|
|
|
|
[図 28]
[図 29]
[図 30]
[図 31]
[図 32]
[図 33]
|
5.研究のための研究
ここから最初のほうの研究のための研究について少しだけお話しておきます。(図28) モード1科学はもう中島さんのご専門でしょうけれども、19世紀の終わり頃にこの仕組みができていて、百何十年かの歴史があります。結局ノーベル賞は、ノーベルはそんなことは何も要求していませんけれども、結果的にはできたばかりのモード1科学と言いますか、第一種の基礎研究を評価する賞として定着していくことになります。(図29) 歴史的にちょうどそういうタイミングだったのだと思います。
これに対して、いちばん激しい批判をしているのは、村上先生です。(図30) 科学者だけがどうして科学者の相互評価だけでいいのか。他の職業の人たちはみんなある意味では生活者に評価されているのに、科学者だけは生活者の評価なしで、科学者の評価だけでやっている。村上先生はこれをブレーキのない車とまでおっしゃっていて、21世紀に必要とされるのはノーベル賞のような選考基準ではないとおっしゃっています。(図31) ただこれは実は、ノーベル賞委員会自身が今はこの問題を相当意識しているようで、ノーベル賞はこの数年、明らかに変わってきている感じがします。従来型の、いちばん最初の人を探していくという仕組みは変えてはいませんけれども、結果としては生活者の価値の部分を、この頃はずいぶん入れてきているのではないかという気がします。武田賞にとってはアイデンティティを脅かされるかもしれないですから、なかなか難しい問題ですが。
モード1科学と、生活者の価値、この二つを結びつけるところで考えられてきたのが、いわゆるリニア・モデルで、中央研究所を存立させる基盤になってきた考え方です。(図32) これは吉川先生がこの間のシンポジウムでおっしゃっていたように、こういうモデルに従って、ことが起こったというよりは、こういう問題を考えている人たちが、後で理念的につくりだしたという性格が相当強いと思います。ただ歴史的にはこれが自前主義の時代の同一企業の中で、付加価値を外に流出させないというモデルの成立に非常に大きな役割を果たしています。これにはナイロンの発明が特に大きな影響を与えています。実は本当のリニア・モデルはナイロン以外にはないのではないかとまで、いちばん極端なことを言う人は言っております。
ただこのモデルは未だに非常に強い影響力を持っていると私は思います。これは研究者が研究費を請求する時に非常に具合のいい構造をしています。(図33) 矢印の後のほうで遠い将来、きっと貢献するだろうから、基礎研究をやっている私にお金をくださいという作文をする時に、非常にいい構造をしていて、これが未だに非常に強く生き残っている理由だと思います。
|
|
|