畚野信義 |
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[図 1]
[図 2]
[図 3]
[図 4]
[図 5]
[図 6]
[図 7]
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すみません、私が年を取ってコンピュータを使えないというわけではないですが、このようにOHPをピッと出す方が迫力があるように思うものですから。
[図 1]
振り返りますと、私のバックグラウンドはエレクトロニクスですが、1961年から、東大生研が秋田の道川海岸で打ち上げた観測ロケットを使って上層大気の観測を始めた、それが私の研究生活のはじめです。かっこよく言えばスペースサイエンスです。それから10年ほどそういう仕事を続けまして、日本の最初の科学衛星"しんせい"が上がった翌年72年からNASAのゴダード宇宙飛行センターで働いておりました。
当時私は上層大気の光化学反応の研究をやっておりました。私が所属していましたのがラボラトリー・フォー・プラネタリー・アトモスフェアというところなのですが、隣のラボラトリー・フォー・アトモスフェアの所長をしていたのがノルドバーグという人で、非常に仲良くしてくれて、俺の名前は日本語では北山だと言うのが口癖でした。彼はドイツから移民してきた人で、シカゴ大学にいたのですが、シカゴ大学には藤田さんというトルネードのアメリカ一の専門家がおられました。この人は後に飛行場近くで突然飛行機が落ちる原因であるダウンバーストを発見したことで有名な人ですが、ノルドバーグは藤田さんと仲が良かったようです。ちょうど私が行った1972年の次の年、73年に彼が責任者をやっていたアーツ1号が上がりました。これは今のランドサットシリーズの第1号でありますが、公表されたもの以外のずいぶんいろんな写真を見せてくれて、今で言うグランドトルースの話なども聞かせてもらいました。私は当時電波研究所におりましたので、いずれ自分もこういうことをやりたいな、特に電波でやりたいな、と思っておりました。
ところが、74年の半ばに日本に帰りましたときには、日本は通信衛星、放送衛星のプロジェクトがたけなわで、私もエレクトロニクスのバックグラウンドから衛星通信をやることになり、二つの衛星の責任者になりました。特に私がやっていたのは高い電波、ミリ波での衛星通信のための研究で、高い周波数の最大の問題は雨の減衰です。
[図 2]
当時、雨による電波の減衰の研究と言いますのは電波を水平に通してその下に雨量計を並べて10年、20年かかって統計的に結果を出すような研究でしたが、衛星はそんなに長い寿命はありませんし、特に衛星からの電波が通ってくるのは非常に高度が高いところですから違うやり方をしなくちゃいかんというので、ここにありますように降雨レーダで雨を観測しようと考えました。
[図 3]
それまで降雨レーダは有名な富士山レーダなどたくさん使われていましたが、まだまだ定性的な域を出ないものであって、定量的には必ずしも信頼性のあるものではなかったのであります。地上にレーダを置きまして[図2参照]、こういう半球状の領域中の雨を全部レーダで観測して任意のクロスセクションの雨を出して表示する。これは水平の高度2 kmか4 kmの雨の状態を表しているものですが、当時のエレクトロニクスの技術ではこの程度が最高でして、これもカラーのプリントアウトができなくて、アルバイトの女性にお願いして、色を塗ってもらっていたような状態でした。
[図 4] [図 5] [図 6]
この絵を覚えておいていただきたいのですが[図4]、高度が変わるとこういうふうに変わります[図5]。垂直の断面ではこういうふうになる[図6]。衛星の電波は、衛星から地上まで雨の中を通ってゆくわけです。数年後衛星通信の研究も一段落して、段々と実用化の方に向いてゆき、次にポストプロジェクトとして何をやるかというときに、それまでの研究の中で確立した、レーダで雨を定量的に測る技術を使って、これを衛星に積んで地球全体の雨を測れないかという話が浮き上がってきたわけです。これが先ほど私が申し上げましたように、宇宙から全体的に地球の何かを見るような仕事をしたいな、それを電波を使ってやりたいなという以前からの希望にフィットしたわけです。雨については、日本のようにアメダスのようなシステムがあって、非常に細かく正確にわかっているというのは世界中のごくまれな場所なんです。地球表面の約3分の2を占める海の上では測れないし、陸上でも人口稠密で文明の発達したところしかデータはない、例えば、アフリカでは旱魃で飢饉がよく起こります。でも本当に雨が降っていないのか、あるいは雨の降る位置が少し動いたのか、もっと人為的な理由があるのか、はっきり判らないのが現状です。さらに雨というのは、世界中の大気や海洋の運動の大きな駆動源であります。
[図 7]
これは太平洋のあたりの地図ですが、西太平洋あたり、東南アジアからインドネシア、フィリピンにかけたあたりは海が非常に浅く、かなり遠くの島へでも歩いて渡れる程度の海が非常に多い。海の水が非常に暖められてどんどん水が蒸発する、海の熱エネルギーを持ち上げるのですけれども上層大気中でこれが凝縮して雨がドッと降りますとその熱をそこで放出します。するとその辺の気温が非常に上がって強い上昇気流が起り、周りから下のほうへ空気が入ってくる、そうやって世界的な大気の運動が起こるわけであります。
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