吉川先生講演
1.科学についての新しい社会契約
2.第二種基礎研究を含んだ本格研究による契約の履行
3.一般化製品
4.夢、悪夢、現実
5.科学的方法の非対称性
6.第二種基礎研究が重要
7.第二種基礎研究の論理的構造


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3.一般化製品

 産総研でいろいろそういう議論しているうちにわかった1つの典型的な例があります。産総研には地質関係の研究室があって、そこは三宅島の火山の予告をして、待避命令を出す基本的なデータを出したのは産総研だったのです。どこか他の大学の主張と矛盾するのですけれども、産総研のデータが採用されて、待避させました。待避した結果、三宅島の噴火によって死亡した人はゼロだった、こういう非常に素晴らしいメッセージがありました。これも基礎研究、火山研究です。これは目に見える立派な製品になるわけです。しかし火山研究そのものは論文になるのですが、待避命令を出したということは論文になりません。そのこと自体が評価されて、その人が出世するなんていうことはないのです。そういった意味ではマーケットがなかったのかもしれません。それはちょっと厳密な議論をすることはできませんけれども、論文とは違う、そういった製品もあるということです。
 その他、産総研の場合を例にいたしますが、標準をつくっている人たち、規格をつくっている人たち、それからいくつかの研究を集合して、ロードマップを書いたりする人、いろいろいるのですが、そういったものはみんな役に立っています。大変有用で、社会にとっても極めて有用です。例えば標準規格なんかなければ社会は動かないのです。しかし有名な学者になるためには、こういうある意味では縁の下の力持ちと言われるようなことをやっていては今は駄目なのです。駄目と言うとおかしいのですが、こういうことをやって世界的な話題性を持つ学者になった人はいないわけです。しかし、こういうことをしている社会にとって非常に大きな意味があります。そういう目に見えないというのもあります。データベースが目に見えないというのは語弊がありますけれども、例えば今、ゲノムというのは、ものすごくたくさんの研究がされています。しかし、ゲノムのいちばん大事なことは、その情報がデータベースとしてつくられて、しかもそのデータベースを公的に管理することによって、研究者が自由に無料で使えるというような、そういう社会システムをつくっていくことが非常に大事です。インフラストラクチャーです。しかし、この人もまたデータベースをつくったから、立派だとは評価されませんし、データベースには固有の財産権、知的財産権がなかなか与えられません。与えろ、与えないという議論をしているので、なかなかそういう目に見えるものになってきません。しかし、ユーザーはたくさんいるわけで、使っている人にとってはデータベースの存在は非常にありがたいわけです。その目にも見えず、市場もないというなかに、リスクマネジメントのような部分もあります。これは社会にとっては極めて大事で、現在原子力問題が行き詰まってしまったのは、リスクという概念がないからなのですが、そういったことを社会に対して、一種のリスクという概念でこの問題を採り上げたらどうかという、いわば人々の価値観に対して影響を与えるような、科学自体の価値観を変えなければいけないのだという、そういう問題を提供していくのは、これはいったい何なのでしょうか。また、これをやったからと言って、なかなか評価もされない、しかも無視されたりするということで、なかなか目にも見えないし、市場もありません。こういう一群の問題があるのです。実はここに、今日お話する第二種の基礎研究というものが必要なのです。ここでは具体的に製品というものにもっていく、こういった製品ですよ、こういった製品が一種の製品なのですからね、それへ持っていくために何かこういういろいろなよく目に見えない人間の努力というもの、知的な努力というのが必要で、これを第二種の基礎研究といっています。ここを突破しないと、もちろん製品にもなりません。そこでこの問題に、焦点をあてた話をしたいと思います。
 いわば基礎的な科学的な知識が具体的に社会に富をつくりだすという、そういう構造です。それがどうなっていくのでしょうか。


 
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