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第10回レポート
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第10回リーフレット

第10回 カフェ・デ・サイエンス


講師: 平田典子(ひらた・のりこ)
      森田茂之(もりた・しげゆき)
日時: 2006年9月29日



数学カフェ 「整数の不思議」 BACK NEXT

三井:再開します。今回のテーマは素数ではありませんが、 素数について聞きたい方がいらっしゃったので、その方に先ずお話を伺いたいと思います。

>>>素数がテーマのときに参加できなかったので、少し悔やんでいて、つい質問を投げてしまいました。 実は、素数には何か規則性があるんじゃないかと、心の中で密かに思っているんですけども、そういうものはないのでしょうか。

平田:あったら是非とも教えて頂きたい(笑)。全ての素数を一般的に表す公式は、現在、ありませんが、ある式に、 数字をどんどん代入していくと、それが全部素数になるというような式は知られています。ただ、それは全ての素数を表してはくれないんですね。 そういう式が存在するということは、論理的に証明することができます。

>>> すごく複雑な式ですか。

平田:今日は持ってきませんでしたけれど、紙一枚に入ります(「エーッ」という声)。そんなに怖い式じゃありません。

素数というのは、メチャメチャだから面白いということですけど、たとえば、100から100万までの間にある素数というふうに、限定した範囲で合計したり、 あるいは、分布状況がどうなっているかということを平均したりして考えると、急に性質が見えてくるのですね。それが不思議なところです。

1からXまでの間の素数の個数は、おおよそですが、式で表すことができます。Xの自然対数をlogXと書きますと、 ほぼ X/logX 個の素数が1からXまでの間に発生しているということが、1896年に証明されています。 「ほぼ」というのは、正確に申しますと、Xを無限に大きくするとき、「1からXまでの間の素数の個数」と「X/logX」の比が1に近づくということです。 素数は、単発のブツブツでランダムな数なのに、X/logXというのは、2から先は連続関数ですね。ブツブツどころか、滑らかなグラフが書けたりする。 そういう2つのものが関連するというのは、非常に不思議です。これは「素数定理」と申しまして、ドゥ・ラ・ヴァレ・プーサン (Charles Jean Gustave Nicolas de la Vallee Poussin: 1866-1962)(とアダマール(Jacques Salomon Hadamard, 1865-1963))が証明しました。 その後、(エルデシュ(Paul Erdos, 1913-1996)と)ゼルバーグ(Alte Selberg, 1917-)が、素数定理の証明の簡略化という仕事をしています。

それでは、お配りした素数表で、少しナゾナゾをしたいと思います。先程、規則性についてお尋ねがありましたけれど、規則性というと、 先ず、どんな間隔で並んでいるかなと思いますよね。素数の最初を見ると、2と3は間が1で、3と5は間が2。5と7も間が2で、その次の11との間は4ある。 素数全てが等間隔になりそうにはないということは、それだけでも分かります。3、5、7は、2という等間隔で3つ並んでいますね。 2という間隔で3つ並んでいるところは、3、5、7しかないことが知られていまして、それは簡単に検証できるんですが、他に、3つの素数が、 たとえば、間が6とか8ずつ、等間隔で並んでいるようなところを素数表の中から探してみて下さい。

* * * * * * *

約20分間、等間隔に並んでいる素数を探すことに熱中。見つかるたびに、平田さんが「すごい!」を連発して褒めて下さる。 見つかった3個組の素数たちは・・・・・

・ 47, 53, 59(6間隔)

・ 167, 173, 179(6間隔)

・ 1499, 1511, 1523(12間隔)

では、4個組は・・・・・

・ 1741, 1747, 1753, 1759(6間隔)

4個組は、かなり難しい。やや沈潜ムード。すると、「隣り合っていなくてもいいんですよ」と平田さん。そして・・・・・

・ 1481, 1487, 1493, 1499(6間隔)

5個組は・・・・・

・ 5, 17, 29, 41, 53(12間隔)

そして、ついに、6個組が見つかる。

・ 107, 137, 167, 197, 227, 257(30間隔)

* * * * * * *

三井:等間隔で並ぶ素数のグループを見つけるということと素数の性質について、どういうふうに考えたらよろしいんでしょう。

平田:そこに、フィールズ賞の話が出てくるんですね。数学には、つまらない理由でノーベル賞がないのですが、 その代わりに、フィールズ(John Charles Fields、1863-1932)というカナダの数学者がつくった賞があります。 4年毎に開かれる国際数学者会議で、大変難しい問題を解いたとか、いろいろなことに貢献する数学の理論を作ったというような人に与えられる、 数学の賞の中では、たぶん一番権威のある賞の一つです。

今年のフィールズ賞を受賞したテレンス・タオは、4人の受賞者のなかでは一番若くて、今年31歳です。オーストラリア生まれですが、 タオという名前から想像がつくように、中国系です。髪も黒く、坊主頭みたいな髪型をしていて、日本人に近い感じのお顔をされています。 オーストラリアの大学を出てから、アメリカに渡り、プリンストン大学で学位をとって、25歳で教授になっています。元々、整数論の専門家ではなくて、 今でもそうではないと、自分では言っていますけれど、実解析という、実数を変数とするような関数を扱う解析学が、一応、最初の専門です。 しかし、非常に幅広い数学を網羅しています。フィールズ賞以外にも、大きな賞から小さな賞まで全部合わせると、21個の賞をとっています。 アメリカだけではなくて、いろいろな国でも賞をとっている秀才ですね。なかなか楽しく、また教養もある人です。

その受賞作品が、今、皆さんがチャレンジして下さったナゾナゾで、素数の表の中に等間隔に並ぶ数です。3個組、4個組、5個組、 そして、最後に6個組が見つかりましたね。そのように等間隔で何個組まで見つけられるか、という問題を設定したときに、 「素数の中に、同じ間隔で並んでいる数の列、つまり、等差数列は、6個どころか、100個でも100万個でも、好きな長さだけ作れます」 ということをタオは証明しました(驚きの声!)。

先程、等間隔に並ぶ素数の3個組は結構沢山ありましたけれど、3個組が必ずあるというだけではなく、何個組であっても存在し、 しかもそれぞれが無限通りあるということまで証明しました。数列の言葉で言い換えると、「素数の中には、任意の項数の、有限項の等差数列が存在する。 さらに、項数を1つ指定すると、その項数の数列は無限通りある」となります。6個組を探すのは難しかったけれど、 もっと大きな表を持ってくれば、6個組はもっとあちこちにある。実際には無限通りある。だから、安心して、今のナゾナゾができるわけですね。 必ず答えがありますから。ただ、間隔の長さ、つまり、数列の言葉で言う「公差」を指定したら駄目なんですね。 6とか12という間隔に限定しないで、自由に間隔を選べるようにさえしておけば、そういうナゾナゾができて、答えは無限通りありますということです。

この証明は、タオと、タオより若い29歳のベン・グリーン(Ben Green)という人との共同研究ということになっています。原論文を持ってきましたが、 確率論のような式を使っていて、難しいですね。ページ数は、56ページくらいです。数学の論文は、他の科学系の論文に比べるとだいたい長いのですが、 これは、普通の長さに比べてもやや長いかなという位です。


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Last modified 2006.12.19 Copyright(c)2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.