・・。皆さんに納得して頂けたかどうか心配な面もありますけれど、これでお終いにします。(拍手)


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Last modified 2007.02.13 Copyright(c)2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.