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第32回レポート
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第32回リーフレット

第32回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  池内了(いけうち・さとる)
日時:  2010年12月20日



世界はパラドックス「生物のパラドックス」 BACK

E: アスピリンは7割の人に効くということで、これが一番効く薬だということです.ただ、アスピリンも使い方次第で、ライ症候群になったりしますから、危険な面もあります.

池内: アスピリンは昔からありますからね.

E: 昔からある漢方薬も副作用がないと言われたりしますが、漢方薬でカンジダ肺炎になって亡くなる方もたくさんおられますから、絶対に安全だということはありませんね.

三井: そうですね.漢方薬は成分が複雑ですから、何が起こるかわからないというところはあるかもしれません.

E: それだけに効くわけです.

三井: 個人個人で、どの成分がどういうふうに効いたかは分からないけれど、いろいろな人に効くという現象が起こるということですね.

E: 漢方薬は駄目で、西洋医薬しか効かないというのも間違いで、漢方薬でも効きます.だから、人を殺すこともあります.

池内: そうすると、毒と薬のパラドックスではなくて、「薬のパラドックス」と言わなければいけませんね.

三井: そうですね.毒と薬が対立しているのは分かっていますから.

D: 無農薬で育ったリンゴは、自ら毒を作り出して虫などを寄せ付けないようにしているそうですが、そういうことはよく起こることなのですか.

池内: 植物は全て、害虫や細菌などに対して、何らかの抵抗性をもっているわけです.生野菜のサラダを食べるのだって、危険だと言って食べない人がいますよ.

三井: バナナも原種というのは、とてもまずいそうです.栽培種になると美味しくはなりますけれど、病虫害に弱い.これもパラドックスですね.

池内: そうでしょうね.無農薬のリンゴは自分で身を守ろうとしているだけですが、それがもろに作用してしまうということでしょう.

三井: 無農薬にした場合には、毒素を作るリンゴでないと生き残れないということですね.

池内: そうですね.それは、パラドックスではなくて、生命体の論理です.

三井: そうすると、他のことも全て生命体の論理で片付いてしまいそうな気がします.

池内: 生命体の論理が、人間との関係で、パラドキシカルな問題を生じるということだと思います.

K: 無農薬のリンゴに毒素ができるという話は、今初めて聞きました.無農薬でリンゴを育てることができたのは、自然の中で、益虫がうまく働いて害虫を食べ、それで生物の状態が良くなったからだと思っていました.リンゴ自身が毒素を作るというような話が流布すると、無農薬のほうが悪いという話になるのではないかと心配になります.

E: リンゴが出している毒素というのは、たぶんサポニン系の化合物だと思いますが、それが虫に対する毒になるだけで、人間に悪い毒素は作っていないと思います.サポニンを含む代表的な植物は朝鮮人参ですが、これは正に薬で、少し苦い味がするくらいです.

C: そもそも、我々が食べている植物は野生ではありません.全て、人間が長い時間をかけて改良に改良を重ね、毒がないように栽培してきたものです.従って、それを育てるためには、管理された環境が必要です.無農薬とは言っても、管理された環境の中での無農薬ですから、それ程の毒素は作らないと思います.ただし、無農薬イコール自然ではありません.そこを間違えないようにしなければいけないと思います.

L: パラドックスというのは、対立した考え方を持ち出すことだと思いますが、学問の世界では、先生と学生の意見が対立したときは、学生のほうが間違っているということになりますし、対立した考えを持ち出すことは、先生に対して失礼だと思われます(笑).実際のアカデミックな世界ではどうなのでしょうか.

池内: 科学者は、一般に、偉い先生の弟子であるからといって、先生の言うとおりにしようとは思っていません.少なくとも、科学者として出発した時点では、皆、先生を乗り越えて、ノーベル賞を取りたいと思っています.そのためには、偉い先生の言う事だってひっくり返してやりたいという意欲はあるのですが、だんだんと自分の限界が見えて来ると、全然違う分野の仕事をするというのはかなりあります.学者の家系で、親父と全く同じ分野へ行く子供もいますけれど、むしろ親父とは全然違う分野に行くほうが、良い成績が残せるのではないかと思っています.やはり、人間ですから、一種の権威主義とか圧力を感じながら、普通は、それを乗り越えたいと思っているのです.

三井: では、今日はこれでお終いにします.ありがとうございました.(拍手)


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Last modified 2011.01.19 Copyright©2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.