The Takeda Award 理事長メッセージ 受賞者 選考理由書 授賞式 武田賞フォーラム
2002
受賞者
講演録
岡本謙一
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Q&A






岡本謙一
 
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[図 6]

[図 7]

[図 8]

[図 9]
[図 6]
 これは衛星搭載の降雨レーダを実現する上での問題点を述べたものですが、ただ今述べましたように、大きさの制限、重量の制限、電力の制限を考えますと、衛星に搭載するにはどうしても装置が小さくなくてはなりません。そうすると、使用する波長は短くなっていきます。装置の大きさと波長は比例しますから、装置を小さくするには、短い波長を使わないといけません。波長が短いほど電波は降雨の減衰を大きく受けます。これはとてもやっかいな問題です。次に、衛星というのは、非常に遠い距離ですし、しかも、降雨減衰もあるわけですから、本当に十分な信号対雑音比で、雨が測れるかという問題があります。それから、次に地面のクラッタと書いてありますが、地面の散乱波が雨に、悪い妨害を与えることがないか、グランドクラッタの大きさの評価をしなければなりません。このような問題点があって、衛星搭載降雨レーダは、なかなか実現しなかったのではないかと思います。私も、当時(1977年)通信総合研究所に入ったばかりでしたが、成算があったわけではありませんが、とにかくシステムが成立するかどうかの計算をやってみました。その結果、なんとかできそうだなという感じがしてきました。

[図 7]
このクラッタの問題について説明します。衛星搭載降雨レーダは非常に悪い条件で雨を観測しているわけです。というのは、衛星から観測しますと雨がありまして、その下に地面があります。地面の方がはるかに散乱が強いわけです。だいたい100万倍くらい雨よりも散乱係数が大きいのです。しかも、地球の半径は約6,400kmで、雨はせいぜい10 kmくらいの高さですから、縮尺をすると半径64cmのスイカがあると、そのスイカの表面に1 mmくらいの雨の薄いフィルムがあるという状態です。そのスイカの影響を無視して、その1 mmの薄いフィルムだけを測ろうというわけです。地上のレーダは地上から、空の方を見ますので、雨を見るとあとは宇宙空間だけですから、雨だけを観測しやすい条件にあります。衛星から観測するときには、地面の散乱をどうするかということが、とても問題になってきます。真下だけ見ていると、まあいいかもしれませんが、衛星を斜めに向けようとすると、斜めの方で雨を見ているときに、横の方から、サイドローブといいますけれども、陸上が見えてしまう。一番電波の強いところは、雨を見ているわけですが、横の方の弱い電波が放射されている領域でも、同じ距離であれば、衛星には同時に受信されます。この地表面エコーをグランドクラッタといって、これが、さっき言いましたように、100万倍くらい雨よりも強いのですから、実際にこのサイドローブを逆に、千分の一くらいに落とさないと、いけなくなってくるわけです。

[図 8]
短いパルスと低いサイドローブ特性を組み合わせると、なんとか計算上ではクラッタの影響を抑圧できるという見込みを得ました。たまたま、うまく予算もつきましたので、先ほど、畚野さんから発表がありましたように、航空機搭載用のシステムを作り、飛行実験をやりました。これは、後の日米共同実験においてアメリカのP3-Aという飛行機に取り付けたアンテナの様子です。このアンテナはメカニカルスキャンのオフセットパラボラタイプのアンテナですが、非常にサイドローブ特性のいいものを、当時、10GHzと35GHzで作りまして、実際に実験をしました。本当に短いパルスと低いサイドローブ特性の組み合わせでグラウンドクラッタの影響を抑圧できるかのか、実験を行ったわけです。もちろん、サイドローブを低くするということは、アンテナ全体の利得を犠牲にすることになります。ということは、S/Nが悪くなるわけです。ビーム幅も広がってしまいます。必ずしもいいわけではありません。こういうアンテナで、本当に雨が受信できるかという、実験をおこなったわけです。
 これは25年前の私ですが、先ほど畚野さんがおっしゃったように、酸素マスクを実際つけていました。これはホットした顔をしていますから、多分実験が終わったところだと思います。こういう状態で実験を行っていました。畚野さんは、親切で、やさしい室長でしたが、当時、こんな飛行機ですから、いつでも危なくなったら、降りてきていいよ。でも、データも取らずに降りてきたら、命はないぞと言われました(笑い)。そういう状態で実験を行っていました。

[図 9]
 この航空機搭載システムは降雨レーダとマイクロ波放射計の両方を組み合わせています。つまり、降雨レーダとマイクロ波放射計で同時に雨を観測することが、非常に有効だということは、私たちも思っていましたが、この実験で実際に、それを実証することができたのです。この降雨レーダとマイクロ波放射計を一つの衛星に乗せるというコンセプトは、TRMMで実現されました。上図の実線は10GHzのマイクロ波放射計の輝度温度を示します。輝度温度の高いところと、雨が強いところとが、非常に強い相関があることがわかります。下図の実線は35GHzレーダから測定した高さ方向の平均的な降雨強度です。この降雨強度は何を使って求めているかというと、これは降雨からの散乱強度を使っているのではなくて、海面散乱の降雨減衰を使って求めました。つまり、雨が降っているときの海面散乱電力は、雨が降っていないときに比べると途中の雨によって減衰を受けて弱くなります。降雨時の海面散乱エコーを使いますと、降雨減衰が推定でき、そのことから、逆に降雨強度を推定できるということが、理屈の上では簡単ですが、実験データをみて降雨強度算出に使えそうだということがわかってきました。つまり、マイナスの影響があるグランドクラッタとマイナスの影響がある降雨減衰の二つが組み合わさると、プラスになって新しい降雨強度算出用のアルゴリズムとして利用できるということが、飛行機実験でわかってきたわけです。このアルゴリズムはその後、名古屋大学の中村君、それからNASAのメネギーニ、通信総合研究所の井口君たちがブラッシュアップしまして、TRMMにも表面参照法として使われています。この様なことが実験によってわかってきまして、衛星搭載用の降雨レーダが実現できそうだなという感触がだんだん強くなってきたわけです。







 
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