岡本謙一 |
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司会(安岡):
岡本先生、どうもありがとうございました。
いろいろと技術的な問題があったものを、一つ一つつぶしていかれたということで、大変興味深いお話だったと思います。私もいろいろな国際会議に出席しますけれども、国際的なジョイントリサーチの大変な成功例ということで、日本からの発表ではなくて、アメリカ側から、例えば、NASAの方々からも、このPRの成功例を非常に強調して紹介されるということがよくあります。私も胸を張って学会に参加できる、大変うれしい状況を作ってくださって、感謝している次第です。
それでは、フロアからのご質問を受けたいと思います。
質問1:
地上でのレーダの計測と離れて、宇宙から雨が測れるということの確信を持たれたのは、いつごろで、それがどういう考えでそういうふうに至ったかについて、お話いただければと思います。
岡本:
先ほど講演の中でも言いましたが、最初から確信があったわけではなく、スタディを進めていくにつれて、徐々に確信が強くなっていきました。最初、レーダ方程式に基づいた計算をして、グランドクラッタの影響を評価しました。アンテナパターンを考えて、衛星から観測した降雨エコー強度とS/C比の計算をやって見ました。だいたいできそうだとわかったので、1979年のIAFで発表したわけです。通信総合研究所のいいところは、できそうだというと、ある程度信用してくれて、若手で入ったばかりの、生意気な奴というのではなく、あいつが言うなら、金をつけてやろうかという雰囲気があって、予算がつきました。で、飛行機用のものができたわけです。飛行機用のものをやってみて、やはり、ものすごく難しかったけれども、やはり、新しいアルゴリズムが発見できるとか、サイドローブとパルスの組み合わせでクラッタが除去できるとか、そのような問題が、徐々にわかってきて、だんだん確信が強くなりました。衛星の信頼性については、私はさっぱりわからなくて、これはものすごく信頼性が要求されるのかと思って心配しました。きっとNASDAの衛星グループというのは神経質な人が集まっており、僕もかなり神経質なのですが、こんなものはダメだと言われるのかと心配していたのですが、それは反対でした。やろう、やろうと田中さんがおっしゃったわけですね。他の方はそうでもなかったのですが。柴藤さんと田中さんのお二人が熱心でした。NASDAというところは、なんて変なところだと思いました。片やものすごくペシミスティックな人がいるかと思うと、やろうやろう、だいたい方向があっていればいいんだ、とおっしゃる田中さんのような方もおられました。最初は田中さんと柴藤さんの二人だけが援軍だったのですが、二人からやろうやろうと言われて、そうかと思って、衛星のことはよく知らなかったのですが、だんだん自信がついてきました。うれしかったのは、畚野さんがおっしゃったたように、TRMM映像をみて、台風の映像が飛行機実験と同じパターンを示していたことです。これでいけるとホッとしました。ということで、経験を積み重ねてきて確信を得たということが実情です。
質問2:
三次元データを長期間精度よく測られて、成果を上げてこられましたが、将来、地球環境保全という観点から見て、今後日本としてどうもっていくべきか、アルゴリズムの観点からお聞かせいただければ、ありがたいのですが。
岡本:
一番後のスライドになりますが、GPMの話が非常に大事だと思います。これは、今アメリカが中心となって一所懸命やっていて、日本が遅れているのですが、早く日米の歩調をそろえることが大切です。降雨レーダに関しては、日本の方がTRMMに関して実績があるわけですから、ハードウェアができたらもういいよということではなく、アルゴリズムに関しても日本が主導して、開発を行っていくという姿勢が絶対大事だと、私は思います。GPMは非常に重要なミッションでありまして、全球の雨の基本的な量、全球でどれだけの雨が降っているかを3時間毎に測っていく、非常にすばらしいミッションであると、私は思います。多分、行政に言わせてみると、金がない、日本の安全が大事だ、情報収集が大事だと、いろいろな話があると思うのですが、日本が寄与できる技術レベルを維持して、それを発展させていくこと、世界でもトップのレベルを絶対維持していくぞという姿勢を示すことは、絶対大事だと思うのです。例えは悪いですけれども、鹿島アントラーズもジーコがいたから、ある程度強くなったわけですね。だから、日本の優れていることはどんどんやっていった方がいいですね。アルゴリズムについても、まだ負けていません。だから、レーダでは、ハードウェア、ソフトウェアともに絶対日本が主導権を握ってほしいと思います。それから、次に、マイクロ波放射計だって、今はまったく日本は実績がないわけですが、降雨レーダとマイクロ波放射計を組み合わせたようなアルゴリズムなどの開発で、ぜひ世界に貢献していくべきだと、私は思います。
質問3:
当初出されているリクワイメントを、実際に、非常によく実現されていることに驚いたのですが、そのリクワイアメントが出されてから、それを実現できるかどうかの技術開発にどのくらい時間をかけられたものか、それから、リクワイアメントを出される側は、その利用者であると思いますが、その応用研究者とのコミュニケーションで難しいと感じられたことをお話いただければと思います。
岡本:
このユーザリクワイアメントはNASAから出されてきたわけですね。1987年のフィージビリテイスタディでその実現可能性について一所懸命に検討しました。その後、国の予算が十分につかなかった時期がありましたので、非常に少ないお金で、メーカの方のご協力を得て、ブレードボードモデルをずっと作っていきました。それは3年くらい続きました。結局、ユーザリクワイアメントが本当できるかというスタディに3年くらいかかったと思います。その中で、東大の松野先生とか住先生とか、エンドユーザに近い方と付き合うようになってきますと、こちらが考えていたようなリクワイアメントだけでは、ダメだということがわかってきました。例えば、月毎の降雨強度を、本当に何%の精度で測るのかという、具体的な数字が出てくるわけですね。そうしますと、やはり、ちゃんとしたキャリブレーションがうまくできたレーダでなくてはいけないということになってきたわけです。実際、TRMMのレーダは、レーダトランスポンダを使って、±0.5 dBくらいまでの精度でおさえられています。地上レーダと比較しようと思うと、実は、地上レーダの方が、精度が悪いということも出てくるわけです。そのくらいよくなってきました。やはり、エンドユーザの要望が、システムのアップグレードに反映されていくことが、今回よく体験できました。異なった分野の方とのインターラクションというものが、とても大事だということがよくわかりました。ちょっと答えになっているかよくわかりませんが。
質問4:
最初の質問は、ハードウェアに関して、検出器はどのようなものを使っていらっしゃるのかということ、高感度の検出器が当然必要だと思いますが。二つ目は、先ほどの、畚野先生より、日本とアメリカでは組織のシステムが非常に違っていて、バラバラになりそうだったけれども、そこをつないだのは個人的な信頼であったというお話がありました。大掛かりなこういうコラボレーションになってきますと、個人的な信頼だけではない何かがきっとあると思うのですが、こういう成功例がうまくいった原動力とは、どういうことだったのかいうことをお聞きしたいのですが。
岡本:
レーダは非常に高感度ですから、受信機の雑音をいかに下げるかということが問題だと思います。13.8 GHzという周波数ですから、受信機の雑音を下げるということは、比較的できやすいと思います。NECの半導体の技術が、1.5 dBくらいのノイズフィギャのものを開発することができました。その他、ピンダイオードのフェーズシフタを使っています。これはものすごく難しいのですが、本日来ておられるかわかりませんが、NECの西川さんと喧嘩しながら開発して、最後はとてもいいものができました。それから僕は、個人個人の信頼性はものすごく大事だと思いますね。それと同時に、それ以外のファクタ、個人個人が決してあきらめない、先ほどのネヴァー・ギブアップ、あきらめたらダメだという、そういうようなパーソナリティが非常に大事だと思います。また、やはりラッキーな面がありました。いろいろな人が助けてくれました。そういうラッキーな面があったということと、一人一人が頑張って、意地になってやったということと、他にはやはり、信頼関係だと思いますね。それと、アメリカ人と交渉するときには、絶対ウソをついてはいけないと思いました。できないことも日本人はYESと言ってしまいますが、できないことはできないと言った方がいい。最初に、NASAで2周波のレーダ、35 GHzと13.8 GHzの設計を持っていって講演しましたが、二つ合わせて重さが750 kgになると言ったとたんに、エンジニアがそんなものは衛星に乗らんと言って、ブーブー、ブーイングを起こしてしまって、ある人は帰ってしまいました。困ってしまったわけです。でも、やはり、ウソは言えない。最終的には1周波になりましたが。やはりウソをつかないことが、信頼関係の構築につながっていくと、私は思います。
司会(安岡):
どうもありがとうございました。これだけのプロジェクトで、しかも将来につながっていくプロジェクトを成功させたという意味で、非常に大きな例だったと思います。この影には、多分いろいろな失敗もあったのだろうと思いますけれども、最終的にいろいろないい成果を出されて、武田賞にふさわしい研究成果だったと思います。
それでは、今日ご発表いただきました三人の受賞者の方に、最後にもう一度、拍手をお願いいたします。(会場内拍手)
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