ヤング武田賞2013 受賞者
萬代新悟 (デルフト工科大学、オランダ)
「新しい構造の半導体単光子検出器の開発」
光や粒子の微弱エネルギーを信号として捉える半導体単光子検出器はPETなどの医療診断装置や各種分光分析、顕微鏡などに使われている。しかしそれぞれの装置専用に作られているので、コスト高にならざるを得ない。
応募者は幅広い波長領域の光を検出できる新規構造の高性能素子を考案し、更に汎用性を持たせて低価格を実現する技術を提案した。この提案が実現すれば医療現場では低放射線被爆量の下で、少量造影剤での診断が可能になり、多くの患者が低価格で高度医療の恩恵を受けられる。また磁場の影響が少ないためPETとMRIを組み合わせた新装置への可能性も拡がる。バイオ研究では細胞の動的な観察が可能になり、がん研究にも貢献する。
応募者の研究成果に立脚した新規高性能デバイスの事業化提案であり、単に医療分野だけではなく、人工衛星搭載カメラや高エネルギー検出器など多分野に適用可能である。応募者は有力なビジネスパートナーを自ら探す努力を重ねており、実用化の可能性も高い。よって最優秀賞に値する。
Ajit Narayanan (インベンション・ラボ社、インド)
「言語障害児のための人工会話器Avazの開発」
世界中には脳神経麻痺、自閉症、ダウン症等の2500万人の言語障害を持つ子供がいるが、他人とコミュニケーションが困難で、成長しても社会参加することができない。このような子供たちのために、補助代替コミュニケーション機器(AAC)があるが、値段が5,000~10,000ドルと高く、先進国でも十分に使われていない。本事業は、スマートフォンとタブレット機能を応用して、言語障害を持つ子供が他人とコミュニケーションできる携帯可能なAAC機器を200ドルという安価な値段で開発したものである。本装置の画像とタッチ機能を使うことにより、操作者が話すことなく、相手に意志を伝えることができる。
応募者は、自らスタートアップ企業インベンション・ラボ社(Invention Labs PVT LTD)を立ち上げ、言語障害児を教育している学校からの依頼で低価格AAC装置の開発に取り組み、2010年にAvazを完成させた。本体だけでなく、プログラムもウエブ上から低価格で購入することができ、世界中で普及が拡大している。応募者は、Avazの開発により言語障害児の社会参加に大きな貢献をすることが期待されているので、選考委員会特別賞とした。
Abdul Matin Sheikh (NGO Bac Bon、バングラディッシュ)
「バングラデシュにおける遠隔教育(e:Education)」
バングラデシュにおける教育は都市部と地方との間で格差があり、地方の若者は経済的な理由で、都市部で行われている大学受験のための準備学習コースに参加できず、大学進学は困難な状況にあった。この状況を改善するため、大学受験に必要な教材を安価に提供することが必要と考え、現地の教授のサポートを得て 、7教科100時間以上のDVDを製作した遠隔教育システム(e:Education)を開発し、1000人を越える学生に安価に提供した。e:Educationを受けた地方の若者はバングラデシュのトップクラスの大学に進学することができるようになった。
地方の若者が、経済的な理由で大学に進学できない状況を認識し、短期間にe:Education を開発、安価に提供し、多くの地方の若者が大学に進学できた。またNGO Bac Bonを設立し、支援するボランティアを組織化し、地方の若者の進学意欲を向上させ、若者の将来に希望を与えたことを評価し優秀賞とした。
Jit Kang Lim (マレーシア科学大学、マレーシア)
「磁場を利用した微細藻類除去」
商業用養魚池でクロレラのような微小藻類が大量発生すると水中の溶存酸素を消費し、魚の窒息死や周辺河川の水質汚染の原因になる。応募者はこの微小藻類にバインダーを介して磁性材料を付着させ、緩い勾配の磁場で吸引して集める新しい技術を開発した。この方法は従来の濾過法や遠心分離法などに比較して機器の初期投資も少なく、凝集沈殿法より短時間で分離できる。既に地元の養魚業者とパートナーを組みオンサイト実験も行った。この磁性材料は繰り返し再利用可能なことも確認している。現在効率を上げるため磁性材料とバインダー材料の選定を進めている。
応募者は提案した方法の理論的根拠も論文発表しており、コスト計算もした上で、磁性材料による環境問題を起こさない方策も検討している。実用化すれば応募者の地域の養魚池に携わる1000家族以上のみならず、周辺河川沿岸の住民約50000人の水質汚染も解決できる。地域への貢献度が大であり、優秀賞を授与して事業化を期待したい。
Nguyen Duy Vinh (ハノイ科学技術大学、ベトナム)
「「ベトナムにおけるオートバイ用両用燃料システム開発」
ベトナムではエネルギー需要が急増し、化石燃料をバイオマスのような再生可能エネルギーで補完する政策が取られている。本提案は、その国策に沿ったもので、二つの専用フロート・チェンバーを切り替えることにより、ガソリンでも100%エタノールでも働くオートバイ用燃料供給系を開発したものである。この開発により、エンジン本体を変えることなく、既存のオートバイを100%エタノールで走行させることができる。運転テストでは、燃費も排気ガス組成もガソリン運転時と同程度であり、100%エタノールによる運転でも問題ないことが示された。
応募者は、ハノイ工科大学の大学院生で内燃機関について研究をしている。本提案は、その知識を利用して100%エタノールでも運転可能な燃料供給系を開発し、オートバイに適用したものである。応募者は、本機の製造・販売を計画中であり、事業化されればベトナムに限らず、オートバイを多用しているアジアの国々でのバイオマス燃料の普及や温室効果ガスの増加抑制に貢献が見込まれることから、優秀賞として表彰することにした。
竹井悠人 (東京大学、日本)
「スケジューリング自動調整ソフト、タイムメーカーの開発」
“WE make the time”と言う起業理念の下でスマートフォンのカレンダーと密接に動作するソフトウェアを開発し、人々の生活を変えることを提案した。具体的には、スマートフォンを使ったスケジューリングシステムとして、イベント自動設定システムと緊急の用件が入った時に前後の予約を調整してその用件を入れるシステムを開発する。
応募者ともう1人が共同創業者となり、4人の開発チームを作っている。早期テストバージョンを開発し、情報処理推進機構の2013年度未踏プロジェクトに採択された。東京大学産学連携本部による事業化の指導のもとビジネスプランを作成している。
スケジューリングを自動化する要求は大きく、製品も開発されているが、スケジューリングのやり方はユーザによって千差万別であり、多様な要求に応える製品を開発し事業化することは大きな挑戦である。顧客の要求を聞き、体系的なやり方でタイミング良くそれに応えていけば成功する可能性がある。優秀賞に選考し将来を期待したい。