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講師: |
大島泰郎(おおしま・たいろう) |
ゲスト講師: |
長瀧重信(ながたき・しげのぶ) |
日時: |
2009年12月21日 |
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異端児のみる生命「放射線の影響」 |
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長瀧: チェルノブイリ事故の場合も、I131が甲状腺がんの原因だと言われていますが、私自身はまだ決まっていないと思っています.テリウムの半減期は4日くらいですが、かなり遠くまで飛んで行き、そこでI132になる可能性もあります.その証拠となるような例が1つだけ報告されています.事故のあった場所から300キロメートルくらい離れたところから帰ってきた日本人が、成田空港で足止めされて甲状腺が調べられました.そのときに、I132が見つかっています.
E: そろそろ80歳になりますが、4年程前に肺炎になって、1日おきに約4ヶ月間レントゲン写真を撮られました.相当な線量を浴びたと思いますが、今のところは、特に何もありません.
それから、我々は体内に入った異物を代謝する機能を数多く備えていますし、放射能の強いもの程減衰するのも速いようですから、被曝による心配の多くは杞憂になるのではないかと思っています.
長瀧: 確かに、代謝が非常に問題です.原爆でも、チェルノブイリ原発事故でも、地上にずっと残っているのはセシウムがほとんどでした.セシウムは半減期が長いので、チェルノブイリ原発事故から5年後に我々が行ったときでも、まだ土の中にたくさんありました.だから、植物にもそれが含まれていて、イネなどはかなり吸収します.
私が長崎に赴任した頃、黒い雨が降った地域の住民達の全身をスキャンしたときは、戦後30年経っていましたが、コントロールの2倍くらいの放射能がありました.それは、最初に浴びたときから持ち続けている放射能ではなくて、汚染したイネを食べるからです.通常は、体内に入ると、約2ヶ月で消えてしまいます.
しかし、アルファ線を出すもの、例えばプルトニウムのようなものは、飲み込んでもほとんど吸収されませんが、それを吸い込んだときに、肺のどこかに止まっていて近くの組織に影響を及ぼすようなことがあると心配です.
長崎原爆はプルトニウム爆弾ですから、今でも土を掘って調べると、プルトニウムが見つかります.もっとも、それが長崎原爆のプルトニウムか、中国が行った核実験によるプルトニウムかは分かりませんが、プルトニウムによって人間に被害があったという報告は今のところありません.ただ、何回も言いますが、報告がないからといって、完全に無いというわけではありません.
大島: 我々が1年間に浴びても大丈夫だという線量は法律で決まっていますが、大雑把な計算では、レントゲン撮影を4、5回も受けたら、その許容線量を超えてしまうと思います.ところが、原子力発電所の原子炉で働く作業員の場合は、許容線量が我々の10倍程度になっています.長瀧先生は法律を決める側にも関与されているのではないかと思いますが、どうしてそのような差を設けているのでしょうか.
長瀧: 一定の線量、例えば100ミリシーベルト以上は人体に影響があります.それ以下では科学的は分からないというのが正しい表現であると思います.我々が日常浴びている線量は年間1ミリシーベルトです.この1から100ミリシーベルトの間の影響は不確実で、国際機関などのポリシーを含めての放射線防護の議論になります.
原発の労働者に関しては、世界中で法律で規制して測っています.また、現在、世界の16カ国から集めた60万人程度の記録があります.去年か一昨年、WHOがそれらを疫学的に調べて、原発の労働者が浴びている線量で健康に影響があると報告したものですから、一時大騒ぎになりましたが、カナダを別にすると、問題がなくなってしまったのです.今は、カナダの特殊事情とは何かという議論はありますが、60万人を疫学的に調べても、原発の作業員が浴びている線量と人体の影響の関係にはっきりした結果は出ていない、影響は認められていないということです.
ICRP(International Commission on Radiological Protection: 国際放射線防護委員会)では、何年か毎に、勧告を出します.1990年のICRP勧告を日本が取り入れたのは10年くらい経ったときで、それが今の法律になっています.私は、その勧告を取り入れることに決めた放射線審議会の会長でした.ICRPの勧告が科学的なものかどうかという私の質問に対して、ICRPの委員長は、「我々は科学に基づいてポリシーをもって勧告している」と答えました.要するに、これは放射線防護というポリシーであって、健康に悪いということではなくても、防護という目的から言うと、この範囲までは入れたほうがよいということになるのだと思います.
その委員長は非常にアクティブな方で、自然放射能を1にして、その10倍は危険であるとか、100倍はどうだという言い方のほうがよいのではないかと提案されたのですが、やはり計算して値で出すほうがよいという方が多くて、今のようになっていると聞いています.
新たに2007年の勧告が出ましたので、それに応じてまた変わってくるのではないかと思います.1990年の勧告後に大きく変わったのは、放射線の種類によって、どこまでを放射性物質にするかといった規制が入ったところです.トリチウムなどは、私が大学に居たときは煩く管理していたのですが、最近は、量が少なければ、規制では放射性物質ではなくなってしまいます.放射性物質でなければ、誰でも買うことができますし、誰でも使うことができます.しかし、一時にたくさん買うことはできません.大学でも、研究室別に買えば放射性物質ではありませんが、大学全体でまとめ買いすると放射性物質になって(笑)、規制の対象になります.従って、規制のポリシーというのは、国によっても大きく違うのではないかと思います.
大島: X線検査は、受け過ぎるより受けないほうがよいという俗説もあるようですが、かなりの安全率を掛けた数字だと考えて、積極的に受けたほうがよいという解釈でよろしいですか.
長瀧: 医学的な部分については、今迄はICRPは積極的ではありませんでしたが、徐々に議論されるようになってきました.患者さんに関しては、まとめれば、医学的に正しい理由がある(正当化)ならばよいということになっています.
原爆の被曝線量に比例してがんが増えるという調査結果があって、その線量が計算されていますから、レントゲンで被曝した線量をそれに当てはめて、がんが何パーセント増えるかという論文が出ました.その内容は、日本のがん患者の3%がCTやX線の放射線によるというものです.そのとき、私とフランスのアカデミーの大御所が、医療というのはプラスの面を考慮しなければいけないと、その論文への抗議文を載せたのですが、プラスの面の証拠がなくて困っています.そのときは苦し紛れに、日本はCTやX線を世界で一番多く使っているかもしれないが、日本人は30%くらいががんになるけれども、世界で一番長生きしている(笑)と書きました.しかし、一般の健康診断で使われるPETやCTを確実に正当化する理由が見つからないのです.がんを早く見つけるためにスクリーニングをするということになっていますが、最も困ることは、「早く見つければ長生きするのですか」と質問されても(笑)、そのデータが無いことです.長生きするかどうかの調査は、法務省の許可を得なければいけません.しかし、現在は個人情報で縛られていますから、法務省は許可を出しません.法務省が許可しているのは、原爆被爆者の調査だけなのです.
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