西村先生講演
1.経済のための研究と学問のための研究
2.利潤を生み出す仕組み
3.死の谷あるいは悪夢
4.生活者にとって解決すべき問題の設定からはじめる研究開発
5.研究のための研究
6.二つの価値を区別すべき


back next

[図 3]

[図 4]

[図 5]

[図 6]

[図 7]

[図 8]

[図 9]

[図 10]

[図 11]
2.利潤を生み出す仕組み

 経済のための研究というのは、経済学の人たちから言うとどういう構造をしているか、これを考えてみたい。(図3)東大・経済学研究科の岩井克人さんの著書『ベニスの商人のための資本論』という本に、次のようなことが書かれています。利潤を生み出すような仕組みというのは、要するに安いところで仕入れて、高いところで売ると、これしかない。いちばん古典的な例が、地域的に離れた2つの共同体の間で安いところで仕入れてきて、高いところで売ると。これがくっついていては駄目で、離れてないないといけない。離れていて、その離れているところを誰かが結ばないといけないという、その結ぶところから利益が出るのだというお話で、これが商業資本主義と岩井先生はおっしゃっています。ただこの時のこの利益のもとになる差は、競争者が現れてきて、この活動がさかんに行われれば行われるほど、価格差はなくなってしまう。結局利益が出ないところで平衡状態に達します。それを絵にしたのが、これで、こういうふうに2つの水位に差がある水槽が、底でつながっていると水が流れる。(図4)この状態を利益が得られるという状態に例えることにします。差がないと水は流れませんから、差がなくなってしまうと利益がないという、こういう例えで絵にさせていただいたわけです。(図5) やがて競争者が現れて、みんなが一生懸命頑張って、安いものを高いところへ運んで儲けると、その競争そのものによって、差はなくなってしまって、結果的には利益は出なくなります。(図6) 経済学のほうでは差のないところに利潤なしという、シュムペーターの本はこのことだけを証明するため、最初の退屈な長い1章があるというふうになっていたと思います。
 この1回目の地域的に離れた2つの遠隔地貿易による利益がなくなるとして、次に人類が考えだした儲ける仕組みが、賃金を安く払って、製品を高く売るという仕組みを始めた。これを岩井先生は産業資本主義と呼んでおられます。(図7) マルクスが分析の対象とした資本主義がこれで、この場合は、労働力の値段と、労働生産物との値段の間に差をつけることができる時に、その差を利用して儲けています。この差のことをマルクスは搾取と呼んだのでしょう。ただし、これも競争者が現れて、俺のほうが安く売るから、俺から買え、俺のほうが賃金をたくさん払うから俺のところで働けという人がどんどん現れてくると、やがて差がなくなって、利益がなくなって、そこで平衡状態に達します。これでは資本主義は成り立たないと、マルクスはそう言ったのかもしれませんが、そこで新製品を作り出すことを考えます。(図8) 新製品をつくる場合は、これは岩井先生の表現なのですが、新製品の場合の利潤の源泉となっている差というのは、未来と現在の差なのだという言い方をしておられます。未来を人より先に知って、別の言い方をすると、未来という遠隔地に行って、未来を安く仕入れてきて、現在の市場で高く売ることによって利益を出す。これは、岩井先生の言い方では、ポスト産業資本主義となります。
 ただしこの差も、1つの、1回見つけた1つの差だけだと、競争者が現れればやがてなくなってしまいます。利潤が出なくなって、平衡状態では利潤は出なくなります。(図9) 遠隔地貿易で2つの地域に値段差があった時には、貿易活動で値段差がなくなってしまえば、もう元には戻りません。それから安い賃金というのは、やはり労働者が足りなくなって、賃金があがってしまえば、もう元に戻ることはできない。けれども、最後の新製品の場合には、1つの新製品で競争者が現れて、利益がなくなったとしたら、また別の新製品を考えるという仕組みがあります。これを水槽の絵に例えれば、もう1回ここに水を入れてやる。この水位をあげてやれば、また水が流れだす。(図10) この仕組みを通じて、もう1回儲けが出る状態に戻すことができます。この水位、水を入れて水位をあげるというのが、これが営利事業と研究開発活動との関係から言えば、これが研究の仕事になる、そういう解釈ができると思います。未来と現在の価値もなくなるのですが、利潤の一部を研究開発に再投資して、もっと先の未来をとってくるのです。(図11) 儲からなくなったものに対して、もっと先の未来をとってきて、これを先取りすれば次々に差をつくりだせる。この方法を通じて、初めて資本主義は一種の永続性を持つ、過渡現象の連続としての資本主義の永続性ができると言えるでしょう。
 この段階ではとりあえずまだエネルギー・資源や環境の問題はこの議論ではストレートには入っていません。これらを組み込んだ上で、この仕組みを再構築していくというのは、これからの仕事になっているのだろうと思います。



 
back next