The Takeda Award 理事長メッセージ 受賞者 選考理由書 授賞式 武田賞フォーラム
2002
受賞者
講演録
岡本謙一
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Q&A






岡本謙一
 
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[図 10]

[図 11]

[図 12]

[図 13]

[図 14]
[図10] 
 これは、1980年代に日米共同降雨観測実験をやったときのデータで、島根大学に移った古津君が取ったものです。雨のタイプの非常に美しいデータもNASAの飛行機によって取ることができました。上が層状性の雨で、しとしと降っている雨、下が対流性の雨で、雷雨のような土砂降りの雨です。これは、雨が降ってくる前の融解層ですが、雨ではなく、氷とか雪が解けている層です。これも非常にはっきりと見えています。地面が一番強く見えていて、何か、地面の下にも雨が降っているようなエコーが見えており、こんなことはありえないわけですが、これは、地面の散乱波が途中の雨によって、また散乱されて、再度地面にぶつかり、それが飛行機に受け取られるという、ミラーイメージです。つまり、海の表面が鏡の役割を果たしているわけです。途中の降雨の散乱だけでなく、海面の減衰、それから、ミラーイメージ、これらも別の独立したデータとして、解析に使えるということが、どんどんわかってきました。雨のタイプもレーダによってすばらしくよくわかるということもわかってきまして、絶対これはいけそうだという確信を持ちました。まとめますと、衛星搭載降雨レーダのメリットは、雨の三次元的な観測ができるということ、とりわけ、鉛直分布、高さ方向の他の方法では得られないレーダでは得られます。マイクロ波放射計は、背景がユニフォームな海上ならばいいのですが、陸上の観測は難しいのですが、レーダは海上でも、陸上でも、背景がどんな場合であっても雨が観測できます。また、先程申し上げましたような降雨減衰ですね、その積分値が独立な観測量として得られます。また、水平分解能も垂直分解能も非常に良いのです。

[図11]
模式的に画きますと、衛星から見て、途中に氷とか雪の融解層があって、それから、雨が降っていて、その下に地面が見えるわけです。こんなプローフィルが得られます。橙色は雨の無いときのエコーですけれども、雨が無いときのエコーと雨のあるときのエコーとの降雨減衰の差が独立したデータとして、降雨の散乱に加えて得られるというメリットがあるわけです。

[図12]
このころから、TRMM計画が始まりまして、最初のフィージビリテイスタデイの時の降雨レーダのシステムデザインの担当をすることになりました。これは、そのときのアメリカ側のサイエンテイストが、雨を利用する側の要求条件として出されたものです。降雨強度は0.5mm/h程度は絶対ほしいと。ダイナミックレンジですが、海面の散乱もほしいし、弱い雨も測りたいので70dBになっています。水平距離分解能も5 kmはほしい、高さ方向の分解能も250 mはほしい。信号のゆらぎをなくすためには独立サンプル数を64以上は絶対ほしい。それから、走査幅ですけれど、200 kmくらいはほしい。雨の高さは15 kmくらいまでカバーするから、15 kmくらいまでは測りたいと。このような要求が出てきました。このような要求を前にして、システムデザインができるか、一生懸命考えたわけです。

[図13]
 技術的な挑戦としても、一つは、衛星から降雨までの距離が非常に遠く、350 kmという距離にあるわけです。達成すべき水平分解能は5 kmです。電波の波長が一番大事ですが、周波数の割り当て上では、衛星搭載降雨レーダには13.8 GHzと35 GHzの割り当てがあるわけです。最終的には13.8 GHzに決まりましたが、やはりある程度大きなアンテナがないと、分解能5 kmを達成できません。また、0.5 mm/hの雨を測ろうと思ったら、送信機の電力を上げ、受信機の雑音を減らすという問題が出てきます。表面の散乱が0.5 mm/hの雨に対して100万倍くらい大きいわけですから、やはり、アンテナのサイドローブを、うんと抑える必要があるという問題が出てきました。これはTRMMには、実際採用しませんでしたが、パルス圧縮を使う方法もあるということですが、そのときにはレンジサイドローブを下げなければいけないという問題が出てきます。次に、これが、衛星固有の問題です。連続的に雨を観測する、つまり、隙間なく雨を観測することが、大事になってきます。衛星の進行方向に対して、直角方向にアンテナビームをスキャンしますけれども、そのアンテナビームのスキャンによって、隙間ができてはいけない。どうするかというと、先程言った、5 kmのフットプリントが水平分解能なので、衛星が5 km進む間に、215 kmの幅をスキャンすればいい。衛星のスピードが秒速7 kmくらいですから、だいたい0.6秒くらいで、この215 kmをスキャンすればいいわけです。0.6秒で215 kmをスキャンすると、やはりメカニカルにアンテナを振り回すことは、なかなか難しい、衛星上でこんなでかいアンテナを振り回すことは、衛星の姿勢に対する影響もありますから、まず難しい。やはり、電気的にアンテナビームをスキャンするしか方法がない、高速のフェーズドアレイの方法しかないなということが、だんだんとわかってきました。最後の点が飛行機用のものではなかなか解決できなかった問題で、これが、困難と思われました。

[図14] 
具体的には、いっぱいありますが、重要なトレードオフ項目を三つくらい挙げてみたのが、これです。高速でアンテナをスキャンするのですから、フェーズドアレイを使うということが一番目。フェーズドアレイのタイプとして主に二つの方法があります。一つは、パッシブアレイと言っていますが、非常に大きい送信電力のTWTAを使います。もう一つは小電力の固体増幅器を使ったアクティブアレイの方式です。これについては、次に詳しく述べます。次には、通常のパルスレーダ方式にするのか、パルス圧縮方式を使うのかということです。これは高いピーク電力を得るためのものです。アンテナタイプもプラナーアレイと言っている、導波管スロットアレイがいいのか、あるいは、シリンドリカルパラボラアンテナでサイドローブを落とす方法がいいのか、いろいろスタディがあったわけですが、この三つを中心に一所懸命スタディをやりました。







 
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