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講師: |
大島泰郎(おおしま・たいろう) |
ゲスト講師: |
林利彦(はやし・としひこ) |
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福井寛(ふくい・ひろし) |
日時: |
2010年3月15日 |
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異端児のみる生命「粧う (よそおう)」 |
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三井: 後半を始めます.最初に、大島さんの質問に対するお答をお願いします.
林: 肉にはスジと呼ばれる硬いところがありますが、あれはコラーゲンです.スジは硬いだけに、そう簡単に分解されません.胃の中に入れば、酸性になっていてペプシンという酵素が働くので、コラーゲンも溶けるようになります.胃が丈夫な人は、コラーゲンが溶けて栄養になるのですが、完全に溶かすには相当に胃が丈夫でなければいけません(笑).
ソーセージは、ペプシンと似た作用をもつ酵素でばらばらにしたコラーゲンから作ります.日本皮革という会社が、初めてコラーゲンを溶かすことに成功し、その特許は、世界中のソーセージの製造に使われています.
実験では、ペプシン処理に何日もかかります.ペプシンで消化されたものは、十二指腸にあるトリプシンという酵素でより消化されやすくなりますが、どうしても溶けないものが残ってしまいます.しかし、そういう細かい繊維の働き・吸収もおそらくあるはずですので、スジ肉は食べたほうが良いかもしれないと思います(笑).コラーゲンを贔屓にしているので、ポジティブに言う傾向があります.(笑)
福井: 化粧品には洗浄、スキンケア、メーキャップ用があって、それぞれに成分が違います.例えば、メーキャップのファウンデーションに使用される粉は雲母などの粘土鉱物です.雲母は絶縁体に使われていたこともありますが、薄く剥がれる層状の構造をしています.雲母の中には、乾燥した状態で粉砕するより、水のある状態で粉砕する方が薄い板状になり、肌に薄く乗っていきます.それがファウンデーションのベースになります.雲母にもいろいろな種類があって、産地によっては大きな塊で出て来る雲母もありますし、絹雲母のように一層一層の小さい形で産出される雲母もあります.それぞれ特有な使用感がありますので、世界各地から集めた雲母を使用感によって使い分けています.
色を出すのに、酸化鉄のような無機系の色素や、また有機系の色素なども使いますが、今は、先程お話した干渉色のように、物理的な光を出すものを利用するほうが自然だということで、膜厚を少しずつ変えて色を出す干渉色タイプのものを用いてファウンデーションを作っています.
サンスクリーンには二酸化チタンが入っています.二酸化チタンは半導体で、紫外線を吸収します.その性質を利用して紫外線をカットするのに使われますが、色を出すためにも使われます.
それから、遺伝子組換え技術を使った素材は、基本的には、化粧品に使われていないと思います.化粧品業界というのは非常に保守的ですから、絶対に使わないと思います(笑).また、動物由来の素材も全く使われていません.新しいものをあまり使いたがらないのです.
三井: 新しいものを使わないということですが、福井さんがお書きになった本に、高圧ホモジナイザーを使ってナノレベルの粒子を作ると書いてあります.粒子がナノレベルになると、吸収されて何か悪さをするのではないかと恐れている人もいると思います.
福井: 高圧ホモジナイザーでナノ粒子にするのは、乳化粒子のことで、乳化粒子を小さくすると透明性が高くなります.クリームと同じ処方でも、粒子形を小さくすると、透明になってシャバシャバになったりします.同じ原料を使って、異なる製造法で触感を変えていくわけです.
ナノ粒子が吸収されるというデータを出しているところもありますが、我々がやった限りでは、ほとんど吸収されませんでした.皮膚から吸収されることを経皮吸収と言いますが、皮膚の表面はバリア機能が非常に良く発達しています.一番上には角層があり、そこに角層細胞があって、その間に液晶がきれいに並んでいます.この液晶を壊さないと中に入れることは難しいと思います.
大島: アスベストの場合は、吸い込まれて肺に悪影響を及ぼしましたが、同じように、お化粧のナノ粒子を吸い込むと、女性だけでなく男性も被害者になりますね(笑).
福井: アスベストはミクロン・オーダーの粉塵ですが、その形が針状であるからいけないと言われています.針状の粘土鉱物で面白い性質のものがあっても、形状的にまずいので、我々は使っていません.
ナノ粒子はすぐに凝集しますから、ナノ粒子のままで個別に分散して存在することはほとんどありません.産業界では、ナノ粒子を一次分散(ナノ粒子のままで分散)させるために、大量の界面活性剤を入れて、どうにか20ナノメータくらいの大きさになるようにしています.完全に分散させようとすると、存在する全てのナノ粒子の表面積に対応した非常に多くの界面活性剤が必要になります.化粧品の場合には、一次分散するほど多くの界面活性剤は使われていませんし、ほとんど二次凝集(ナノ粒子が集まって集合体を作ること)してしまいますので、ナノというサイズは実際的な問題にはなりません.我々にとっては、むしろ、ナノよりもう少し大きなレベルの粒子をいかに分散させるかという問題のほうが重要なのですが、それもなかなか難しいというのが現状です.
大島: 安心しました.美しさのためには命をも恐れないという女性の心意気に賭けているのかと思いました(笑).
三井: 粒子が小さくなると透明性が増すというのは、反射しなくなるということですか.
福井: 約400?700 nmの光の波長によって色が異なるわけですが、それらの波長よりも小さい100 nmの大きさの粒子は透明に見えます.それから、屈折率によっても透明性は変わります.油と粉の屈折率が同じ場合は、粒子が大きくても透明になります.白く濁るときは、粒子と液体の屈折率が違っていて、しかもその粒子が光の波長より大きい場合だということになります.
三井: 透明で見えなくなってしまうと、メーキャップにはなりませんね.
福井: 透明にする研究の対象はサンスクリーンです.サンスクリーンを塗ると白く見えるからということで始めたのですが、透明になってしまうと、塗ったところと塗っていないところの区別がつかないというクレームがあって(笑)、今はそれほど透明である必要はないかもしれません.
A: 世の中には、塗れば若返るという化粧品が非常に多いと思いますが、皮膚に強固なバリアがあるということは、塗ったものは全く効果がないのですか(笑).
福井: 塗って本当に若返るものがあったら、是非教えて頂きたい(笑).化粧品会社に居た私がこんなことを言うのも何ですが、塗ってすぐに若くなるようなものは無いと思っています.私も3、4年前から、毎晩保湿剤を塗っています.50歳を過ぎてから、冬になると足の裏にひび割れができるようになりましたので、そのうちに顔にも来るだろうと思って、それから毎日やっています.塗った翌日に効果感があるようなものを出してくれと言われたこともありますが、事実上はなかなか難しいと思います.やはり、2、3ヶ月は続けて塗らないと効果がでないのではないでしょうか.
大島: この頃、病院に出張して病人にお化粧をしてあげる人がいるそうです.長期間入院しているような病気の女の人にお化粧をしてあげると、生きる力が出るというような精神的な効果があると考えられています.お化粧には、治療効果が無くても、QOL(Quality of Life)に資するものがあるということです.
三井: お化粧と生命に関するご質問がありましたが、今の大島さんのお話が一つの答えではないかと思います.
B: 先日、電車の中で、若い女性がコラーゲンというものをチューチューと飲んでいました.お行儀が悪いと思ったのですが、同時に、コラーゲンばかりをたくさん摂ることは体に悪いのではないかと心配になりました.林先生の見解はいかがでしょうか.
林: 一般に、自分がやらないような他人の行動を見ると、羨ましいと思うと同時に、あれで大丈夫かなと反応します.電車の中でお化粧をする人は、目の前に居る人に見てもらいたいわけではないと思いますが、流行のことを良いと思ってやっている.若い人がコラーゲンを飲んでいると、それだけで人の目を惹き付けて、それが良いものかもしれないと考える人が出てくる.そうして、現在、たくさんの人がコラーゲンを食べたり飲んだりするようになりました.
富士フィルムがコラーゲンのドリンク剤を出していますが、実は、この会社は昔からゼラチンを扱っているのです.写真フィルムにはゼラチン、すなわちコラーゲンが塗られていて、きれいな写真を撮ることができるのはコラーゲンのおかげです.
タンパク質は1日に70?80グラムくらい摂れば良いと言われていますが、売られている30 mlのドリンク剤には10グラムものコラーゲンが入っています.しかし、それだけ飲んでもあまり害はないと思います.魚の煮凝りのようなものが大好きな人は、そのくらいの量は摂っている可能性がありますから.
随分前の話ですが、痩せるためにゼラチンだけ食べるという食事療法がありました.私がアメリカにあるコラーゲン分野の研究室に行ったとき、そういうことをセミナーで延々と喋っている人がいました.それに科学的根拠はありませんが、とにかく、害は出ていません.
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