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第16回レポート
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第16回リーフレット

第16回 カフェ・デ・サイエンス


講師:  大島泰郎(おおしま・たいろう)
ゲスト講師:  富田勝(とみたまさる)
日時:  2007年12月8日



異端児のみる生命 「生命の設計」 BACK NEXT

三井:後半を始めます.先ず、大島さんに口火を切って頂くことにします.

大島:「生命の設計」というタイトルを選んだ第一の理由は、私が関心を持っている生命の起源や進化に関係してくるからです.もう一つの理由は、「生物は非常に良く設計された理想の機械だ」と言われていることに、私は「そうじゃない!」と常々反発しているからです.ただし、生物を機械として見た時に、全部が不合理だと言っているわけではありません.テクノロジーの立場から、真似しても良いと思うような事はもちろんあります.

例えば、怪我をすると傷口の血液が凝固します.そこで、怪我をしていないときに間違えて凝固しないように、言わば、鍵を何重にもかけて簡単に開かないようにしています.そういうやり方は非常に多い.人間は、?々、99.99%の確率で、一回で鍵を開けようとするから、実は、そのほんの僅かなところで事故が起る.それよりも、90%くらいの精度で何回も重ねるという技術は、生物を真似て良い技術だと思っています.

これからの話は、冨田先生への質問も兼ねています.我々の細胞でグルコースを全部燃やしてもいいとすれば、最大限のエネルギーが得られるはずですね.ところが、グルコースをバケツリレー式に酸化するものですから、本来引き出せる量の40%程度しかエネルギーを使えない.これは、機械として非常に劣っていると思います.冨田先生の細胞はコンピュータ上にありますから、これを改良できるはずだと思います(笑).100%とは言いませんが、エネルギーの獲得効率が60%程度の細胞を作れないでしょうか.コンピュータ上で、そういう進化ができるのかどうか、それを是非伺ってみたいと思います.

これも冨田先生への質問です.「127遺伝子の細胞」は、生命の起源にも関係するのではないかと思っています.そこで、私の質問は、「その細胞ができるまで、冨田先生は何回位失敗しましたか」(笑).生命の起源は、試行錯誤を何回も繰り返していって、長い間の積み重ねで増殖できる細胞が生まれたと思うものですから、大昔の地球上での失敗に準えた質問で、「生命の設計」に対する関心の糸口になったらと思います.

冨田:一番目の質問は「理想の細胞」ですね.大腸菌の主要な代謝系をシミュレーションすることができましたので、どこをどう変えたら効率が良くなるかとか、遺伝子を追加して何かを作らせるにはどうしたらよいかとかいうことは、コンピュータ上で網羅的に全通り検索することができます.パラメータをいろいろと変えて、良い奴を選び出すことは可能ですので、是非やりたいと思っています.

二番目の質問ですが、プログラムは皆で手分けして作ります.それを持ち寄って、一つのプログラムにして動かすわけですが、最初、完成したはずのプログラムを動かしたら、グルコースはたっぷりあるのに、3秒で死んでしまいました.要するに、どこかにバグがある.「誰が間違えたんだ?」とか(笑)言いながら、しばらくすると、「解糖系の3番目の酵素が全然動いていない!」となる.その担当者が、そのとき偶々、スキーに行っていたりして(笑).そこで、合宿したのです.逃げ出せないように、アメリカで(笑).約6週間かけて作りました.途中、テニスもやりましたけど.(笑)

三井:2005年のカフェ・デ・サイエンスで「脳とコンピュータ」をやったときに、機械は間違えないけど、人間は10回に1回は間違う.コンピュータにもそういう性能を持たせたら人間に近づくのではないかという話が出たのですが、その辺はどうでしょうか.

冨田:コンピュータに高級なことをやらせるときには、ファジーな手法を使いますので、たまに間違えます.カーナビに付いている音声認識でも、イライラすることがありますね.喋っているのに認識してくれなかったり、チェスのプログラムも負けますし、将棋のプログラムも負けます.

S:私もコンピュータをやっていますが、コンピュータに完璧なことをやらせようとするから、人間と違うのではないかと思っています.先程の「国際会議への申込み」でも、レストランのことを聞かれたら、自分で答えずに、「それはどこそこで聞いて下さい」と振ればいいわけです.人間をコンピュータにしようとしたら、スーパーコンピュータを40億台くらい並べて、お互いに情報交換させて、30年間ブラッシュアップしながらロングランをして、やっと一人のアインシュタインみたいなコンピュータができるのではないかと思います.しかし、アインシュタインみたいなコンピュータができても、相対性理論は分かっても、自分の家の電話番号は覚えられない・・・(笑)

E:今言われたことは少し違うのではないかと思います.コンピュータの場合はデジタルの[0、1]の世界ですから、二つしか選択肢がありません.人間の場合も究極のところはデジタルなのでしょうが、当面の選択肢がたくさんあるのでアナログになる.そのときの選択を間違ったと称しているだけで、コンピュータが正解を与えるという認識そのものが間違っているのだと思います.

S:私も、そう言いたかったのです(笑).一台のコンピュータで全て正しい答えを出させようとするほうが間違いではないかということです.

三井:常々、コンピュータは絶対に間違えないと思われているのが不思議でした.ところが、コンピュータが正しいかどうかを検査する方法があるそうで・・・.

S:というより、正しい範囲でできる範囲でしかやらせていない.それでも間違い.(笑)

大島:また質問です.冨田先生が作った細胞でゲームができませんか.プレイヤーが自分の好きな箇所にミューテーションを入れて、どこに変異の起った細胞が先に餓死するかを闘わせたらどうでしょう.(笑)

冨田:生存競争をさせるのは簡単です.複数のバクテリアを入れて二日くらい培養すると、強い奴は増殖速度が速いので、他をやっつけてしまいますね.それは面白いのではないでしょうか.買うかなぁ.(笑)

S:増殖し過ぎると、そこで全滅するのではありませんか.

冨田:定常になると思います.

G:現在のシミュレーション・システムでは、まだ分かっていない物質間の相互作用について、何か処置が施されているのでしょうか.つまり、もしも相互作用があれば、この程度の大きさだろうというところまで組み込まれているか、あるいは、これとこれがあれば、その間で相互作用することが予測できるというレベルまでなのか.もう一つの質問は、均一系として扱っておられるのか、あるいは、物質の分布構造があるという立場でやってらっしゃるのか、その辺のことを伺いたいのですが.

冨田:最小単位の代謝反応は酵素反応で、酵素が、Aという物質をBという物質に変換する.基質Aがたくさんあれば、Aを捕まえやすいので、酵素の処理が速くなる.酵素の量が多くても速くなります.それから、Bの量にも依存します.Bがたくさんあると、Bを作ることができなくなるのがよく分かります.また、Cという全く別の物質が酵素にくっ付くことによって、反応速度が変わったりしますので、Cにも依存する.たった一個の反応でも、かなり複雑ですね.それを適切なスピードで再現する為には、データをたくさんとって、酵素の振る舞いを決めなければいけません.そこで、定量的なデータが必要になります.

G:Cが酵素にくっ付くことを事前に知らなかった場合でも、Cを扱うことができるのですか.

冨田:細胞内に存在する全ての代謝物を一斉に測定する技術を開発しましたので、ある酵素の反応を見るときに、AやBの量だけでなく、その他のC、D、E、F、G・・・といった量も分かるわけです.そのようなデータが何千とあれば、「Cという物質が多いと、この反応が進まない」ということを掘り起こす可能性はあります.

N:細胞の中にある化合物が反応するには、ある程度の量が必要だと思いますが、特定の量あるいは数になったときに反応が起る確率といったものはプログラムに入っているのですか.

冨田:転写因子がDNAのとある箇所にくっ付くという反応では、DNAは一分子だけですね.その場合は生化学で使われている数式は使えなくなって、モンテカルロ法のような確率的な方法でやらざるを得ません.もの凄く時間がかかりますけど.

三井:冨田さんの細胞は、二次元的なものでしょうか.それとも、三次元的なものでしょうか.

冨田:二次元です.

X:二体問題は解けるけれども、三体問題は解けないという、多体問題というのがありますね.細胞内物質の間にある多体問題をどのように解決しているのでしょうか.また、シミュレーションした結果が真かどうかという評価は、どのようにするのでしょうか.

冨田:"E-CELL System"では、一つ一つの酵素反応を再現しているのであって、連立方程式を解いているわけではありません.ある酵素があったら、Aの量をみて、Bの量をみて、実際に単位時間内で起るであろう反応を起こすために、Aの量を減らしてBの量を増やすというような計算を、先ず、そこにある全ての酵素の1ステップ目の反応について行います.その次のラウンドは2ステップ目です.約1ミリセカンドを1ステップにして、1000回繰り返して1秒という具合です.常に何かが起っていることになります.

O:二体問題は解けるけど、三体以上は解けないと仰いましたが、N体問題でも、答は必ず一通り決まります.二体問題の場合は、エネルギー保存と運動量保存だけで、完全に軌道が決まる.しかし、三体問題の場合は、その二つだけでは決まらないので、予測出来ないような軌道になる.世の中の問題は、ほとんどがそうです.人間だって、二人の関係は簡単だけど.(笑)

Y:冨田先生の作った細胞は分裂しないということですが、今後、分裂して分化して行く細胞を作られる予定なのでしょうか.

冨田:細胞分裂を再現することが非常に重要だということになれば、そのシミュレーションのための研究をしますが、今のところは、他に関心事がありますので.

Y:細胞に必要ないものをどんどん切り落として、ミニマムな細胞を作るというプロジェクトがありますが、それについてはどのようにお考えでしょうか.

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