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講師: |
大島泰郎(おおしま・たいろう) |
ゲスト講師: |
河合剛太(かわい・ごうた) |
日時: |
2009年10月26日 |
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異端児のみる生命「RNA」 |
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とにかく反復配列が増えては困りますので、それを抑えるために、生物は、いろいろなタンパク質を進化させてきました.つまり、1つのRNAがいろいろなタンパク質と相互作用できるようになっています.実は、先週の学会で仕入れてきたばかりの情報なのですが、生物は、その仕組みを逆手に取って、新たな細胞の中で新たな遺伝子機能を作るというようなこともやっているようです.そういう意味で、細胞の中にたくさんあるジャンクみたいな反復配列というのは、新しい種が生まれるときに働いているのではないかと言われているわけです.「RNA、なかなかやるな!」という感じで、主役ではないかもしれませんが、脇役でもないという認識が生まれつつあります.
大島: 小さなRNAが遺伝子の働きをコントロールする仕組みは、なぜ高等生物にしか存在しないのでしょうか.高等生物になるとき、何らかの必然性があって発明されたのか、あるいは、昔からあったけれども、大腸菌などの下等生物はその仕組みを捨ててしまったのか.
河合: 細胞の中には、塩基が20個くらい並んだ小さなRNAがたくさんあって、それが遺伝子の働きを抑えたり、外来のウイルスをやっつけたり、細胞の中で増える反復配列のようなものを抑えたりしています.それは、2006年のノーベル賞が与えられたRNA干渉(RNAi)という現象です.大腸菌にも、それほど小さなRNAではありませんが、DNA二重鎖のうち、普通に読まれる鎖の反対側にある鎖から出てくるRNAが遺伝子発現を制御しているという現象がありますから、全く何もないところから、突然飛び出した仕組みではないと思います.それがシステムとしてでき上がったのが、ある程度の高等生物になってからだということです.
大島: その仕組みはどの辺からもっているのですか.例えば、浅草海苔はどうですか(笑).
河合: それは、知りません.
大島: イーストはどうでしょうか.
河合: イーストにも、RNAiに関与しているタンパク質と似たものはあると思うのですが、それがRNAiというシステムにはなっていないのではないかと思います.植物の場合には、葉っぱにウイルスが感染すると、そこでRNAが作られ、そのRNAが近くにある細胞に次々と伝わっていきますから、周りからウイルスを押さえ込むことができます.そういうことから考えると、小さなRNAは、多細胞生物になってから、コミュニケーションの手段として役立っているとも言えます.
三井: その小さなRNAをクスリとして使おうとしているのではありませんか.
河合: それにお金をどんどん投入している製薬会社があって、関連のベンチャーを次々と買収しているようですが、実際に薬になっているものはまだないと思います.非常に可能性はあると思いますが、すぐに薬になるのかどうか.
大島: 薬にするためのハードルはどこにありますか.安定性ですか.
河合: 現場でRNAを研究している人は絶対に薬になると言って頑張っていますが、もうすぐ社長になるという製薬会社の人に聞くと、駄目だろうと言います.製薬会社には、低分子化合物を加工して、錠剤にしたり、カプセルにしたり、注射剤にしたりするノウハウはたくさんもっていますが、RNAという新しい物質をそのような薬剤にするノウハウがないというのが一番のネックになっているそうです.経営者から見れば、現状では、そこにお金を投入するより、今もっているノウハウを使う道を選ぶ方が、同じ病気の薬の開発は早くなるのではないかと思います.将来的には、患部の細胞に直接RNAを入れて働かせるというシステムができれば、薬として役立つのではないでしょうか.
もう1つのネックは、小さなRNAというのは、核の外の細胞質の中でしか働かないということです.核の中で起こっている現象をコントロールすることができないということも、適応範囲を狭めているように思います.
B: 普通の遺伝子にはプロモータという読み始めの構造がありますが、その小さなRNAがDNAから転写されるのであれば、同じような読み出し構造があるということでしょうか.
河合: 他の遺伝子と同じように、プロモータがあって、そのRNAの遺伝子が続いています.ただ、小さなRNAは、そこから直接できるわけではありません.先ず、少し長いものができてから、必要なところだけ短く切り取られます.その切り取る仕組みが非常に大事で、それが高等生物にだけ備わっているのではないかと考えられているのです.外から入ってきたRNAウイルスの遺伝子も、同じシステムで短く切り取られ、それがウイルスのRNAを働かないようにしています.この2つの仕組みは良く似ていて、面白い働きをしています.
大島: 薬にする場合には、短いRNAをそのまま使えば良いわけですね.
河合: 短いRNAでも、ある程度は効果があると思いますが、切り取られる仕組みを利用しないと、RNAiのシステムには入らないのではないかと思います.
C: 高等生物のもつ小さなRNAの働く仕組みを、下等生物に導入することはできないのでしょうか.
河合: そのシステムは意外と複雑で、関係しているタンパク質も1個ではありませんし、幾つものステップがあります.それを全部入れるのは、なかなか大変かなと思いますが、入れることができれば、たぶん働くと思います.
三井: RNAは不安定だと言われていますが、河合さんの本には、RNAそのものは化学的にそれ程不安定ではなく、細胞の中にあるRNA分解酵素に対して不安定なのだと書いてあります.RNA分解酵素は、至る所にあって、皆さんの指先にもたくさんあると思いますが、そういうような状況の中で、小さいRNAを体の中に入れても、RNA分解酵素ですぐにやられてしまうのではありませんか.
河合: 冒頭で、大島先生はRNAに触っているとか触っていないとかいうお話がありましたけども、触ってはいけないのです(笑).RNAウイルスというのは、僕らにとっては敵ですから、それを防御するための仕組みとして、汗や涙、粘液などにRNAを分解する酵素がたくさん含まれています.もちろん、血液の中ではすぐに分解されてしまいます.RNAを薬にするときは、RNAの働きは保ったままで、化学的に少し違うものにすれば、分解され難いものは作ることができます.ただ、それには非常にコストがかかります.薬にするためには、お金の話を避けて通ることはできないと思います.
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