岡本謙一 |
|
|
|
|
|
|
[図 1]
[図 2]
[図 3]
[図 4]
[図 5]
|
[図 1]
ただ今ご紹介いただきました、大阪府立大学の岡本です。今年度は宇宙開発事業団の地球観測利用研究センターの招聘研究員もしております。私の発表する演題は「衛星搭載降雨レーダの実現と社会への貢献」です。これは、主に元の郵政省通信総合研究所にいたときに行った仕事についてのご紹介です。
[図 2]
講演の内容ですが、まず、なぜ衛星搭載用の降雨レーダが必要かという話をしたいと思います。次に衛星搭載の降雨レーダが実現したのは、TRMM衛星が初めてですけれども、1960年代の初期の気象衛星の時代から望まれていたものが、なぜそんなに長いこと実現しなかったのかということに関して、開発上の技術的課題を中心にお話したいと思います。次に机上での検討の結果、ある程度できそうだなという見通しがつき、先ほど畚野さんから話がありましたが、通信総合研究所でも研究予算を認めてくれましたので、飛行機実験用の降雨レーダを作って実験しました。その結果、ますますこれはいける、できるという確信を強めましたので、その話をいたします。その後紆余曲折がありましたが、ちょうどTRMM計画が、そのころ始まりました。その中で、幸いにも降雨レーダのシステムデザインを、一番最初から担当することができましたので、そのことについてお話ししたいと思います。降雨レーダ開発におきましては、ハードウェアと同時にソフトウェアの開発がとても重要なので、そのことについても話をします。最後にTRMMの成果を、ご紹介して、社会への貢献について述べたいと思います。
[図 3]
まず、なぜ、衛星搭載の降雨レーダが必要かということですが、よくご存知のように、この図は、気象衛星「ひまわり」の取得した雲画像です。これを見ると、なぜ地球は水の惑星と呼ばれているのかがよくわかります。宇宙全体の中でも地球はこのように水に恵まれており、雲が発達していて、生命活動が営まれているという、非常に珍しい環境にあるわけです。この地球環境を守って次の世代に伝えていくということは、私たちの責務であると思われます。この水の惑星、地球を観測した、ひまわりの可視・赤外画像はすばらしい雲の画像を提供してくれています。そして、多くの災害をもたらす台風などの大型の気象システムに関する情報をもたらして、多くの尊い人命を未然に救ってきたわけです。ただし、この雲の下で、いったいどこに雨が降っているのかについては、可視・赤外の映像ではわかりません。ということで、1960年4月1日にタイロス (TIROS) 1号という気象衛星が打ち上げられましたけれども、そのころから、早く衛星搭載の降雨レーダがほしいという話が、ずっと気象関係のコミュニティではあったわけです。なぜ早期に実現しなかったかということですが、その話をする前に、ちょっとわき道にそれるかもしれませんが、降雨レーダの原理について簡単にご説明いたします。
[図 4]
この図に示しますように、雨が降っていますと、空気中にたくさんの雨滴があるわけです。レーダは雨滴に向かって電波をぶつけて、雨粒からの散乱エコーを観測するわけです。空間の中に雨粒の大きなものが、沢山あればあるほど強く電波が跳ね返ってきます。大きな雨粒が沢山あるということは、それだけ降雨強度が大きいということです。大きい降雨強度の雨からのレーダの散乱波の強度が強いということが、そもそもの降雨レーダの原理です。実際にレーダで測っているのは、ここにZと書いてありますが、単位体積あたりの雨粒の直径の6乗の和でありまして、散乱の強さを測っているわけです。降雨強度Rはおおよそ、直径の3.5乗くらいの和に比例するわけですが、レーダでは直接Rつまり、何mm/hという降雨強度を測るのではなく、直接測るのはZという量です。Zを測っておいて、Rを推定するところから、アルゴリズムが大切だということがわかります。このことは後で詳しく述べますが覚えておいて下さい。さらに問題を複雑にするのは、降雨散乱体積からの散乱波が途中の雨自身によって、減衰を受けることです。降雨レーダにとって、降雨減衰が非常に重要な問題になってくるわけです。この降雨減衰というものは、用いる波長が短ければ短いほど、周波数が高ければ高いほど大きくなってきます。地上のレーダは長い距離を見たいわけですから、この降雨減衰を極力抑えるためにできるだけ長い波長の電波を使います。だいたい、5cmとか6cmの電波を用います。そうすると、どうしても装置が大きくなってしまいます。こういう問題があるのです。
[図 5]
これは、通信総合研究所の沖縄亜熱帯計測技術センターにある世界最先端のすばらしいドップラ偏波レーダで、雨に関する様々な物理を量測ることができます。しかし、これだけ大きい装置になります。これは直径8 mのレドームで、その中で直径4.5 mのアンテナがグルグル回っています。周波数は5 GHzくらいですから、波長は6cmくらいのものを使っているわけです。この図中の車の大きさと比較してわかりますように、シェルター内に送受信機があって、大電力を使います。こんなばかでかいものが衛星に乗るのかという疑問が、これまでだれも衛星搭載降雨レーダの開発に着手してこなかった理由の一つであると思われます。
|
|
|