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講師: |
大島泰郎(おおしま・たいろう) |
ゲスト講師: |
長瀧重信(ながたき・しげのぶ) |
日時: |
2009年12月21日 |
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異端児のみる生命「放射線の影響」 |
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A: 同じシーベルトでも、違うという意味ですか.
長瀧: お答えになるかどうか分かりませんが、例えば、お持ちになっている測定器は、ガンマ線を測定してシーベルトの単位で結果を表現しています.ガンマ線以外の放射線を含む場合は、現実の被曝線量は測定器の値と違ってしまいます.放射線源、放射線の種類、エネルギー、物理的な単位に加えて、人体に対する影響を考えて被曝線量が推定されているとお話したかったのです.
B: シーベルトとグレイという単位を使い分ける基準を教えていただけますか.
長瀧: グレイは物理的な線量そのものを表す単位ですが、シーベルトは、放射線防護という立場から、人体に対する放射線の影響を考慮した単位です.性格が非常に違います.使い分けは、基本的には物理的な線量の表現にはグレイ、人体に対する影響を考慮した線量の表現にはシーベルトということかと思います.
[注: グレイは吸収線量の単位です。吸収線量は基本的な物理的な線量関係の量で、すべてのタイプの放射線に対して用いられています。ある物質1kgあたり1ジュールのエネルギーの吸収があるときに1グレイと決められています。ところがシーベルトは放射線防護のために人体に対する影響を考慮した単位です。人体に放射線が当たった場合、同じ吸収線量であっても放射線の種類やエネルギーによって影響の程度が異なりますので、いろいろな放射線を同一の尺度で計算し、比較したり加え合わせたりするため等価線量が考えられています。シーベルトは等価線量の単位で、吸収線量に放射線加重係数をかけたものです。放射線加重係数はベータ線、ガンマ線では1、アルファ線は20、中性子線はエネルギーによって異なります。荷重係数が1の時は1グレイが1シーベルトになります。またさらに同じ等価線量であっても、人体の組織によって影響が異なるため組織の感受性をあらわす組織加重係数を等価線量にかけたものを実効線量と呼んでいます。例えば皮膚は0.01、肝臓は0.04、生殖腺は0.08、結腸は0.12などで体中の組織加重係数を加えますと1.0になります。単位は同じくシーベルトです。吸収線量、等価線量、実効線量について付け加えました.]
C: ワインというのは、古ければ良いというわけではなくて、美味しい年というのがあるらしいですね.チェルノブイリ事故のあった1986年は、非常に美味しいワインができた年だと言います.ところが、86年もののワインは美味しいのに、値段は5分の1です.私は、事故の数年後にヨーロッパへ行ったのですが、多くのヨーロッパ人はブドウの放射能汚染を心配していました.私は、余り気にせずに大いに飲んでしまったのですが、何か影響はあるのでしょうか.
長瀧: チェルノブイリ事故に関する国際原子力機関(IAEA)の報告書、つまり、健康に関する報告書と環境に関する報告書が、事故から20年目に出されました.それぞれ200ページくらいの分量で、100人くらいの著者が関与しています.それには、現在、特殊な場所を除いて、人間の居住に具合の悪い場所はなくなった、アイソトープは消えてしまったと書かれています.
私自身の経験ですが、研究室で使っている線量計を身に付けて出かけた1990年頃でも、線量計の針が動いたのは飛行機の中だけでした.事故が起こった4号炉の中は別ですが、一番の被曝地だとマスコミが騒いだ場所や病院の中でも、5年後でしたが、針が動かないくらいの量でした.だから、ワインが美味しくて安ければ、私は買いますね.(笑)
三井: 昔、実験室でラジオアイソトープを使っていたとき、フィルムバッジというのを付けさせられました.それが感光しているかどうか、2ヶ月か3ヶ月に1度程度の割合で調べるのですが、C14を使っていた私は、一度も感光したことがなかったのですが、P35を使っていた人はよく感光していました.
長瀧: 私は、ハーバード大学に留学していた時に、使っていたI132から強いガンマ線が出るので、フィルムバッジが真っ黒になったことがあります.それで、研究室のチーフに、どうしたらよいかを相談したところ、フィルムバッジを外して研究しろと言われました.(笑)
D: 放射性物質は塵に付着しますから、それを吸ったり、それが食物に付いたものを食べたりします.そうして体内に蓄積する放射性物質の恐ろしさというのも話に聞いていますが、その辺りもはっきりしていないのでしょうか.
長瀧: それは、外部被曝に対して、内部被曝という言い方をしています.医療における内部被曝としては、放射性のヨウ素が甲状腺のバセドウ氏病やがんの治療に使われています.
原爆では黒い雨というのがフォールアウト(放射性降下物)の代表にされていますが、フォールアウトによる内部被曝の例は案外と少ないのです.少なくとも、ABCC(Atomic Bomb Casualty Commission: 原爆障害調査委員会)が中心になって測定した範囲では、長崎の原爆は山で遮蔽されて、直接被曝は無かったけれど、フォールアウトはあったという地域があります.私は、その地域での健康被害を論文として最初に出したのですが、当時の住民には、甲状腺の結節が多く見られました.ただ、住民の数は300人くらいですので、有意の差を出すのは大変だったのですが、甲状腺の結節だけは有意の差が出たのです.それ以外に、原爆による内部被曝の被害に関する報告はありません.
チェルノブイリ事故の場合は、小児の甲状腺がんが数千から8千人程度増えたという疫学調査の結果が出ています.飛散したI131が甲状腺に取り込まれてがんになったということです.それも、被爆時に約5歳以下だった子供にだけ、100倍くらい頻度が増えております.ただ、40歳以上の人には何も起こっていませんし、それ以外のことはありません.
ご質問の呼吸器を通じて全身に吸収される、あるいは、そのまま肺に残存するアイソトープの内部被曝については、我々も初めの頃は気にしながら調査に行ったのですが、今のところ、具体的な報告はありません.ただし、先程から言いますように、認められていないということは無いということではありませんから、そういうことを前提としてのお話です.
大島: 放射性ヨードの半減期はどれくらいですか.
長瀧: 約1週間くらいです.I131は、医学で最初に使われた核種です.初めて人間に使ったのはハーバード大学で、今でもその写真がありますが、日系の子供の甲状腺でその集積率を調べたのです.我々の時代もI131はポピュラーで、治療にも診断にも使いましたし、ネズミにもしばしば使っていました.
ビキニ環礁での水爆実験で被爆した島民の中でも、やはり子供に甲状腺がんが多いのです.このときは落ちてきた灰が比較的多く、東大でもその灰を調べたのですが、I131以外のヨウ素化合物がいろいろ見つかりました.テリウムも含まれていました.アメリカの調査結果では、I131が原因かどうか分かっていません.
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