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第28回レポート
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第28回リーフレット

第28回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  大島泰郎(おおしま・たいろう)
ゲスト講師:  林利彦(はやし・としひこ)
  福井寛(ふくい・ひろし)
日時:  2010年3月15日



異端児のみる生命「粧う (よそおう)」 BACK NEXT

シャボン玉は、干渉色といって、虹色に見えます.シャボン玉の膜の厚みが変わると色が変わるからです.その原理を使ったものに、パール剤というものがあります.雲母に二酸化チタンという少し屈折率の高いものを入れておくと、シャボン玉と同じ原理で色が出ます.このパール剤の特徴は、白い紙に塗れば白いままで、黒い紙に塗ると赤、青、黄などの色に見えるところです(パール剤を塗布した実物を紹介).

昔は、痣を肌色に塗って隠していましたが、それでは、白いところも黒いところも茶色になってしまいます.しかも、痣に合わせて塗ると、そこだけ壁塗りしたように質感が変わります.しかし、シャボン玉の原理を使えば、白いところはそのままで、痣のところだけ色が変わるのですから、痣のところが肌色に見えるようにすればよいわけです.最初は痣用に開発を進めていたのですが、痣の無い人でもところどころにシミなどがありますから、これを使えば非常にきれいになるのではないかということになりました.より自然なツヤに見せるために、粉の表面に小さなブツブツを付けるというようなこともやりました.

それから、人の顔を小さく見せようということもやりました.ストッキングでも、黒いストッキングを履くと、輪郭部分が黒くて内側が白っぽいので、足が細く見えます.昔はシャドウを塗っていたのですが、正面からは良く見えても、横から見るとおかしいので、正面から見たときは白いけど、角度が変わると黒く見えるような板状の粉末を開発しました.他にも、皺を隠すためにどういうふうに乱反射をさせるかという研究もしました.

会社では、ずっと色の世界にいたのですが、突然、香料部門に移動することになりました.多くの調香師がいる所に、匂いを嗅ぐと鼻血が出るような人間が行ったものですから(笑)、いろいろな苦労をしました.そこでは、香りを嗅がせて脳波を測定し、鎮静や高揚を引き起こすような素材について調べていました.香りは、最初に脳の辺縁系に届きますから、感情とストレートに繋がり、非常に面白い感覚だと思います.同じ写真を見せても、その時に嗅がせた香りの種類によって、写真の人が好きになったり嫌いになったりしますし、香りによって、暖かく感じたり冷たく感じたり、時間を遅く感じたり早く感じたりすることもあります.今日のテーマである「粧い」には、視覚だけでなく嗅覚を使ったものもあるのではないかと思います.

大島: 今晩は.大島でございます.先程三井さんが、今回のテーマを思い付いた切掛けを話すようにと仰いましたが、仰らなくても、たぶん喋ると思います(笑).

私の一番の専門は、日本の温泉から採れる高い温度で生きている好熱菌です.3?4ヶ月前に、突然、シュウウエムラ(shu uemura)という会社から電話がかかってきて、好熱菌の細胞成分を入れた新しい化粧品が出ると聞かされました.私は、この会社の名前を知りませんでしたし、何をしている会社かも分かっていませんから、始めはインチキな話ではないかと用心していたのですが、研究所にいる女性が、とても有名な会社だと言うものですから、それから急に態度が変わって(笑)、宣伝に協力しています.宣伝とは言っても、一般ユーザー向けではなくて、問屋さんのようなお店の人を対象としたPRビデオに出てくれということで、わざわざ最初の好熱菌を採った伊豆の温泉まで行って、その菌を採ることもやりました.そうこうしているうちに、三井さんから、次のテーマを何にするかと聞かれたものですから、そのとき頭にあった「化粧」にしたということです.

実際の技術の開発は外国で行われているようですし、使われている好熱菌も日本の温泉からのものではなく、アメリカで採った菌株が使われているようです.但し、生物の種としては、私が伊豆の温泉から採ったものが最初ですから、それが好熱菌の標準品種になっていて、化粧品には同種のものが使われているわけです.

好熱菌に限らず、バクテリアの中には、細胞膜や細胞壁の外側に莢膜と呼ばれる膜をもっているのがいます.それは、生きていくのに必要なものですが、簡単に剥がれてしまうので、どんどん作られています.この膜の残骸が、菌を長く培養していると、培養液の中に溜まってきます.これはベトベトな性質をもった高分子の化合物ですから、化粧品に入れると保水性が良くなるということのようです.実際にどういう使い方をされているのか、細かいことを教えてくれないので、これは私の想像です.因みに、私の好熱菌はもう何十年も前に公開してあるものですから、化粧品に使われたとは言っても、私の所には一銭も入ってきません.(笑)

化粧のことは何も知りませんので、今、福井さんのお話を伺って、すごい世界だなと思いました.ただし、私も少しだけ化粧に関係していたことがあります.私が大学院生の時に、東京医科歯科大学の研究室に居たことがあって、組織内で作られたコラーゲンが硬く丈夫になるときの反応(架橋)を研究していました.生まれたばかりの赤ちゃんの皮膚は柔らかいのですが、それがだんだん硬く丈夫になります.しかし、それは同時に老化することでもあるわけです.

それから、今日は、擬態に関する話題もあると思うのですが、擬態についての研究はあまり進んでいません.実は、テーマを考えている頃に、動物が変色する新しいメカニズムに関する論文を見ました.我々がモノを見るときは、光が目の中に入ってきて、特別の細胞が明暗や色などの光の信号を受け取って処理しているのですが、それとは別に、変色用の視細胞があるという内容でした.それを読んで、お化粧の世界にも面白いサイエンスがあると思いました.

そのとき、もう1つ別なことも考えていました.それは生物社会学といったものです.人間はもちろん社会性をもっていますし、アリやハチも社会性をもった生き物として有名です.皆さんは、人間の男女間の差は明確にあると思っているでしょうが、生物学的にはものすごく少ないのです.社会性のあるアリやハチは、社会での役割に応じて、体の大きさや形が全く違ったりしますから、誰でもそれと分かります.ところが、人間はものすごく似ていますから、歌舞伎や宝塚、更には、ゲイバーまであるわけで(笑)、騙そうと思えば騙せる程度の差しかありません.社会を構成する上で、化粧には社会的に区別するという役割もあると思ったわけです.少なくとも過去においては、社会的な自分の役割に相応しい服装をしなければいけませんでした.社長がノーネクタイで会社に出て来てはいけなかったのです.

私が大学に居た頃のことですが、子どもが挨拶をしないので大学で教えて欲しいと父兄から言われました.そんなことは大学で教えることではありませんが、仕方が無いので、1年生に、「大学に来たら、ちゃんと先生に挨拶しなさい」と言うと、1年生は入ったばかりですから、誰が先生だか分からないと言います(笑).私も「なるほど」と思って、咄嗟に「ネクタイをしている男の人を見たら挨拶しなさい」(笑)と言ったのですが、やがて女子学生が来て、「大学の先生は誰もネクタイをしていないので、挨拶しなくてもいいのですか」(笑).

もちろん、生物社会学の専門家なんてどこにもいないのですから、それに関する質問が出てきたら、それに対して、講師の先生が答えるというより、質問された方も一緒になって答えを探す.そういう種類の問題もあるように思います.

では、このところ恒例になっている私から講師として来て頂いた先生への質問をしたいと思います.先ず、林先生への質問です.コラーゲンは栄養医学的に役に立つと仰いましたが、植物繊維は栄養にならなくでも食べなければいけません.コラーゲンは動物性繊維ですが、植物性繊維と同じような意味での重要性はあるのでしょうか.

それから、福井さんには、メーキャップに使用されている粉が何でできているかをお聞きしたいと思います.そういう素材は、我々が日常使っているものとかなりかけ離れているのではないかと思うからです.遺伝子加工した食品に対しては非常に反発が強いのに、化粧品に対する反発はほとんどありませんね(笑).

三井: 今のご質問に対するお答えは休憩の後でしていただきます.

好熱菌が化粧品に使われているという話を大島先生からお聞きして、インターネットで調べましたら、アメリカのキールズという化粧品会社が、アビシンという菌の成分を使った化粧品を出していることが分かりました.早速買い込んできた実物がここにあります.菌の培養液を使っているということでしたので、あの臭いものがどうして化粧品になるのだろうと思ったのですが、これは良い匂いです.買ったときに、いきなり顔に付けないで、手首の辺りで試してくださいと注意されました.皆さんもどうぞ気を付けて試してみてください.それでは、ここで少し休憩をとります.

(休憩)


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Last modified 2010.05.26 Copyright(c)2005 The Takeda Foundation. The Official Web Site of The Takeda Foundation.