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講師: |
池内了(いけうち・さとる) |
日時: |
2010年10月25日 |
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世界はパラドックス「物理のパラドックス」 |
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三井: そうすると、その混じり合っているものが、そもそもどこから来たのかという話になります.
池内: それは、ゼロの状態から出てくるのです.
三井: そのゼロというのは、実は、何も無いのではなくて、プラスのものとマイナスのものが同じだけあったからゼロになっているわけですね.
池内: ゼロというのは、プラスとマイナスの重ね合わせ状態だと考えることもできるわけですから、そのときに、外からの働きかけを一切必要としません.その意味で、何らかのものが始めからあったとは考えないというわけです.我々が働きかけをしないでも取り出すことができるのです.
B: 先生は5と-5でお話になりましたけども、例えば、ある所に9が100個並んでいて、別の所に9が-100個並んでいるとしても、全体としてはゼロですね.
E: 科学哲学の問題に踏み込もうとしているのではないかなという気がします.
池内: そのきらいはありますね.物理学者は、外から何も与えないで、AとマイナスAというのが自然に出て来るというプロセスを利用しているだけなのです.
三井: 普通の人はそれを実感できません.
池内: それは、この概念が、そんなに一般的に馴染みのある概念ではないということでしょうね.
三井: では、なぜ、物理学者が馴染みのない概念を導き出すことができるのでしょうか.
池内: それは、異常な、全く無いところからモノを作り出すという、異常なことを考え出すわけですから、馴染みのある概念はそう簡単には見つからないわけです.とにかく、考えざるを得ないのですよ.
三井: 普通に考えられることだったら、既に分かっているということですね.
F: 5と-5が重なっているというときは、時間も重なっていると考えていいのでしょうか.
池内: 時間については、重なっているのか、ホーキング流の虚数の時間で時間軸が曲がっているのか、それは分かりません.物質の場合は、AとマイナスAが出てくるというのはごまかしのようなものですが、時間は一方的に出ますから、そういうわけにはいかないわけです.
三井: とうとう、「ごまかし」と仰いましたね.(笑)
『時間はどこで生まれるのか』(集英社新書)という本があるということは知っていたのですが、そこまで読む暇がありませんでした.時間は難しいですが、先程、光速より速く動くことはできないという話が出ましたので、次はタイムトラベルによるパラドックスについて考えてみましょう.
このパラドックスはいろいろなところに書いてあるので、皆さんもご存知だと思いますが、ある人間が過去の世界にトラベルして、両親を結婚させないようにする.そうすると、自分は生まれないはずなのに、それを確かめに過去へ行った自分が存在する.これはパラドックスであると.このポイントは何でしょうか.
池内: 光より速く運動することができれば、過去へ戻ることができるということです.
三井: だから、過去の世界へ戻って、両親を結婚しないようにするということはできないわけですね.
池内: できませんね.物理学の基本は因果律です.ある種の現象があれば、必ずその原因があります.物理学は、原因が先で結果が後であるという法則を認めているわけです.そうしないと、物理学は成り立ちません.
三井: 『パラドックスの悪魔』という本にもありましたけれど、それが成り立つとしたら、野球のボールが飛んで来てガラス窓を破った時に、先にガラス窓が破れて、その後にボールが飛んで来るということが起こり得ることになる.
池内: 因果律というのは金科玉条なのです.非常にミクロなものとかブラックホールのような無茶苦茶な極限状態になれば、過去へ行けるなどという議論もありますが、それも非常にミクロな物体だけであって、我々のようなスケールでは過去へは行くことができないと、普通は考えます.
三井: ついでに、もう一つ言いますと、多世界解釈という、宇宙は一つではなくてたくさんあるということを主張する説があります.この説を取れば、もしタイムマシンがあって過去に行けたとしても、別の宇宙に行っていたのだから、親を結婚させないようにはできていないから、自分は今存在しているという説明をするのだそうです.これは、多世界解釈が、たまたまパラドックスの説明に使われているだけなのでしょうか.
池内: 多世界解釈というのは、量子論の世界で言われていることですが、ある状態が選ばれたら、選ばれない状態が必ずあり、それは確率で存在するわけです.つまり、可能性が10あるような確率であれば、10の可能性の世界があって、そのうちの一つの世界に今我々が生きているということになります.非常に多数の可能性がある中から、なぜ一つが選ばれるかということを、我々は基本的に決定できないのです.確率の大きいものしかできないと思っているのですが、確率が小さくても、それはある種の割合であるわけです.そこで、世界がたくさんに分岐しているというふうに考えるということです.その考え方でも、過去は消せないのではないかな.
G: 村上春樹の小説、『1Q84』(新潮社)を読んで、多世界解釈的だと思いました.
三井: 別の宇宙が存在していることは分かるのでしょうか.
池内: わかりません.多世界解釈というのは、ある確率に従って、世界がどんどん分岐していくということを言っているだけであって、分岐した別の世界は認識できないのです.
三井: 別の宇宙であるということは、その宇宙との間で因果関係が切れているということですね.もし、因果関係があれば、それは同じ宇宙だということになってしまいますから.
池内: 結果として結びついていると、同じ宇宙だということです.
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