吉川先生講演
1.科学についての新しい社会契約
2.第二種基礎研究を含んだ本格研究による契約の履行
3.一般化製品
4.夢、悪夢、現実
5.科学的方法の非対称性
6.第二種基礎研究が重要
7.第二種基礎研究の論理的構造


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[図 6]

[図 7]
2.第二種基礎研究を含んだ本格研究による契約の履行

 それに対する具体的な話をいたします。私は先ほど言ったように、今、産業技術総合研究所(AIST)におりますが、研究者集団ですからやはりこのループの中にいなければいけません。(図6) 数千人の研究者がこのループの中にいて、このループのどういう部分を受け持つのかという意味において、産総研の研究者はきちっと共通の認識、アイデンティティを持っている、こういう問題の立て方になっています。これはおそらく大学があり、他のさまざまな別の研究所があり、そこがみんな研究しているのだとしたら、すべて公的研究資金を使っているわけですから、みんなそれは1つのマイナーループをつくっています。これ全体として、さっきも言ったように科学者コミュニティというのが1つのループとして、これはまあ私たちのデザインというか、そういったものがなければならない。このAISP(産総研)の場合は、いったいわれわれはパイプとしてどういうパイプを持っているのかということをいろいろ検討した結果、第一種の基礎研究という、これはいわゆる普通の基礎研究です、論文を書くための。それに対して、具体的にベンチャーをやるとか、産学共同研究をやって具体的な製品にするための製品化研究。その間に今まで定義されていない第二種の基礎研究というのが存在します。この話はいわばこういう具体的な1つの研究機関が、社会から、国からですが、人々のお金を受け取って、それで社会に還元していくということに対して、こういう問題が認められます。しかしこれは決してAIST固有の話に閉じた問題ではなくて、一般的な問題として、これは私の個人的な興味でもあるのですけれども、現実に第2種基礎研究を含んだこういうループをうまくつくらないと、契約の履行ということが起きないのです。
 ここで、先ほど申し上げた製品化研究と言ったときに製品って何だということなのです。(図7) これは非常に難しくて、これはこれから産総研でもこういった製品というのはいったい何かということをまたいろいろワークショップを開いて、今日、ここに参加しております内藤さんを中心として、製品ワークショップというのを開こうと言っているのです。10回ぐらい産総研の中で議論しようと。今までは、第二種基礎研究ワークショップというのをやっていたのですが、今度は製品をやろうということです。これはまだプレリミナリな私の個人的な判断でワークショップの結果でも何でもないのですけれども、製品にもいろいろあります。科学者の製品というのはいちばん多いのは科学論文なのです。これはきちっとした論理構造を持っていて、エビデンスベースの1つの事実の発見に基づいて、それを論理的に展開して、証明可能なかたちで書いたもの、そういう独特の論理的なフォーマットに従って書かれた科学論文というようなものです。しかもそれは多くの場合、領域型です。物理学会に出したとか、機械工学会に出したとか、そういう領域ごとの論理性で書かれています。あと特許とか具体的にこれは商品になるぞというと、企業が買ってくれるようなこともあるでしょう。それらはいずれにしても、大きく言えば目に見えて、しかも市場性があって、買い手がいるということです。市場性というのは広い意味で、お金じゃなくて、それを受け取る人がいるということです。左上は、目に見えて、しかも買い取る人がいます。買い取るというのは、お金ではありませんけれども、それを受けて評価し、書いた人の科学的な能力を評価し、うまくいけばどこかの大学のポストがあるなど、そういう意味で市場が存在しているわけです。特許もそうです。これはよく見えていますが、どうもそればっかりではないわけです。公的な金を受けて、一般化製品というのを目指すのですが、どうも一般か製品はこれだけではありません。


 
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