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3.スポット法によるDNAマイクロアレイ(スタンフォード型マイクロアレイ)の作製
ヒトゲノムプロジェクトが進み、ゲノムの塩基配列に関するデータが集積されるにつれ、新たに同定された遺伝子の機能や異なる生物種間のゲノムの違いを解析するため、従来法とは異なった、大規模な分析法に対する需要が高まってきた。多数のDNAを分析する手段として光リソグラフィー法による高密度DNAマイクロアレイが知られていたが11, 12)、様々な研究に対応するため安価で自作可能な高密度DNAマイクロアレイへの要望が生じた。Brownは自らもヒトゲノム研究に従事していたことから、自分の研究グループを率いて、自作可能で安価な高密度DNAマイクロアレイの作製法の開発に着手した。1995年、Brownらは、ロボットアームによってcDNAをガラス基板上に並べて付着(スポット)させて高密度DNAマイクロアレイを作製する方法を開発し17)、その高密度DNAマイクロアレイを用いた遺伝子の発現解析法を報告した18)。
彼らの成功の秘訣は、正確に少量の液滴を配置することが可能なロボットスポッターを改良し、cDNAや合成済みのオリゴヌクレオチドを基板上にスポットしたという点にある。高精細度の高速ロボットスポッターを用いることにより、基板上に多種類のcDNAを再現性よくスポットすることが可能になった。既に調製してあるプローブを使うことにより、研究者の望みのDNAマイクロアレイをつくることができる。Brownらはロボットスポッターの作製法を開発し、それを1996年インターネット上に公開した19, 20)。この方法の公開により、多くの企業が調製済みプローブを用いる様々な高密度DNAマイクロアレイの製造法を開発し、高密度DNAマイクロアレイ市場に参入してきた。
図2に、調製済みプローブをロボットスポッターを用いて、基板上に配列する方法を示してある。マイクロアレイは、ポリ−L−リシンを被覆した基板上に複数の針を持つスポッターで作製する。96穴のマイクロタイタープレートからプローブ溶液をスポッターに吸い取り、少量のプローブ溶液を基板上に付着させる。試料とのハイブリダイゼーションが終わった後、マイクロアレイにレーザーを照射し、蛍光を検出する。
高密度DNAマイクロアレイは、多数のDNAを同時に分析できることから、主として遺伝子の発現研究と遺伝子変異の検出に使われている。Brownらは、高密度DNAマイクロアレイを用いて2種類の試料を同時にハイブリダイゼーションさせることにより、遺伝子発現を定量的に解析する方法を開発した18, 21)。図3にその方法を示してある。目標とする組織のメッセンジャーRNAを抽出し、それを緑の蛍光色素で標識する。対照の組織のmRNAは赤の蛍光色素で標識する。2種類のRNA試料を同時に、高密度DNAマイクロアレイ上のcDNAとハイブリダイゼーションさせる。その後、レーザーを照射し、蛍光のパターンをコンピューターに記憶させる。コンピューター上で各々のパターンを重ね合わせることにより、目標組織でのRNAの発現を対照組織のものと比較することができる。もし、目標組織のmRNAが対照組織より多く発現していれば、その部分は緑色に見える。逆に、対照組織のmRNAのほうが多く発現していれば、その部分は赤く見える。同程度に発現していれば、黄色に見える。このようにして、研究者は病気や環境変化によりどの遺伝子が発現または抑制されるかを知ることができ、この高密度DNAマイクロアレイを用いる遺伝子発現解析法は、遺伝学研究や病理学研究にはなくてはならない手段となった。
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