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講師: 織田孝幸(おだ・たかゆき)、森田茂之(もりた・しげゆき)
日時: 2006年5月18日 |
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数学カフェ 「数と図形を結びつける」 |
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三井: 第7回のカフェ・デ・サイエンスを始めたいと思います。今回からは数学をテーマにします。
そこで、今日は、お二人の数学の専門家に来て頂いています。織田孝幸さんと森田茂之さんで、東京大学大学院数理科学研究科の教授でいらっしゃいます。
織田さんは整数論、森田さんはトポロジーがご専門です。今日のテーマは、「数と図形を結びつける」というもので、これは織田さんのご提案です。
なぜ、こういう題をお選びになったかは、後でお話して頂きます。
「数」とか「図形」とかは、身近にありすぎて、ほとんど意識しないで使っていることが多いですね。小学校のときは算数、中学と高校では数学を勉強します。
ところが、大学に入ってからの数学は、かなり違ったもののような気がしました。
そこで、大学で数学を研究していらっしゃる方の頭の中を覗いてみたくなったのですけれど、今日は、あの手この手で、お二方の頭の中を覗いてしまおうと思います。
織田さんが仰るには、数学というのは積み上げていくものだそうで、数学が嫌いだとか苦手だとか言う人は、基礎的なところで何か欠けていて、
先に進めないということもあるのではないかということです。そうすると、大学で数学を研究されている方は、その積み上げた上のほうにいらっしゃるわけですが、
今日は、真ん中辺りのところを話題にして頂けると有り難いと思います。
皆さんが、申し込みのときに書いて下さった疑問や質問を拝見しまして、今日はとても面白くなりそうだと思っているのですが、少し気になったことがあります。
それは、「数」と「数字」を混同しているのではないかと思われることです。これは明らかに違うものですので、先ず、少し説明して頂きます。
織田: 数学では、言葉の意味をきちんと決めておかないと話ができなくなります。
「数字」には、アラビアの算用数字や漢数字、ローマ数字などがありますが、どの書き方で書こうと、中身は同じですね。その中身が「数」です。
「数」には2種類あります。一つは、1番、2番、3番というように物事の順番を表すもので、これを「順序数」といいます。
それと、数量などの数値、「基数」です。
三井: 最初に、先生方に自己紹介をお願いしたかったのですが、先ず、お食事を召し上がってからにしたいと思います。
<食事>
三井: 今日は、「数と図形を結びつける」という題でお話を進めますが、
今回の呼びかけ文の後半に書かれていた「骨の計測」という部分に反応された方が多かったので、これは、間に休憩を挟んだ後に取り上げようと思います。
それでは、先ず、織田さんに、「数と図形を結びつける」というテーマを選ばれた理由も含めて、自己紹介をお願いしたいと思います。
織田: 簡単に自己紹介を致します。生まれたところは、富山県射水市。7世紀頃からある地名です。
子供の頃は、お坊さんになりたかったんですが、数学のほうが面白くなってしまいました。大学を出てからは、しばらく北海道大学におりましたが、
新潟大学へ移りまして、その後、東大にしばらくいて、次は京都大学に移って、また、東大に帰ってきました。
北から南へ移動してきたから、関西へ行った後、最後は沖縄あたりで一生を終えるつもりでいたんですが、途中から逆戻りして、また東京へ戻ってきてしまいました。
今日のテーマを選んだ理由ですが、先ず、図形と数の関係はきちんと考えなければいけないということがあります。
図形と数の関係では、座標のように、図形を数で表すということもありますし、逆に、数とか関数をグラフという図で表すこともあります。
そういうのが数学で基本的なところですが、その他に、例えば、洋服などに穴が開いていますね。
こういうものを、どういうふうに数学的に説明するかというのがあります。(「イリューム」2005年、第34号の表紙を示して)
これが二人乗りの浮き袋だということは、目で見ると分かりますが、それだけでは客観的なものとは言えないんですね。
だから、誰にでも分かるように、数学を使うわけです。
その一つとして、骨の形というものを考えようというわけです。江東区にある日本科学未来館で、脳の展示会をやっていて、先日、
南方熊楠の脳なんてのを見て来たんですが、例えば、ネアンデルタール人と新人類のクロマニヨン人の違いは、見たら分かります。
何でもそうですけど、最初は分からなくても、だんだん目利きになるんです。博物館に飾ってある土器が何年頃のものかというのは、
私でも分かりますが、万人に分かるようには説明できません。そこで、何か数値的なデータを引っ張り出すわけです。骨の場合には幅とか長さとかを測ります。
どこを測るかというのが重要なんですが、そういうデータをたくさんとって座標にします。例えば、頭の骨の長さをY軸にして、幅をX軸にすると、
ネアンデルタール人とクロマニヨン人では座標が異なる。これは、統計学で多変量解析と言いますが、そういう方法とは違って、
私は、もうちょっと夢みたいなことを考えていて、骨みたいなものにも数学が使えないかと思っているのです。
実は、昨日、前回までのカフェ・デ・サイエンスで講師をされていた堀田先生とお会いしましたので、そういう骨の話をしましたら、
まだそんなことは、やられていないけど、ネズミの骨を問題にしている人がいるということでした。
三井: 今度は、森田さんにお願いしたいんですが、織田さんが、
なぜ、森田さんを今日のゲストに選ばれたかということも含めて、自己紹介をして頂ければと思います。
森田: なぜ私を選んだかということですが、その答えは、私には分かりません(笑)。
部屋でコーヒーを飲んでいたら、織田さんが入ってきて、こういう財団がサイエンスを広めようとしている。
そこに2回ほど行ったことがあって、非常に面白かった。今度、6回ほどシリーズでやることになったので、
ちょっと協力してくれませんかということで、よく分からなかったんですけども、付き合いは非常に長いので、できることならばと、そのままズルズル。
そして、アッという間に今日になってしまったのですが、どうしたものかと戸惑っています。
一つだけ自己紹介をします。数学は、代数学、幾何学、解析学、大きく分けるとその三つになりますが、私は、2番目の幾何学を専門にしています。
先程、トポロジーという言葉が出ましたけれど、大雑把に言いますと、円とか三角形、四角形、五角形は、それぞれ異なった図形ですが、
トポロジーでは、円でも三角形でも四角形でも八角形でも1万角形でも、全部同じものとして扱っています。ですから、意地悪な人に言わせると、
いい加減な尺度だそうですが、非常に面白い学問です。なぜ面白いかと言うと、三角形と四角形を区別するときは、長さと角度を念頭に入れるわけですが、
先程の写真にあった二人乗りの浮き輪の場合には、長さが飛び出ていますけれど、そういう長さを丸めても、二人乗りということは変わりませんよね。
つまり、連続的に変形しているところがあり、2という数は変わらない。それは固有の数で、「不変量」と言いますが、
連続的に数を丸めてもよいという立場になると、3も4もないわけです。大雑把な学問ですが、絶対変わらないというようなものがある。
それに関わって三十余年になります。
数学の講義や講演では、黒板やOHPを使って、聞いてもらう方に背中を向けてやります。今日のようなところは初めてなので、多少戸惑っていますが、
数学の面白さを多少でもお伝えできればいいなと思って、昨夜、家族の前で予行練習したんですが、全然分からないと言われました(笑)。
三井: 黒板のようなものを使わないで、数学の話をするというのは無茶じゃないかと仰る方もいたんですが、
今、講師の話をお聞きになって、皆さんは大丈夫そうですか。では、どんどんいきましょう。こういうお二人ですから、何でも答えて頂けると思います。
>> 初めて参加させて頂きます。数学は、中学1年生で既に挫折しまして、今はNPOでバイトをしている普通の主婦で、
数学は全然分かりませんが、「数字を丸める」という表現が面白いと思います。
森田: 「数字を丸める」ということに関して言えば、「1」という数字は、普通、縦に引っ張ってきますが、
それを少し丸めて、先を横に引っ張ると「2」になりますね。そして、「1」を両方から丸めると「3」になります。トポロジーの立場からすると、
「1」も「2」も「3」も同じ数字で、区別ができないんですね。つぎは4ですが、ここでは活字の4ではなく、上の部分を離して書いた「 」を考えます。
すると、トポロジーにはいろいろな立場があるから違うこともありますが、一番いい加減な立場ですと、これも同じです。
5も伸ばすと1になりますから同じですが、6になると、初めて違ってきます。円ができる。輪は縮めて小さくすることはできますけれども、
輪のままです。ハサミで切れば簡単に伸ばすことはできますが、トポロジーではハサミで切ることは許可されていない。トポロジーは、
非常にいい加減なんですけど、先程の浮き輪のように、二人乗りの2とか三人乗りの3という数は、実際に定義されている。
ニュートン力学やユークリッド幾何学では、宇宙はXYZ空間がどこまでも広がっていって無限だということでやっていますけども、
そういうことはあり得ないわけで、有限だと思います。しかし、宇宙空間が無限か有限かということは、未来永劫決まらないことですね。
物理学者からみれば、決まるというかもしれませんが。
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