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第22回レポート
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第22回リーフレット

第22回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  大島泰郎(おおしま・たいろう)
ゲスト講師:  川戸佳(かわと・すぐる)
日時:  2008年12月22日



異端児のみる生命 「生物時計」 BACK NEXT

三井:それは、時計のせいではありませんね(笑).

F:1年周期を刻む時計は見つかっていないのですか.

川戸:最近のことですが、甲状腺ホルモンが、甲状腺ではなくて脳で作られていることが発見されました.それが4月に多くなるということで、カレンダーの先駆けではないかと言われています.ただし、甲状腺ホルモンに精神を異常にする力があるという報告はありません.

それから、これは僕の周りの人がやっているのですが、副腎皮質ホルモンの一種であるDHEA(dehydroepiandrosterone)が季節によって分泌が違うという報告があります.ヒトのDHEA濃度は他の生物に比べて10倍くらい高いので、人間が長生きする原因ではないかと言われています.

そういうカレンダーのようなものもあると思いますが、南半球と北半球では違うという論文もかなり出ています.とにかく、北アメリカの研究者が圧倒的に多いので、日本のデータをもっとたくさん蓄積しないと、偏った結論を出されてしまう恐れがあります.

F:植物に長日性や短日性というのがありますが、それも自立的なスケジュールをもっているのでしょうか.

三井:『時間とは何か』という本には、短日性と長日性について書いてあります.植物は、昼の時間を測っているのではなくて、夜の時間の長さを測って花の咲く時を決めているのだそうです.

G:ここ10年の間に体内時計の研究が非常に進んだのは、何か新しい測定法が出てきたからでしょうか.

川戸:スライドでお見せしたように、蛍の光のようなものを利用して遺伝子の発現が見えるようになったことや、CCDカメラが非常に発達したことがあります.とにかく遺伝子工学が進みましたから、その前の10年の研究が1年でできるようになりました.今やそれが一ヶ月でできるようになっています.だから、皆、もうメチャクチャ走っていますね(笑).

H:深海には光が届きませんが、そこに棲む生物でも時計はもっているのですね.

川戸:生物時計そのものは持っているはずですが、狂ってしまう体内時計を元に戻すには、光が届かない深海では難しいので、そういうところには差があると思います.明暗を見極めることができるものは時計のアジャストがうまくいっているということになります.

H:深海生物に光を当てても、アジャストできないのでしょうか.

川戸:深海生物の体内時計をやっている人はまずいないと思いますが(笑)、光に感ずる器官をもっていれば同じようなことが起こり得ます.

H:今は深海に棲む生物が、進化の早い段階で光を感じていれば、そういう器官をもっているかもしれないということですか.

川戸:これまで光感覚をもっていないと思われていた生物でも、実は紫外線を感じるタンパク質をもっていたということが見つかっていますから、多くは光に感受性があるのではないかと思いますが、深海では、そういうタンパク質自体が退化しています.生物時計の遺伝子発現そのものは光とは全く関係がありません.

B:桜の開花時期になると、隣の花が咲くのを見てこちらの花も咲くのではないかと思うくらい一斉に咲きます.24時間周期の時計をもとにして、365日経ったということも数えているのでしょうか.

川戸:蕾を付けて、それに応じるように成長するのは体内時計だと思いますが、最後の咲くところを決めるのは温度と開花ホルモンだと言われています.温度によって開花ホルモンの分泌量がコントロールされているのだと思います.同じ温度であれば一斉に咲くはずですが、一本の木だけ、ドライアイスなどで温度を下げてやると、他の桜が咲いても、その木は咲かないと思います.

B:人間の場合は、時報のようなもので時間を修正できますが、桜の木は時計の誤差をどのように修正しているのでしょうか.

川戸:昼の時間と夜の時間は光を感じて分かっているわけです.例えば、副腎皮質から朝を告げるコルチゾールを出していますが、真っ暗なところで、副腎皮質に光を当てますと、副腎皮質の時計が変わります.目は非常に感度の良い光の受容器ですが、私たちの皮膚の細胞にも光に反応して情報を出すものがあります.そういうようなものは植物にもあると思います.

I:植物プランクトンというのは食物連鎖の最も基礎になっています.昼間は植物プランクトンが光合成をして増えるから、海に棲む生物は、それを食べて活動し、夜になると食べられなくなるから眠る.それが24時間周期で回っているというような気がしますが、どうでしょうか.

大島:プランクトンが増えるのを見てから飛びつくのではなくて、餌がある時間を逸早く察知したほうが生存に有利ですから、それが基準になって時計の仕組みが生まれてきたというというのは面白いと思います.

三戸:生物の時計は何を基準にしているのでしょうか.

川戸:地球の自転だという説が一般的になっています.厳密に言うと、地球の自転は非常に長いスパンで変わっていますので、生物が発生してからでも結構変わっていると思います.

大島:シアノバクテリアは、環境が良ければ、自分がもっている時計に従って縞模様で増殖していきます.それが化石で残っているところが見つかれば、昔の体内時計の長さが測れるかもしれませんが、そんな幸運なことは期待できないと思いますけれど.

A:生物時計が誤差2%以内のかなり正確なリズムを刻んでも、カウンターがないと、何日過ぎたのかわかりませんね.そういうカウンターに相当するものが細胞の中にあるのでしょうか.

川戸:生物の場合は、厳密にカウントしなくても、大まかに1年が過ぎたことがわかります.四季で判定できますし、北極星の周りを星座が1回転したところで一年経ったこともわかります.

J:24時間周期と言っても、実は1秒毎にカウントしていて、24時間経ったときに大きな変化が生まれるという可能性もあるのではありませんか.

大島:最初に言いましたが、我々のまだ知らないところに、昔の時計で言うところのひげゼンマイがあるかもしれないわけですね.ただ、それはメモリーである必要はなくて、組合わさったタンパク質が何回かに一回だけ反応するというような、回転比の大きな歯車でもいいわけですね.

J:一日で2パーセントの誤差というのは、積算するとかなり大きなものになると思います.

川戸:生き物を使った測定はバラツキが大きいので、プラスマイナス5%だったら、非常に精度が良いということになります(笑).コントロールできる培養細胞でも20%くらいはばらつきますから、ヒトの個体で2%の誤差というのはすごいと思います.

K:私は睡眠時間が長いほうなので、短くてすむのなら、そのほうが有り難いと思います.しかし、それは変えることができるものなのでしょうか.

大島:努力してある程度変えられるかもしれませんが、基本的には遺伝的で、普通の遺伝子の組み合わせと同じ遺伝が起こるようです.聞いた話では、母親と長男だけが非常に短い睡眠時間ですむという家族があって、他の家族が寝ている間、母親と息子が、「どうしてみんな寝るんだろう」(笑)と話し合っていたそうです.

川戸:ナポレオンは本当に3時間しか寝なかったのでしょうか.実は人の見ていないところで寝ていたとか(笑).


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