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講師: 織田孝幸(おだ・たかゆき)
日時: 2006年7月27日 |
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数学カフェ 「素数」 |
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>>> 先生方が何をおやりになっているのか、具体的な研究内容を、一言でお願いできますか。
織田: 一言では無理ですので、我々のやっている研究の雰囲気を少しだけ分かって頂こうと思って、
作ってきました(「素数とGaussの整数」と題した資料)。我々の素数というのは、ちょっとひねった素数です。
今回のシリーズで初めてこういうことをしますけど、これは少し骨があります。。
質問の中に、素数と複素数の関係はというのがありましたけど、これは何も関係がありません。漢字の複素数は、
素数の前に「複」が付いているように見えますけど、切れる場所が違いまして、複素というのが一つの言葉です。
それで、ちょっと思い付いたんですが、複素数の中で、整数みたいなものを考えることができます。複素数は、虚数単位のi 、 つまり√-1で、i の2乗は-1となる数です。a + bi というときは、実部 a と、虚部 bi の和になります。 a 、b がどんな実数のときでも、これは複素数です。ところが、ここで a とか b が整数になるとき、これは、 普通の整数に非常に近い性質をもっています。例えば、足したり、引いたり、掛けたりしても、やっぱり同じような性質を持っている。 これを、有名な数学者であるGaussが研究していたので、「Gaussの整数」といいます。複素数というのは複素平面にあって、 a + bi は、ちょうど格子の上にある点に対応しています。
そういう複素数の世界で素因数分解をします。2という数は、普通の整数の世界では素数で、これ以上どうしようもない。
ところが、Gaussの整数の世界では ( 1+i )・( 1-i ) に分解します。これは 1- i2 = 1+1 = 2 になります。 ところが、3はこういうふうにはならないで、素数のまま。5は、(2+ i )・(2- i )に分解します。5というのは、別の見方をすると、 4で割ると1余る数です。次の7も11も分解しない。13は(3+2i )・(3-2i )に分解して、やはり、4で割ると1余ります。17は16+1で、 (4+ i )・(4- i )に分解します。19、23は素数のまま。29も(5+2i )・(5-2i )になって、4で割ると1余る。こうやってずーっといくと、 そこに書いてあるように、「これをじっと眺めると、次の法則の成り立つことが分かる」。
その法則というのは、証明できる定理なんですけど、素数pが p = (a+bi)・(a-bi) = a2+b2 となる必要かつ充分な条件は、 pが2であるか、pを4で割ると1余るときだということです。これには「平方剰余の相互法則」という荘重な名前が付いております。 これが類体論と呼ばれるもので、Hilbertや高木貞治がやっていたものです。我々は、ある意味で、 これを更に発展させたことをやっています。これが我々の仕事の入り口です。
この定理は、東大の修士の試験の口頭試問で、しばしば出される問題です。ですから、これをちゃんとできると、
皆、私や寺杣さんのお弟子さんになれます。
三井: その可能性のあるのは、ここでは、中学生の方だけですね。
寺杣さんは少し違うということですので、締めくくって頂きましょうか。
寺杣: どういうことをやっているかを一言で言うのが難しいと思いますが、
ちょっと絵を描いて説明します(遂に、小型のホワイトボードが出てくる)。
代数幾何というのをやっているんですが、代数幾何で、先ず最初にやるのは、有理曲線といって、二次曲線です。
大事なものは三つあって、円、双曲線、放物線です。これは、数学の幾何学の中で、一番基本的で、一番分かりやすいものですが、
こういうものを基礎にして、三次曲線に進みます。これうするとかなり難しくなります。
例えば、三次曲線の代表的なものは、このような楕円曲線というもので、式で書くと、y2
= x3-xになります。 二次曲線との違いは、多くの種類があって、非常に豊かなものだということです。そういう特徴を利用して、
楕円曲線は暗号に使われたりします。楕円曲線は一般の曲線の中では比較的簡単なものなんですけども、
それを本当に知りたいと思ったら、現代的な手法なしでは、とても語れないものです。
これを複素数で考えると、このようなドーナツみたいな形になります。ドーナツには二つの輪があるんですが、
二つの輪が独立にグルッと回る。この楕円曲線と呼ばれる三次曲線を変形するときに、こういう二つのものを考えます。
こういうものを、現代数学ではcohomologyとして扱うんですが、こういうものを元にしていろんなものを研究していくと、
非常にきれいなものが統一的に研究できます。
>>> そういう数学の研究のゴールというのはあるんですか。
織田: 難しい質問ですね。やっている局面局面で、目標みたいなものはありますが、
手近な目標を見ているわけですね。ひょっとするとマラソンを走っているのかもしれないけど、
百メートル走しか見ていないかもしれない。その先は見えません。私が見えるのは、せいぜい20年後か30年後までですね。
調子が良いときには、パッと展望が開けますけど、その先は分かりません。
三井: いつものように、今日も、盛り上がってきたところでお終いにしなければいけません。
皆さん、どうも有り難うございました。
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