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第27回レポート
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第27回リーフレット

第27回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  大島泰郎(おおしま・たいろう)
ゲスト講師:  長瀧重信(ながたき・しげのぶ)
日時:  2009年12月21日



異端児のみる生命「放射線の影響」 BACK

長瀧: 医療や研究に使用されるアイソトープは、今申し上げたように、放射能が低くて嵩張らないものですが、その次の種類に、放射能はあまり高くはないが非常に嵩張るものがあります.放射能を帯びた原発の中にある大きなコンクリートや、病院の加速器のようなものです.更に、炉心に使われる半減期が長くて強い放射能をもった物質をどうするかというのは、非常に大きな問題です.今のところは、六ヶ所村のようなところで地下に厚くて頑丈なコンクリートの入れ物を作って、そこへ運び込み、一定期間(放射能によって、30年とか300年)保存するなどの処分法が考えられていますが、それを受け入れる地域の人達は嫌だろうと思います.

本当は、我々が放射性物質を使い始めた時から、その廃棄物をどう処理するかという議論をすべきだったのです.それをしてこなかったために、負の遺産が残っているわけです.しかし、放っておけば、更に負の遺産が増えますから、何とかしなくてはいけないということで、国全体、そして世界全体の非常に大きな問題だと思います.

J: 原子力発電所は、これからもどんどん増えていくのでしょうか.地元の方は嫌がると思うのですが.

大島: 我々は、研究を通して、こういう技術があるとか、この技術にはこういう危険が伴うというようなことは提供できますが、それらの結果を総合して、原子力発電所を今より増やすのか減らすのかということは、皆で決めることで、長瀧先生に答を求めても無理だと思います.

E: 原子力発電というのは、急に止めたり急にスタートすることができませんから、夜中に使う最小限度の電力を原子力で賄い、大半は火力や水力を止めたりスタートしたりして補っています.だから、現在ある原子力発電所の数でも多過ぎるので、深夜電力の使用を呼びかけているわけです.今以上に原子力発電を増やすということは、電気を無駄に捨てるだけですから、長期的な経済性から考えると、今より減ると思います.

K: 原子力発電所の放射性廃棄物は、非常に放射能が強くて半減期の長いものが出てきますから、医療用廃棄物とは違って、全く合理的な案はないと、私は感じています.プルサーマルが行われたら増える一方ですから、非常に危険です.そういう問題があるにもかかわらず、安全な処方がないというところが非常に心配です.安全だと言ってもらえないと、いつも心配がつきまとうということではないかと思います.

長瀧: 自動車に乗っても、新幹線に乗っても、飛行機に乗っても事故は起きます.そういうリスクの中に暮らしていて、原子力に対してだけ、絶対にリスクがないということは可能でしょうか.先日も、原発からラドン温泉の風呂桶一杯分くらいの放射能が海に流れ出たことで大騒ぎしている新聞記事がありました.原子力が安全だと言うためには、絶対に事故が起こってはいけないことになっている感じがします.原発を作るほうも、住民と話をするときには、絶対安全だと言っていますが、そんなことは絶対にあり得ません.現実にJCOの臨界事故が起こった今、絶対安全ではないということになり、緊急の対応も議論されるようになりましたが、安心するためには、もっともっとリスクに対する考え方がないといけないと思います.ちょっとしたことが起こっても、事故だと大騒ぎする今の日本の状況が本当にいいのかどうか.原発も含めたあらゆるリスクに対して、科学的に正当に評価し、社会がそれを理解することが必要ではないかと個人的には思っています.一方、原子力発電所の放射性廃棄物は、非常に放射能が強くて半減期の長いものですから、これは本当に国際的に真剣に対策を検討すべきであると思います.

L: 放射線を遮蔽する手段にはどれだけの効果があるのでしょうか.放射性廃棄物も、地下の岩盤の中に埋めてしまえば、ほとんど影響がないのでしょうか.

長瀧: 放射線の種類によってかなり違います.アルファ線は紙1枚で止まってしまいますが、ガンマ線はかなり透過します.病院では、レントゲンの機械を厚さ1.5メートルのコンクリートの壁で囲っています.PETの場合は最終的にガンマ線になりますが、やはり、コンクリートの厚さが何メートルという規制があって、その外に居れば、普通の医療用に使うレントゲンのガンマ線には安全だということです.

原発の放射性廃棄物の場合は、計算では、地下300メートルに埋めてコンクリートで固めれば、地震があっても大丈夫などという条件が決められています.地表に居る人には放射線の影響はないという規格になっていると思います.

K: 六ヶ所村が必要なのは、半減期が非常に長いので、非常に長い期間置いておかなければ埋めることができないからです.また、埋めたとしても、いつ地下水に漏れ出すか分かりません.そうすると、汚染が全体に広がってしまいますから、やたらに埋めることもできないと思います.

L: そうは言っても、埋める以外にないでしょう.

K: 海洋投棄というのも考えられていたのですが、それはできなくなりました.

大島: 深刻な議論に水を注すようですが、夢のような話があります.それは、大陸が潜り込むところに埋めてやればよいというもので、それが出てくるには、一つの生物種が絶えるくらいの億年単位の年数がかかるだろうから、大丈夫だろうというわけです.それは夢のような話ですが、本当はそれで具合の悪いこともあるのです.大陸が潜り込むときは、埋まっているものを傍の海底に放り出すからです.ところが、それが今の古生物学にとっては、非常に大事なことなのです.そこに、大陸が消えてしまった時代の化石が見つかるからです.

M: 放射線の影響についてもリスクという考え方が浸透してきていることが分かりましたが、専門家の方や行政の方にはそうであっても、一般にはまだ先のことかもしれないと感じています.今後も、皆さんにリスクを理解してもらえるような活動をして頂ければと思います.

N: アメリカのGM(遺伝子組換え)担当者が日本でスピーチをしたときに聞いた話ですが、GM作物と放射線処理した作物に対するアメリカ人とヨーロッパ人の反応の違いについて、アメリカ人はGM作物に肯定的で放射線処理した作物には否定的であり、ヨーロッパ人はGM作物には否定的だけれども、放射線処理したポテトは食べるそうで、リスクに対する考え方の違いが面白いと思いました.先生はどのように思われますか.

大島: 先程も言いましたように、我々は技術やリスクは提供できます.しかし、それを取り入れるかどうかは、基本的には社会の構成員が決めることです.そして、結果は必ずしも科学的な安全性だけで決まっていません.例えば、GMの大部分はアメリカがパテントを握っていて、経済がそこに絡んでいます.そういう要素もあると思います.

これまで、原爆の被害や、奇形、廃棄物の問題といった怖い話が出てきましたが、もっと怖い質問をしようと思います.ただ、最も怖い話をすると、大抵の人は笑うのですが.ご存知のように、太陽の活動は10年周期で活発になります.厳密には11年ですが、次に活発になるのは2012年だということで(笑)、NASAが警告を始めていいます.前回は2003年に一番強い太陽のフレアからの放射線が届きました.そのときは通信に影響を与える程、つまり工学レベルで影響を与える程の放射線が地球に入ってきたのですが、次が2012年と予測されているわけです.そこで、私の質問です.長瀧先生は、2012年に北極近くを飛ぶ飛行機で、お孫さんと一緒に外国旅行に行かれますか.(笑)

長瀧: 私は年齢的に(笑)、もし、放射線の害が出るとしても、何年もかかるわけですから、私は心配せずに行きますが、孫と一緒の時はどうするか・・・

大島: もし、お孫さんと一緒には行かないとおっしゃるようでしたら、私は、2012年はなるべく外に出ないで、地下のバーで飲んでいることにします.(笑)

三井: では、これでおしまいにします.(拍手)


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Last modified 2010.02.23 Copyright(c)2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.